第28話 パワーアップ再び
近くに別の双剣猫がいない為、代替に狐の尻尾を使おうと伝えるや否や、グレッグは一瞬のうちに飛び出して行ってしまった……のだが、あっと言う間に帰ってきた。
「ほら、狐の尻尾だ」
「ああ、助かる。それにしても早いな」
「俺は『神速』と呼ばれてるからな。魔法の瞬間転移には敵わないが、駆ける速さなら着いて来れるヤツはいない」
「それは凄いな」
「いやいや、だから……瞬間移動には敵わないって言っただろ? その瞬間移動を使えるターナスの方が凄いんだって」
「まあ、俺はあらゆる面で反則級だろうけどな」
「自分で言うか⁉ そもそも急に俺達の前から消えたから、最初は全く理解出来なかったんだぜ?」
グレッグはオーバーに肩を竦めて口にするが、俺が移動した直後にアレーシアは相当な質問攻めに遭ったらしい。
ぶつぶつと「非常識」だの「いつもああ」だのと愚痴を聞かされるハメになってしまった。
「魔法が使えるのに、魔族じゃないんだって?」
「ああ、そこら辺は何時か話せる時があるかもしれんが、今は取り敢えず『そういうヤツ』だと思っていてくれ」
「ハハハハ、了解した」
グレッグは自分の強さを引け散らかす事もないし、初対面の相手に対してアレコレと詮索する事もない。
結構イイヤツなのかもしれないな。
「早々に終わったし、城塞に戻って準備に取り掛かるか?」
グレッグの発言にアレーシアとハースが待ったを掛けた。
「双剣猫は尻尾だけ持って帰るのは勿体ないわ。牙と毛皮も回収しましょ」
「まあ時間もあるし、いいんじゃないか」
「じゃあさっそく」
そう言うが早いか、二人とも自前のナイフを取り出して双剣猫の解体を始めたのだが、これもまたグレッグ達には驚きだったようだ。
「何だよ、そのナイフ」
「めちゃくちゃ良く切れますね。私も欲しい、どこで買った物なんですか?」
「……欲しい」
「二人のナイフは俺が手を加えた物だから、元は市販品なんじゃないか?」
俺が施術して切れ味を良くしたのだと言うと、パイルとシーニャの目が光ったような気がした。
これは……何時ぞやのアレーシアと同じだな。
「……折角だから、やってやろうか?」
「「お願いします‼」」
知り合ったばかりなのに色々と手伝ってくれた恩もあるし、この位やってあげてもいいだろう。
パイルとシーニャからナイフを預かり、それぞれブレードとエッジを修復しつつ研磨とコーティングを掛けておく。
これで切れ味はハース達のナイフと同等になった。
グリップは既に馴染んでいるだろうから、敢えて加工しない方がいいだろう。
「なぁ、ターナス。それって、剣にも出来るのか?」
ヤッパリキタ――――ッ!
「ああ、出来るぞ」
「……頼んでいいか?」
グレッグは遠慮気味に「頼んでいいか?」と言ってるが、その笑顔は「俺のもやってくれるよね?」という圧が込められている気がするのだが?
