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第25話 ランデール領

 いよいよ今日はランデールだ。

 アレーシアの話では、朝出発すれば最初の食事時の頃には着くらしい。

 という事は3時間程度ってところか……距離にして20km位だろうと推測。


 換金して出来た路銀はアレーシアに管理してもらう。

 最初は戸惑っていたが、「俺とハースのどちらに預けるのが信用できるか」と訊ねたら、自分が管理すると言ってくれた。

 つまり、俺とハースは信用が無いって事だね。分かるけど。


 昨夜泊まった町(ドルトアと言うそうだ)では町に入るのに結構な人の列があったが、ランデールからと思しき人の流れがそれなりにあるのだな。

 殆どは旅人か冒険者の類で、商人はその一割ってところか。


 途中、何度か休憩を取りながら歩き続けていると、ようやくランデールの街が見えてきた。

 もっとも、領地としては既に今いる場所もランデール領だそうだが、多くの領民が住む城下町としては、しっかりとした壁で囲われた城塞となっているようだ。


「さあ、ハース。此処からは少し気を付けてね。私達の傍を離れない事。街には悪い人もいるからね」


「分かりました。気を付けます」


「ハース、俺とアレーシアの間にいろ。それと俺の外套を掴んでろ」


「あ……は、はい」


「フフフッ」


 何故か急にアレーシアが笑い出した。

 何事かと聞いてみると――


「まるでお父さんみたいですね」


「うっさい! お前だって母親気取りみたいじゃないか」


「何言ってるんですか、それを言うなら『姉みたい」でしょう?」


 ――コイツぅ。


「エヘヘヘ、何だか嬉しい気分ですね」


 ああ……結局ハースには敵わんなぁ。


 気を引き締めて通用門の検問に差し掛かる。


「通行証はお持ちでしょうか?」


「はい、キサン発行の通行証です」


「確かに。城塞内にはどのような御用件で?」


「ランデール内での活動のため、冒険者ギルドへの登録です」


「お連れの方は猫獣人族のお子さんですね? 近頃は亜人種族に被害が及ぶ案件が起きています。十分にご注意ください」


「分かりました。ご忠告ありがとうございます」


 こちらも先のドルトアと同様に、通行証を確認した程度で入城の許可が下りてしまったし、そもそも俺は通行証を持っていない。

 通行証を持つアレーシアの同行者という扱いで通行が許可されてしまうのだから、これなら簡単にガーネリアス教の侵入も可能なんじゃないのか?

 その辺りの事をアレーシアにも訊ねてみると、彼女も「少し不安に感じる」と、やはり少なからず危惧しているようだった。


 城塞内でのメインストリートだと思われる通りを歩いていると、人間族が一番多いものの、冒険者らしき集団は人間と獣人が一緒になって歩いている。

 以前アレーシアが言ってた「人間と亜人種が冒険者パーティーを組んでいる」と言っていたのも頷ける。


 通り沿いには様々な店舗が立ち並んでいるが、集落や前の町ドルトアなどで見かけた屋台形式の出店は無く、前面が開放された作りで軒先に商品を並べて売っている店舗が多い。昔は八百屋とかこんな作りの店ばかりだったよな。

 聞けば大きな街に行くほど、屋台の様な出店はメイン通りでの商売が許可され難いのだそう。要は見栄えの問題らしい。


「大通り以外の所は普通にバザールがありますよ」とはアレーシアの弁。


 そうこうしているうちに、趣のある建物の前でアレーシアの足が止まった。

 ここが冒険者ギルドのようだ。


 中に入るとかなり広いロビーの様な作りになっていて、冒険者という職業? の者達が大勢いた。

 確かに、人間も亜人種族も一緒くただな。

 受付の様なカウンターがあり……貼り紙がしてある掲示板があり……

 飲食が出来るフードコートまであるのか。


 アレーシアはそのフードコートの方へと足を運び、目ぼしい冒険者パーティーがいないか探してみると言う。

 どういう連中なら良いのか俺には分からんので任せるしかないな。


「ちょっと教えて欲しい事があるのだけど、いいかしら?」


「なんだい? 事と次第によるが?」


 人間の男一人と、猫獣人と羊獣人の女が一人ずつの三人パーティーに声を掛けると、銀貨五枚をテーブルに置いて、言葉を続けた。


「最近のガーネリアス教の動きについて知りたいの」


「……座ってくれ。そっちのお連れさんも」


 男は一瞬怪訝な顔をしたが、ハースを見て思う所があったのか、顔の険を緩めて俺達三人に座るよう促した。


「取り敢えず、あんた達の事を教えてくれるか?」


「私はカウス領キサンのアレーシア。ガーネリアス教の教義に異を唱える者よ。冒険者としては三等級。此処には今日着いたばかり。中央聖騎士団に追われていたのを彼に助けてもらったの。他に仲間もいたけど、その時に死んでしまったわ」


