第29話 コスプレ作戦です!
2時間程度の仮眠を取ったあと、俺達は身支度を整えて部屋を出た。
身支度……そう、俺は猫獣人のコスプレをしている。
流石に耳はどうにもならないので、変装用に買ったコートのフードを頭から被っている。勿論、アレーシアも同じだ。
そのアレーシアは狐の尻尾を付けて、狐獣人に変装しているワケだが……
これが何と言うか、意外と似合うと言うか、狐娘のコスプレ……結構可愛いじゃないか。
「そんなにジロジロ見ないくださいよ」
アレーシアが少し口を尖らせて言うが、ジロジロ見てたか?
「アレーシアさん、カワイイですよね。ね、ターナス様!」
「そうだよな。可愛いよな」
「バカ言ってないで、宿を出るまでは尻尾は隠して下さい」
おお、照れた照れた。ランプの薄明りじゃ顔が赤くなってるかまでは分からないけど、アレは絶対に照れてるな。
ハースと二人でニヤニヤしてたら、二人ともアレーシアに頭を叩かれてしまった。う~ん、立場が逆転してないか?
何時までもからかってるワケにもいかん、尻尾の先を紐で結んで腰に巻き付けた上にマントで隠す。
アレーシアも同じ様に尻尾の先を紐で結び、腰に回して巻き付けて固定した。
流石に狐の尾はボリュームがあるので、マントが少し膨らんでしまうのだが、宿を出るまでだから仕方あるまい。
「グレッグ、俺だ」
自分たちの部屋を出てグレッグの部屋をノックすると、スグに扉が開けられた。
「こっちも準備出来てる、何時でも行けるぞ」
既にパイルとシーニャもグレッグの部屋に来ていた。
因みに、彼ら<宵闇の梟>は男女に分かれて二部屋取っていた。それが普通だと思うのだけど、ウチは財布を節約家のアレーシアが握ってるからな。
「よし、では行くか」
宿屋の受付には誰もいない。宿屋は前金だから、出立はご自由に――というスタンスなのだろう。
まだ真っ暗な外へ出ると、囮組の俺とアレーシア。見張り組のグレッグ、パイル、シーニャ、ハースに分かれてそれぞれ行動を開始する。
腰に結んだ紐を外しダランと下に垂らすと、フードを目深に被って歩き出す。
ランタンの僅かな明かりで足元を照らしながら、ゆっくりと通用門へと向かって歩いて行く。
索敵範囲を周囲500メートル程度に広げておくと、屋根伝いにグレッグ達が後を追ってくるのが分かる。
そして、それ以外に殺気を放つ影が六つ――
此処から通用門まで数回角を曲がるのだが、その内二回目の角を曲がって数メートル、三回目の角の影。
なるほど二段構えで待ち受けているワケか。
「アレーシア、二つ目の角を曲がったら準備しておけ」
「……はい」
グレッグ達……索敵ならパイルか。
距離的には直線にして150メートル程だが、彼女の索敵可能範囲は直線で500mは無理だった様だが、この程度なら可能だと思いたい。
一つ目の角を曲がる。
アレーシアの緊張が高まっているのが感じ取れる。
そして、グレッグ達にも緊張が高まった様だ。つまり、パイルが索敵で察知したという事で間違いないだろう。
「敵が出て来てもスグには斬るな。それとなく抵抗しつつ捕まる振りをする」
「分かりました」
数十メートル歩き二つ目の角を曲がる。
隠れている三人は動かない。
これは通り過ぎた所で後ろから捕縛するつもりなのだろう。
連中三人が隠れている場所を通り過ぎて数メートル進むと――出てきた。
気配を殺してるつもりだろうが、後ろからソロソロと忍び寄って来るのが丸分かりだ。
その時、後ろの連中が声を上げた。
「今だ、捕らえろ!」
その声に反応して俺達も振り返り、驚く振りをした。
口元を布で隠した男三人。恰好は冒険者の様に見える。
その連中の一人が、縄の両端に球の付いた投擲器を俺に向かって投げてきた。足に絡ませて動けなくするつもりだろう。
「うわぁっ!」
連中の狙い通り、両足に投擲器を絡ませてやって倒れると、すぐさま俺の上に馬乗りになって両手を後ろ手で縛り上げてきた。
「そっちの狐にもやれ!」
アレーシアも俺と同じ様に投擲器を投げられ、しっかりと両足に絡ませてやっていた。
同じ様に後ろ手で縛られ、猿ぐつわを咬ませられる。
「よし捕らえたぞ! 後方部隊へ連絡しろ!」
「はっ! ピュイ、ピュイ、ピュイ」
