第24話 初収入
襲ってきた山岳狼は想定していたよりも少なかったこともあり、俺の出番を必要とせずに難無く狩り終わった。
狩った後の解体も、ハースとアレーシアの二人に任せる。
アレーシア曰く「山岳狼の肉は食べられない事もないんですけど、ハッキリ言って不味いので買い取ってもらえません」との事。
なので換金可能な皮と牙だけを採取して終り。残りは街道から離れた所に放り投げておけば、他の野獣の餌になるのだとか。
「巨躯猪と山岳狼で結構な買取り額になると思いますよ。これを換金すれば暫く路銀の心配はありません」
――と、アレーシアは終始ニコニコ顔だ。
ついでにサラッと言ってたけど、今更ながら猪型野獣の名前が巨躯猪だと知った。
作業を終えて身支度を整えると、再びランデール目指して歩き出したのだが、暫くしてからずっと下り坂が続いている事に気付いた。
いつの間にか峠は越していたようだ。
その後は特に何事も無く進むことが出来て、日が暮れる前には山を下りて最初の人里に到着した。
規模としてはセサンよりもずっと大きく、行きかう人々も多いようで、検問所と思しき通用門には人や馬車が列を作っている。
「そこそこ栄えているようだな」
「そうですね。この町は昔、様々な理由で迫害を受けていた流民が辿り着いて作ったと言われていて、その為か異種族や他宗教に対して差別意識のある者には非常に厳しいですが、そのような意識を持たない者であれば『来るもの拒まず』といった感じで受け入れてきて大きくなったと言われていますから。ただ……つまり……」
「つまり?」
「その様な成り立ちなので、ガーネリアス教からは異端と見られているようです。今のところは何の被害もありませんが、ランデール領へガーネリアス教や聖王国が本格的に絡んでくると、領内の冒険者や騎士団等だけでは抵抗しきれませんから、此処も危険に晒される可能性は大きいかと」
「なるほど……」
色々と考える事はあるが、なかなか一筋縄では人間中心主義を引っ繰り返すのは難しいのかもしれない。
ともあれ、まずはこの町で路銀を作るか。
通用門には簡易的な検問所で入る者をチェックしている。
俺達の番になるとアレーシアが何か証明書らしき物を掲示したら、呆気なく通されてしまった。検問の意味があるのだろうか?
「こんな簡単に余所者を入れてしまうのか?」
「ああ~っ、私がキサン領発行の通行証を持ってるからですね。この通行証はガーネリアス教信仰国以外なら、大抵は通用するんですよ。トラバンストやガットランド等の様にガーネリアス教が国教な国や領地では、結構面倒な手続きが必要になるんですけどね」
要はパスポートのビザみたいなモノなのだろうな。
「それで、素材を買取りしてくれる所は何処にあるんだ?」
「町の者に聞いてみましょう」
こういう事はアレーシアに任せた方が早い。と言うか、俺には分からないしな。ハースも行商の手伝いである程度は知ってるだろうが、この町の事はどうだろう。
「ハー……ス?」
さっきからずっと大人しくしてると思えば、町中をキョロキョロと、其処かしこにある屋台が気になっているのか忙しなく頭を振っている。
なので、そっとハースの頭に手を乗せて、そのちょこまかと動かしている頭を止めてみた。
「ハース?」
「あひゃいっ!」
「アハハハ、そんなビックリすることないだろ~」
「いや、その、いえ、はい、あの、でも、あっと……」
「ターナス様、ハースをイジメないでくださな」
「え? いや、イジメてるつもりはないぞ?」
「もう。ハース、あんまり余所見してばかりいると迷子になっちゃうわよ」
「あっ、はい。なんかたくさんお店があるな~って思って……つい」
う~ん、アレーシアは保護者か? 俺もハースと同じ扱いか⁉
……解せん。
アレーシアに注意された事をハースとお互いに擦り付け合っていたら、彼女はその間に素材の買取所の場所を聞いていたようだ。
教えられたその場所に行くと【商業ギルド出張所】と看板が掲げてあった。
「商業ギルド? 冒険者ギルドとは違うんだな」