「俺の名前はターナス。縁あって獣人族の味方をしている」


「私はセサンのハースと言います。お二人と一緒に戦うために……えっと……あの……そのお……」


「ああいいよ、お嬢ちゃん。お嬢ちゃんはセサンの出身か。セサンには寄った事ないが兎獣人族の護衛でニースへは行ったことがあるから、セサンの事も聞いて知ってる。――ああ、じゃあ俺達の番だな。俺の名前はグレッグ。等級は二等級。トラバンスト聖王国の出身だ。話すと長くなるから割愛するが……俺は国を捨てた。ガーネリアス教も反吐が出るほど嫌いだ」


 ――人間族の男。

 中肉中背、見た目からは力押しタイプではなく、剣技に長けた剣士タイプの様に見受けられる。

 一瞬向けられた眼つきは鋭いモノがあったが、ハースを見る時には穏やかな表情をしていたし、信用出来る人間族だろうか。

 金属製の胸当てに、左肩と左腕のみに金属製のアーマー。武器はショートソードか。身軽さ重視のようだが、二等級冒険者と言うのはアレーシアより上って意味でいいのかな?


「あ……じゃあ次は私ですね。ランデール生まれでパイルと言います。冒険者等級は三等級。ガーネリアス教の中央聖騎士団に追われているところをグレッグに助けられて、それからパーティーを組んでます」


 ――羊獣人族の女

 羊特有の丸まった角を持ってるが、獣人は女でも角があるんだな。

 赤味を帯びたローブを纏っているところを見ると魔術師の類だろうか。そういえば今まで魔術が使える獣人には会ってないな……。


「私はシーニャ。猫獣人族亜種豹族。冒険者三等級。生まれは何処かも分からない。中央聖騎士団との戦闘で以前の仲間を失ってから、このパーティーに参加してる」


 ――猫獣人族亜種豹族の女

 豹は確かに猫科の動物だが……所謂ネコ科ヒョウ属ってのに相当するのかな?

 髪も尻尾もヒョウ柄ではなく真っ黒って事は、クロヒョウの獣人って事か。

 武器は……腰に巻いた革製のウェストバッグを見ると、ハースのように鉤爪クローを持ってるのかもしれないな。

 腰に吊るした短めの剣は、武器というより普段使いのナイフか。


「お前さん達、その猫獣人の子……ハースちゃんだったか。まだ冒険者登録出来る歳じゃないと思うが、大丈夫なのか?」


 確かに傍から見ればハースはまだ子供だからな。そう思うのも無理はない。


「ああ。こう見えて彼女は野獣も討伐してるし、野盗も退治してるからな」


「ほう! そりゃ凄い。シーニャのような亜種じゃなく、純粋な猫獣人族で戦闘に長けてるなら将来有望だ」


 将来有望か――。

 それは喜んでいい事なのか? 正直な気持ちとしては、ハースには危険な目に遭わせたくないんだがなぁ……。


「それで、お互いに紹介が済んだところで……ここ最近のガーネリアス教の動きを知りたいのだけれど?」


 そうだ、そうだった。アレーシアが言わなきゃ忘れるところだった。

 

 アレーシアに促され、グレッグが声のトーンを落として話出す。


「近頃、城塞内で亜人種族に関係する事件が立て続けに起こってる。今分かってるだけでも……ドワーフ三人、犬獣人族二人、兎獣人族一人が行方不明。その他に犬獣人族一人と、そいつのパーティーメンバーだった人間族二人が殺されてる」


「犯人はガーネリアス教の関係?」


「断定は出来ないが、そうだろうと踏んでる。ドワーフが幌馬車に連れ込まれたのを見たヤツがいるんだが、そいつの話じゃ馬車は何処にでもある普通の幌馬車で、特に怪しい雰囲気は感じられなかったそうだ。ただ、身形がおかしい人間族が少なくとも五人……その中の一人にガットランド訛りのヤツがいた……とな」


「ガットランドとは?」


「トラバンスト聖王国と同じく、ガーネリアス教を国教としてる王国よ」


 ああ、そういえばそんな事言ってた気がするな。


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