一人が指笛を鳴らすと、三つ目の角で待機していたであろう連中が、一人は馬車で、二人が駆けてやって来た。
「猫のオスと狐のメスだ。さして抵抗も出来なかったから、冒険者としても大した等級ではないだろうが、まあまあ其れなりには役に立つだろう」
「よし馬車に放り……ッ、誰だ⁉」
俺とアレーシアを放り込もうとしたのか、乗せるんじゃなくて放り込むのか、コノヤロウ。
ところがその前に、グレッグ達のお出ましだ。
「その二人を離してもらおうか」
「貴様、邪教徒か?」
「邪教徒はお前等だろう。人間中心主義なんてクソみてぇなモン信仰しやがって」
「亜人種は我等人間族の為に存在するのだ! 神を侮辱する気か!」
「誰が亜人だって?」
縄なんぞ引き千切るどころか、微粒子にして消してやったぞ。
「き、貴様……獣人では……⁉」『呪縛』
冒険者を装った六人の男達を呪縛で封じてしまう。
「おいおいおい、これってターナスの魔法か?」
「ああ、そうだ」
「魔族じゃないのに魔法が使えるって、本当だったんだなぁ」
「まぁ、色々訳ありでな」
色々説明するのが面倒だけど、これはグレッグだけじゃなく、ハースやアレーシアにも説明しておいた方が良いのだろうか。
まぁそれは兎も角として……だ。
捕縛した連中をこの場から移動して尋問するとしよう。
連中が持って来ていた馬車にこいつ等を放り込み、俺達もそれぞれ乗り込む。
御者はパイルに頼み、人目に付かない城塞の外へ出る事にした。
城塞を出て少し行った所で街道を外れ、草木が茂っていて見通しの悪い場所へ馬車を突っ込ませた。
呪縛で拘束したまま身動き出来ない連中を馬車から降ろし、その場へ転がす。
「これから質問する事に正直に答えろ。嘘、偽り、黙秘、如何なる抵抗も許さん。勿論、抵抗すればそれだけ罰を与える。どんな罰かは……その時のお楽しみだ」
こちらを睨みつけている連中の中から、一人だけ選んで首から上だけ呪縛を解いて尋問を始める。
「質問。お前達はガーネリアス教会の関係者か?」
「……」
俺の質問に十秒程沈黙が続いたので、俺はグレッグに目配せをした。
徐に質問した男に近付いたグレッグは、ショートソードを抜いて男の鼻先に突きつける。
「もう一度聞く。ガーネリアス教会の関係者か?」
男は無言のまま顔を背けた。
グレッグはショートソードの切先を男の襟首に持って行き、一気に男の来ている服を切り裂いていく。
すると、男の首に掛かるネックレスが目についた。
「ネックレスはガーネリアス教のシンボルだな」
グレッグはネックレスを剣の切先で持ち上げると、そのまま引っ張って引き千切ってしまうと、男に向かって言葉を放った。
「はい、罰を与えます」
そう言うと左手で男の手首を握って掲げ、右手で男の指を掴んで手の甲側へ思い切り倒した。
「うぎゃああああ――――!」
「あんまり大声出すなよ、みっともねぇ。んじゃ次のヤツいくか」
グレッグは俺に目配せをしたので、その男を再び呪縛で喋れない様にして、今度は別の男の呪縛を首から上だけ解く。
グレッグはそのまま次の男へ尋問を始めた。
「お前等がガーネリアス教徒なのは分かった。で、何処から来た。トラバンストか?」
「……」
「ガットランドか?」
「……!」
「グレッグ、そいつの目が一瞬泳いだぞ」
「なるほど、ガットランド王国か。あちこちから亜人種族を攫ってるらしいが、目的はなんだ?」
「……」
「言う気は無いよなぁ。それじゃあ――ほっ!」
「うがあぁぁぁぁぁあ!」
今度は腕を折った……。結構、グレッグもエグい性格してるかも。
「さて、次の人は何処まで喋ってくれるかなぁ?」
グレッグの言動にアレーシアとハースは若干引き気味だが、パイルとシーニャは意に介さずと言った様子で平然としている。
もしかして<宵闇の梟>って、何時もこんな事してるのか?
俺は二番目の男を再び呪縛して残りの連中に顔を向けると、一人の男が頻りに瞬きしているのが気になった。
もしかしたら何か言う気になったのかもしれない……と思い、今度はそいつを喋れる様にすると――
「ガ、ガットランドだ、ガットランドから来た。ガーネリアス教会の司祭からの指令で亜人種族を集める様に指示されてるんだ」
ようやく切っ掛けが掴めたのか。