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第31話 その正体は

 亜人種族の拉致や殺害の実行犯を捕らえた俺達は、そいつ等を拷も……尋問して、可能な限りの情報を聞き出す事にした。


 パイルとシーニャの尋問で今のところ分かった事は――

 亜人種族の拉致はガットランド王国と中央聖騎士団が行っている。

 その命令を出しているのがガーネリアス教会の司祭である。

 司祭から理由は聞かされていないが「人柱にするらしい」と噂されている。

 城塞内で行動しているグループは(捕らえられた)自分達だけ。

 ランデール領内全域だと複数のグループが行動してるが、実数は知らない。

 城塞内で拉致してガットランドへ送った亜人種族は十三人。


 取り敢えず、捕らえた亜人種狩り実行犯の五人と、死体になった一人を馬車に放り込む。その名の通りポイポイと馬車の荷台に放り込んでいく。

 呪縛を掛けておくと声が出せないので、こういう時にも都合がいい。


「さて、何から始めるべきか……」


「コイツ等の死体をガットランドのガーネリアス教会に送りつけるのはどうだ?」


 この後どうしようかと思い呟くと、グレッグがしれっと提案してきた。


「死体を送り付けてどうするんだ? 余計に亜人種狩りが酷くならないか?」


「あぁ、それはあり得るな。ダメだ」


 亜人種狩りをしている実行犯の死体を送り付ける事によって、相手が怯んでくれるのなら良いが、逆に亜人種族に対する暴挙が激しくなる危険があるだろう。

 それならば、コイツ等を生きたまま利用する手立ては無いものだろうか。


「それなら、俺とターナスが顔を売れば良いんじゃないか?」


「どういう事だ?」


「つまり――」


 グレッグの考えとして、亜人種族狩りをしている実行犯が何者かに返り討ちにされている。それが亜人種族を擁護している人間族の仕業であると知れば、一先ず返り討ちを警戒して敵(俺達)を探そうと矛先を変えてくるのではないか、と。

 仮に矛先を変えられないとしても、俺達への対応策として人手を割かなければならないだろうから、愚行は減少するのではないかと言う。

 それに、今でも人間中心主義に意を唱える人間族は多くいるが、表立って戦争を仕掛けるようなマネはせず、あくまでも『ラダリア教の教えとして異種族共存を望んでいる』という立場を提示しているだけだという事。

 そこに敢えて人間族の中にガーネリアス教――人間中心主義に宣戦布告する者がいると知らしめるのはどうだろうか……と言うワケだ。


 それならば……もう俺の正体というか、目的を話しても良い頃なのか。


 考えあぐねていると、ハースが近寄ってきて声を掛けてきた。


「ターナス様、お悩みですか?」


「ん……ああ、ちょっとな」


「私が手伝える事ですか?」


「いや……俺自身の問題でな」


 ハースが少し物寂し気な顔をしてしまった。


「ハース……それに皆にも言っておこうかと思う」


 一斉に皆が注目する。


「こんな事を言って信じて貰えるか分からんが、俺はこの世界の人間じゃない。別の世界で死んで、創造神ラダリンス様から『この世界で人間中心主義から迫害されている亜人種族を救って欲しい』と頼まれて、ある能力を授かって転生させられたんだ」


 皆、何も言わずに聞き入っている。


「俺は死神として、悪魔の能力『最強種の悪魔(デアボロス)』を授かった。それはアレーシアやハースなら分かってると思うが、常識では考えられない能力が使えるって事なんだ」


 暫し沈黙が続く。

 そして、アレーシアが最初に口を開いた。


「なるほど、そうでしたか」


「驚かないのか?」


 然程驚いた様子もなく、平然と反応するアレーシアに俺の方が驚く。


「転生人だと言うのは驚きましたけど、能力に関しては人外だと思ってましたから。魔族じゃないなら何なんだ? って感じですよ」


「あの、その。ターナス様は救世主様ですから、凄いのは当たり前です」


 ハースも、別の世界から転生したと言うのを理解しているのか否か分からんが、アレーシア同様に驚く事も無く、逆に当然の事の様に思ってるらしい……が、<宵闇の梟>の面々はやはり違うようだ。


「ま、まぁ、確かに……な。魔族じゃないなら何なんだ? ってのは思ったが……転生人……それも、ラダリンス様から……頼まれた? まぁ、そうだな。人外だなとは思ったけどさ」


 グレッグの動揺も激しいが、パイルとシーニャは言葉なく唖然としたままピクリとも動かなくなってしまった……のだが、パイルが突然片膝を付いて頭を下げてしまった。


「ど、どうした?」


「ターナス様……いえ、タナトリアス様。お会いできて光栄で御座います」


「ちょっと待ってくれ。一体どういう事だ?」


 突然のパイルの言動に慌てていると、シーニャも何かに気付いた様にパイルの横に並び片膝を付いて頭を下げた。

 それを見たグレッグが何かを思い出したように口にする。


「ターナス……タナトリアス……そうか!」


「グレッグ、どういう事だ⁉」


「タナトリアスってのは確か、ガーネリアス教の教典に出て来る死神の名だ。人間族にとっては死を齎す恐怖の存在。だが逆に亜人種族にとっては、抑圧からの解放を齎す救世主と言われてるんだよ」


 そう言えば……巨躯猪(ギガントエーバー)を狩った時にいた怪しげなローブの男達。アイツ等も俺のことをタナトリアスと言ってた様な気がする。

 あの時は名前を間違えてただけだと思ったが……。


「ターナス様、やっぱり……やっぱりターナス様は救世主様で間違いなかったんですね!」


 ハースが両膝を付いて俺を拝みだしてしまった!


「止めてくれハース、確かに俺は死神で間違いないが、お前達にそんな風に接して貰いたくはないんだ。パイルもシーニャも顔を上げてくれ」


 いや待て。こんな話はラダリンスさんから聞いてないぞ。

 確かに、人間にとっての死神としての存在だとは言われたけど、亜人種族にこんな言い伝えがあるなんて言ってなかっただろう。

 それとも……その場で勝手に名付けられたターナスって名前も、ラダリンスさんはタナトリアスの存在を知ってたから捩って名付けたのか……?


「ターナスよぉ、良いんじゃないか? 俺から見てもターナスは人間離れしてるって分かるし、確かに人間族からしたら死を齎す存在ではあるが、俺やアレーシアに対してそんな気配は一切出してないだろう? 昨日今日知り合ったばかりだけどさ、ラダリンス様がお前さんに託したってのも分かる気がするよ」


「グレッグ……」


「ターナス様、私も同感です。最初に助けて頂いた時に『これはヤバイ存在かも』とも思いましたけど、亜人種族や亜人種族に好意的な人間族に対しては、とてもお優しい方だと分かりましたから」


「アレーシア、ちょっとヤメテ! それ以上言わないでくれ。正直ムズイ……」


「まぁ何れにせよ、ガーネリアス教に喧嘩売るんだし、どの道人間中心主義を教義とする連中とは全面戦争するんだろう? だったら、警告として死神の存在を知らしめておくのも一つの手だとは思うけどな」


 そうだな。遅かれ早かれこうなる事は分かっていたんだし、俺が異世界からの転生者であり、尚且つ死神としての任を与えられていると分かっても、こうして接してくれる連中がいるんだ。


「人間中心主義の連中を恐怖に陥れてやるか」 



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