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第27話 即興ペア

 双剣猫(サーベルキャット)の尻尾を求めて、ランデール城塞から少し離れた岩山へと向かう。


 双剣猫は大きさが「大人が両腕を広げたくらい」と言うから、体長1.7m前後ってところかな。

 岩陰に潜んで獲物となる山羊や狐を狩るそうだが、狩った獲物はその場で食べずに岩山の陰に隠して食べる習性があるのだそう。

なので、警戒心が薄くなる食事中を狙うのが一番楽に仕留められる方法だと言う。

ただし、逆にその方法が「一番発見率が低い為にほぼ無理」とはグレッグの弁。


 ランデールの住人からは単に岩山と呼ばれているが、正式には『ワイニー山』という名称なのだとパイルに教わる。

 そのワイニー山の麓に着いた俺達は、さっそく双剣猫探しに取り掛かった。


 まずは俺が索敵を巡らせて物体を探すと――

 スグにそれらしい影が引っ掛かった。


「あの辺りに一匹、それらしいのがいるな。少し離れて小さい影があるから、もしかしたらハンティング中の個体だったりするか?」


「此処から分かるのか?」


 俺が岩山の中腹辺りを指差して、索敵で引っ掛かった物体の居場所を言うと、グレッグはその索敵能力に驚いた様だ。


「ああ、分かる。ただ、それが双剣猫かまでは分からないけどな」


「いや、それでも大したもんだろう。なあシーニャ、お前は此処から分かるか?」


「無理」


「……だってよ。索敵に長けたシーニャでさえ、この距離じゃ感知できない」


 ほう、シーニャは索敵能力に長けているのか。

 豹族と言うくらいだから狩猟を得意とする種族なんだろうな。


「グレッグさん。ターナス様の能力は常識を逸脱してますから、驚いてるとご自身の身が持ちませんよ」


 アレーシアの目が……冷たい。


「確かに常識からは外れてるよな。まあ、こっちとしてはそういうのが仲間にいるのは頼もしいさ」


「それじゃあ俺が仕留めてきていいかな?」


「私にやらせてください」

「わた……えっ?」

「……⁉」


 俺が行こうとしたらハースが挙手して立候補してきた……のだが、同じく立候補しようと声を上げたシーニャが、驚きのあまり声を詰まらせてハースを凝視している。

 パイルに至っては声も出せずに、驚愕の眼差しをハースに向けて固まってしまっている。


「えっと……ハースちゃん? 流石に君には危険だと思うよ?」


 グレッグもシーニャやパイルと同じく、まだ冒険者登録も出来ない子供のハースが双剣猫を狩るなんて、考えられないのだろう。

 正直なところ、俺も「出来るのか?」という思いがある一方で、「ハースなら出来ちゃうんじゃないか?」という気持ちもあるんだよなぁ。


「あぁーっと、どうだろう。もしよければシーニャとハースでやってみるってのは」


 流石にハース一人で初見の双剣猫と対峙させるのは不安なので、ここは経験者だと思うシーニャと組ませてみたら……という妥協案だ。


「いや、ターナスお前、ハースちゃん大丈夫なのか? 野獣を討伐した事があるとは聞いたけど、流石に双剣猫みたいな猛獣じゃないんだろ?」


「ハースが狩ったのは山岳狼(マウンテンウルフ)巨躯猪(ギガントエーバー)なんだよ。まぁ、ハース一人じゃなくアレーシアと一緒だけどな」


「「「山岳狼と巨躯猪……⁉」」」


「ええそうよ。巨躯猪はハースが最初に一撃を与えて、弱ったところを私が仕留めたの。山岳狼に至っては三頭出現したんだけど、ハースは一人で山岳狼一頭を仕留めてるのよ。それも一撃でね」


 驚く三人にハースの戦績を解説するアレーシアだが、殆ど追い打ちをかけるような言い草なので、尚更三人は驚いてしまったようだ。


「弓使いなら山岳狼を仕留める事も出来るだろうけど……ハースちゃんは近接戦だろ? 猫獣人族の冒険者でも四等級でないと、近接での単独討伐は難しいはずだけどな」


「まあそいうワケだ。流石に双剣猫を一人でやらせるのは不安だが、シーニャも近接戦闘が得意だろうから、一緒ならなんとかなるかもしれん。万が一の為に俺もバックアップに付くさ」


