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第22話 野盗の最期

 野盗のメイン集団を拘束し、第三者を巻き込まないよう障壁を創ったところでハースとアレーシアの姿が見えた。


「二人とも、怪我は無いか?」


「はい、大丈夫です!」

「問題ありません」


 ま、絶対的身体防護アブソリュート・プロテクションを掛けているんだから怪我するなんて事はないんだけどな。

 二人とも特に息切れや肩で呼吸するような素振りもないし、顔にも戸惑った感じは見られないし……下手な抵抗もされず一気に片付けられたか。

 

「これは?」


 呪縛の魔法で身動き出来ずに転がっている野盗を見て、アレーシアが不思議そうに怪訝な顔をして訊ねてきた。


「騒がれると面倒だからな。拘束しておいた」


「……はぁ~っ。足止めどころか、これならターナス様一人で処分出来たのでは? まぁ分かってましたけど」


「俺がコイツ等全員を処分するのは簡単だけどな。それをしたくない理由があってな」


「――と、言いますと?」


 俺はアレーシアの問いには答えず、顔をハースに向けた。

 束の間、俺の顔を見つめていたハースも、俺が何故アレーシアに答えず自分の顔を見たのか理由を悟ったようで、ハッとして転がっている野盗一人一人に目を向けた。


 思い出すように……野盗の顔を見渡していたハースの顔が、次第に険しくなっていく。

 その中でも二人の人間と一人の狐獣人に対しては、一段と憎悪の感情を剥き出しにしていた。


「その顔に覚えがあるんだな?」


「……はい」


「どうしたいか、望みはあるか?」


「…………はぁぁっ、ふぅ……ふぅ……ふぅ……はぁ……」


 何を考えあぐねているのだろうか。暫し無言で野盗を睨みつけていたが、次第に呼吸が荒くなり、額には汗を滲んできている。

 このままだとまた狂乱状態に陥ってしまうかもしれん。


「ハース、無理はしなくてい――」

「ターナス様……」


 意を決したのか、言い終わる前に言葉を被せてきた。


「一つだけ、お願いしてもいいですか?」


 俺に向き直ると固唾を飲み込んでから、自分の思いを告げる。


「私は、お父さんとエナの仇を討つって決めたんです。私は……私は絶対に許さないんです。だから……だから私が……私が何をしても……嫌いにならないでくれますか? どっか行っちゃうって言わないでくれますか?」


 大きな瞳に涙を溜めて、これから自分がやろうとしている事への覚悟と、それを行った事で俺に忌嫌われてしまうのでないか……という自責の念に駆られながら、ハースは思いの丈を綴ったようだ。


「ハース、お前が仇を討ちたい……仕返しをしたいと言った時、俺が何て言ったか覚えてないのか?」


「……ターナス様は『手伝ってやる』って……」


「そうだ。だからなハース、お前一人にやらせない。俺にも手伝わせろ」


「ふぐっ……」


 泣きながら大きく頷くハース。

 狂乱しなくて済んだのは、一安心だな。先にアレーシアと一緒に斥候を処置させたのが功を奏したか。

 ハースに寄り添って彼女の頭にポンと手を乗せると、涙と鼻水でグシャグシャの顔を上げて笑って見せた。


「じゃあアレーシア、今から野盗を――?」


 野盗に対するハースの仇討ちを開始するため、その手伝いをアレーシアにも頼もうとしたのだが……泣いてる?


「何でお前が泣いてるんだ?」


「そんなの……そんなの当然じゃないですか……グスッ。ハース……私も……グスッ……私も一緒にやってやるからね……ヒック」


 ま……まぁ仕方ないか。気持ちは分からなくもないからな。

 取り敢えずアレーシアもやる気になってくれてるので、始末の方法を決めて行くとしよう。


 俺が提示した方法は単純だ。

 ハースの家族を襲った三人の野盗は、呪縛した状態で立たせておいて処刑する。

 さりとて、いくら仇討ちとは言っても殺人は殺人だし、一方的に殺される側の野盗がどんな顔をハースに向けるか分からない。

 それがハースに別のトラウマとなってしまうのでは……と危惧したので、正面からではなく背中側からやらせようと思っていたのだ……けれども。

 ハースは自分の顔を……恨みと憎しみの感情を見せつけたいと言って聞かない。

 なので、仕方なく正面からやらせる事にした。


 残りの野盗は俺とアレーシアで片付ける。

 まぁ、そう簡単に殺すつもりはない。当然――嫌という程、頼むから殺してくれと願いたくなる程の目に遭わせてあげる。

 