「はい。冒険者ギルドでも素材の買取りはしてますが、ここの冒険者ギルドは受付のみで買取り所は無いようです。なので素材を始め、採取物や討伐された物は、この商業ギルドの出張所で売買されてるそうです」
中に入ると、なるほど確かに冒険者らしき武装した集団がいる一方、如何にも商人といった風情の人の姿も多く見かける。
アレーシアと共に出張所内の買取りカウンターへ向かい、道中で採取した巨躯猪の皮や牙などの素材と干し肉、それに山岳狼の皮と牙を出した。
「これは……⁉ 空間収納を――」
「ちょっと待って! この人は常識から少し外れてる所が多いから、あまり大っぴらにしたくないの」
受付の人間が、俺が空間収納から素材や肉を取り出したのを見て驚いたが、大声を出される前にアレーシアが受付の声を制した。
それにしても……常識から外れてるとはヒドイ。まぁアレーシアに指摘されてからは多少自覚してるけどね。
「すみません、些かビックリしてしまいまして。それで、こちらは買取りで宜しいでしょうか?」
「ええ、お願い」
何のかんの言っても、アレーシアのおかげで事がスムーズに運んでいるのだから、こういう場合は俺なんかよりもずっと頼りになよな。
然程時間をおかずに査定額が出たようだ。
巨躯猪が『皮・金貨五枚、牙・金貨一枚、干し肉・銀貨五枚と小銀貨八枚』
山岳狼が二頭で『皮・金貨四枚、牙・金貨一枚、爪・銀貨八枚』
これがどの位の価値なのか見当もつかないが、アレーシアによれば牙と爪は予想通りで、皮はかなり状態が良いので査定額も高額になったらしい。
干し肉については――討伐したままの状態で持ち込んだ場合よりも、干し肉だと用途が限られてくるので、若干は値が下がるとの事。それでも鮮度が良いので相場よりやや高めの査定額らしい。
……御面倒お掛けします。
査定額通りに買取って貰うと、次は今日の宿探しをする。勿論、提案したのはアレーシアである。
俺とハースは手を繋いで彼女の後ろを歩く。あくまでもハースが迷子にならない様に手を繋いでるのだ。
宿屋は一般的な中級宿をまた三人一部屋で取ったので、次はハースお待ちかねの食事に行くとしよう。
宿でも食事は出来るそうだが「折角なので外で」と言うアレーシアの意見に賛同。
「ハースは何が食べたい? 食べたい物はあるか?」
「う~ん……よく分かんないですね。ターナス様と同じのを食べたいです」
「ハハ……。アレーシア、何処か良さそうな処は無いかな?」
「ターナス様のご希望は、何かあります?」
「いや、俺は何でもいい。と言うか、あまり気取った場所は好みじゃないから、なるべく気軽に入れる処がいいかな」
「そうですね。私も気取った処だと食べた気になりませんから、旅人向けの食堂にしましょうか。ハースもそれでいい?」
「はいっ!」
そんなワケで、行ったのは大衆食堂の様な店
客層は低級冒険者や路銀を節約したい旅人がメインのようだが、食事はなかなかボリュームもあり味も悪くない。
ハースはレンズ豆と小麦のスープにライ麦パン。そして鶏肉を煮た物。鳥肉を食べる文化があるのはちょっと嬉しい。
アレーシアはレンズ豆と野菜のスープにライ麦パン。それと豚肉の入った麦粥。
そして俺は――豚肉入り野菜スープにライ麦パン。それに炭焼きの鳥肉だ。
ただこの鳥肉はあまり馴染みの無い食感。赤味もあって鶏ではなさそう。まぁ美味いから問題ないさ。
路銀稼ぎの魔獣討伐で得た初収入ということで気持ち的にも余裕が出来たのか、この世界に送り込まれて初めてと言って良いくらいの“楽しめる”食事だったのだけれども……この二人には黙っておこう。
食事の後、宿屋に戻る前にハースに服を買う事にした。
これは俺もアレーシアも思っていた事で、セサンでは当たり前で気にもならなかったが、ある程度人口密度のある町だとハースの服はある意味……意外と目立つ。
そんなワケで、アレーシアの着ている物に近い冒険者風な出で立ちを選んで購入したのだが、どうやらハースはとても気に入ったらしく、歩き方まで堂に入った冒険者然としてる。
ただし――顔は緊張感など皆無に等しい歪みっぷりだけどね。