「しょうがねぇな。サービスだ」
結局、グレッグのショートソードも強化施術してやる。
それと、ここまでやったらシーニャの鉤爪もやった方が良いと思い、ハースと同じ様に実際に装着した状態で補正と修復&強化加工を施してやった。
そんなこんなで三人の持ち物を施術してやっているうちに、双剣猫の解体も終わったので城塞へ戻る事にする。
城塞に戻った俺達は宿屋を探す事にしたのだが、グレッグが自分等の泊っている宿屋に空きが無いか聞いてみようと言い出したので、一緒に付いて行く事にした。
幸い、部屋の空きがあったので三人一部屋で頼んだ。
そして、狩ってきた双剣猫と狐の尻尾を俺とアレーシアの服に取り付けたら作戦会議だ。
「さて、では作戦を立てるとして……誰か案はあるかな?」
俺の問いにグレッグとパイルが続ける。
「獣人族に偽装して襲わせるワケだから、夜明け前に獣人族が歩いていてもおかしくない場所。冒険者なら宿屋から通用門へ続く道――」
「それに私達がターナスさん達を見張れる場所がある事ですね」
「宿屋街から通用門へ行く途中に行商人用のマーケットがあるだろう、あそこなら大通りに馬車を置いておけば、通路一本で行き来出来るし、屋根伝いに張れるし……どうだろう?」
「問題ないと思います。あとは襲撃犯と上手くかち合えればいいのですけど」
「そこは賭けるしかないな。とは言え、ここ二日は何も無かったからな。おそらく奴等も次を狙ってるはずだ」
「それじゃあ、今夜決行でもいいって事か?」
グレッグとパイルの話の流れを聞いて、俺は今夜……と言うか明日未明に行動を起こしても大丈夫だろうと判断し聞いてみた。
「ああ、やってみよう」
というワケで、今夜作戦結構となった。
それからは俺とアレーシアが変装して歩く場所と、グレッグ達が見張りながら隠れる場所を相談し、それぞれの持ち場と手順の再確認等々をしていると、すっかり外は暗くなっていた。
「今日は宿屋の食堂で食うか」
「そうですね」「賛成」「ああそうしよう」「ですね」「(コクリ)」
俺の意見に皆同調してくれたので、一階の食堂へ降りて行った。
「そう言えば……ターナスさん達のパーティー名って何ですか?」
「パーティー名? いや、無いぞ」
パイルに言われて気付いたが、そもそも俺とハースとアレーシアはパーティーと呼べるのだろうか?
ハースは同行者でアレーシアは案内人……? パーティーとは違う気がする。
「因みにですけど、私達は<宵闇の梟>というパーティー名です」
「それは何か意味がある名前なんだろうか?」
その問いにはグレッグが答えた。
「もともとパイルが所属していたパーティーが『宵闇の月』と言って、俺がいたのが『月下の梟』というパーティーだったんだ。パイルのパーティーは中央聖騎士団との戦闘で壊滅。俺んトコはダンジョンから帰還した後で盾役と弓使いがビビって抜けちまったら他のメンバーも辞めちまってな。暫くは単独で活動するしかないかと思ってた時に、パイルと知り合った。そんでお互いの名前を組み合わせただけだから、特に意味も思い入れも無いんだよ」
「パーティーとして名前を付けて登録した方がいいのか?」
ふとアレーシアに向いて聞いてみると、アレーシアは頷いてから答えた。
「例えば、二等級探索案件があったとすると、個人ならば二等級以上でなければ案件を受けられませんが、パーティーならメンバーに一人、二等級冒険者がいれば、他のメンバーは三等級でも四等級でも受けられるんです。他にもメンバー全員が同じ等級だった場合は、二等級格上の案件を受ける事が可能になります。尤も、失敗したら結構な違約金がありますからね。普通は一等級格上までしか受けませんけど」
「ふぅん、なるほどね」
「ターナス様は冒険者登録しない方がいいですよ」
「何故だ?」
「……色々と面倒な事になりそうなので」
「面倒ってオマエ……」
その冷たい眼つきで見るのヤメロって。
「アレーシアの言う事にも一理あるんだ。俺だって自慢じゃないが、一等級として認められるだけの実力はあるんだぜ。でも一等級にならないのは面倒事が増えるからだ」
「例えば?」
「一つ、指名依頼が増える。まぁこれは稼ぎが増えるから悪い話じゃない。二つ、強制参加案件がある。これは特に国や領主といったお偉方からの依頼になるんだが、どんなにヤバイ案件でも断る事が出来ない」
「それは確かに面倒そうだ……」
「ああ、だから大抵は二等級で止めておいて、一等級の試験は受けないのさ。尤も、特等級冒険者を目指すなら別だけどさ」
「特等級になるメリットは?」
「騎士の称号と、小さいながらも土地が貰えるってことくらいかな。でもそうなると国家に縛り付けられるからな。自由を取るか名誉を取るか……だよ」
「なるほど、そいつは遠慮したいな」
「だろう」
少しばかりの笑い話で緊張感も解れたか、皆一様に肩の力が抜けたようだ。
食事も進み、俺達は未明の作戦実行に備えて僅かばかりだが仮眠を取ることにして部屋に戻った。