 俺自身、ハースの戦闘力の高さには驚いたくらいだからな。グレッグ達が驚くのも無理はない。

 そうは言っても流石に双剣猫相手に単独で挑ませるのは危険過ぎる。

 シーニャならハースの動きに合わせられるだろうし、ハースもシーニャの戦い方を見て参考になるだろう。


「分かった分かった。シーニャ、ハースちゃんと一緒に行ってくれ」


「了解。……ハース、獲物は鉤爪グローブ(クロー)?」


「はい、そうです」


「うん、なら私と同じ。行こう」


 二人ともウェストバッグからクローを取り出して両手に嵌めると、岩山を見上げた後に俺に向き直る。


「双剣猫の居場所は? まだ同じ?」


「少し前方に動いた。あの辺りだ」


 シーニャの問いに俺が指を差して場所を示すと、シーニャはコクリと頷いてからハースに目配せをして、顔をクイッと傾げて「行くぞ」の意思を示す。

 それに対しハースも頷くと、いったん俺に向かってコクリと頷き「行ってくる」の意思表示をして、シーニャの後に続き走って行った。


「じゃあ、俺もちょっと行ってくる」


 残る三人に告げてから、俺は瞬間移動で二人の後を追った。


 

 

 双剣猫は屈みこんで岩陰に潜み、ジリジリと歩みを進めていた。

 その視線の先にいるのは狐だ。

 山岳狼より一回り小さく、俺の知る狐と姿形も変わらない。

 岩場を前脚で掻き穿っては、何かを口にして食べている様子だ。


 ハースとシーニャの二人は――

 ハースが双剣猫と狐を下から見上げる場所で待機。シーニャは大きく回り込んで上から見下ろす位置に着いた。

 狐に夢中なのか双剣猫は二人の存在に気付く様子はなく、ジリジリと獲物である狐に近付き、何時でも飛び掛かれる態勢を維持している。


 狐は時々食べるのを止めては、周囲を見渡して警戒している。自分の食べ物を取られない為か、それとも自分の身を守るための警戒なのか。

 狐が顔を上げる度に、双剣猫も歩みを止める。


 歩みを止めた双剣猫が頭を一層深く沈めた、その時――

 双剣猫の上にいたシーニャが「シッ」という声と共に岩山を駆け下った。

 シーニャに気付いた双剣猫は、一瞬体を怯ませて岩山の上から駆けて来るシーニャに目標を変えるが、その目をシーニャに向かせるのが二人の作戦だったのか、下で待機していたハースが岩場を勢いよく駆け上がり、双剣猫に向かって行く。


 シーニャに気を取られた双剣猫は、その腹部をハースの鉤爪で突き上げられ、ようやく敵が他にもいたのだと気付いたのだろう。

 唸りを上げてハースから逃げようとするのだが、時すでに遅し。

 今度は上から来たシーニャの鉤爪が双剣猫の胴体を突き刺す。


 そして更にハースが、もう一方の鉤爪で双剣猫の喉元を掻き斬ると……双剣猫はガクリと倒れ込み絶命した。


「大したもんだ。これなら二人に任せて大丈夫だな」


 俺はいったん瞬間移動でグレッグ達の下へ戻り、二人が一体仕留めたことを報告し、今度は皆でその場所へ向かう。


「ハース、シーニャ、お疲れ。こいつは俺達で解体しよう。もう一匹仕留めて欲しいところだが……双剣猫っぽい気配が無いな」


「狐でもいいか?」


 索敵に双剣猫の気配が引っ掛からないのを零すと、グレッグが聞いてきた。


「狐の尻尾でも……いいか」


「なら俺がちょっと狩って来る。あの食い残しが惜しいのか、まだ近くにいるようだ」


「悪いな、それじゃ頼む」


「任せろ!」


 そう言うと、グレッグはパッと姿を姿を消して行ってしまった。

 瞬間移動ほどじゃないけど、なかなか常人には出来ない速さだな。


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