 と、言う事で……処刑開始といくワケですが。

 まずは俺から始めるとしよう。


 野盗の中から適当に四人を選んで呪縛を解くと、山道脇に立って並ばせる。

 並んだら硬直状態での呪縛を掛けた。


「これから行う処刑の前に、まずは見せしめとなってもらう」


 並ばせた四人以外に向かってそう告げると、再び四人に相対して腕を伸ばした。

 そして――

 伸ばした先の手を広げて、一人目に向けると……そのまま空中を掴んで握る。


 音を立てて頭部が爆ぜた仲間を目の当たりにした野盗共は、呪縛の為に声も上げられず青ざめ、震え慄いている。

 俺は構わずそのまま、一人ずつ、ゆっくりと、同じ事を繰り返していった。


「さて、次はアレーシアだな」


「はぁ~っ、こうなりますか……」


 大したことをしたワケでもないと軽そうな俺を見て、アレーシアは何だか溜息吐いて呆れてるようだ。

 確かに大したことではないけど、見せしめだからね。他の連中がビビればいいんだよ。


「アレーシア、そこからぐる――――っと結界を張るから、その中でコイツ等を始末してくれ」


 ――と、半径5m。要は直径10m程度の範囲をリングに見立てて示すと、自分だけ少し離れてからアレーシアと野盗を結界で囲った。

 因みに、野盗共の呪縛は解除するが武器は持たせない。まぁ、着ている革鎧程度は勘弁してやろう。


「無防備の輩を相手にするんですか?」


「そうだ。ソイツ等は無防備の一般人を襲って嬲り殺しにしてきたんだからな。同じ目に遭ってもらえば、相手の気持ちが良く分かるだろう?」


「まぁ、確かにそうですね」


 ――軽い。

 アレーシアもハースの胸の痛みと心の叫びを知ったからな。野盗如きに情けなんて、コレっぽっちも持ち合わせていないだろ。


 結界の中で腰から短剣を抜いたアレーシアは、五人の野盗と向かい合う。

 丸腰の野盗共はアレーシアの剣の間合いから逃れようと後退りするが、背後を結界に阻まれて動揺している。

 逃げ場を探して周囲をキョロキョロと見渡す者、隣の仲間と何やら相談と思しき話をしている者、神に祈るアホンダラ。

 神はテメェなんぞ見ちゃいねぇよ。

 死神は此処からじっくり拝見させてもらってるけどな。


 遂に、緊迫した状況に耐えきれなくなった野盗の一人が、隣に立つ仲間の腕を掴んでアレーシアに向かって押し飛ばした。

 必然的にそれがキッカケとなり、瞬く間にアレーシアの剣が野盗共を斬り付けていく。

 ただ、普通と違うのはアレーシアの剣が異常な程の切れ味なので、斬られた野盗の体はそれはもうキレイに……ぱっかん。

 それを俺とハースは当然のことと見ているが、ハースに討たれる為にまだ転がっている野盗共は、信じられないとばかりに目を剥いて驚愕していた。


 そして――その順番が回ってきた。


「ハース、最初に言ったように、コイツ等は呪縛した状態で立たせておくからな。後はお前のしたい様にしていい。ただし――自分が後悔したり、自分が我慢するようなやり方はするな。俺もアレーシアも……お前の味方だ」


 俺の言葉の後にアレーシアが大きく頷くと、ハースも大きく頷いた。

 身動き出来ないまま立たされている仇を前にして、ハースはクローを嵌めた両手をゆっくりと上げる。

 今にも獲物に飛び掛かろうとしている虎か豹のようにも見えるが、その顔からは狂乱の気配は感じられない。

 

 固唾を飲んで見守る中……

 

 ハースのクローが野盗の胸を突き破った。

 

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