第21話 殲滅作戦開始
異常なまでに狂気を巻き散らしている野盗を殲滅する為、ハースとアレーシアに作戦の指示を出す。
「索敵してみたところ、野盗は全部で十八人だ。斥候が三人、殿が三人、中心に十二人が集団になって進んで来ている。俺が中心の集団を足止めするから、斥候の三人をお前達二人で仕留めるんだ」
「了解です」「わかりました」
「その際に注意する事は、大声を出させないで速やかに処理する事。そこでハース、まずお前が野盗の前に姿を見せるんだ。その時に絶対……いいか、絶対に先走って斬り掛かったりするなよ。ハースが姿を見せる事で前方に注意を引きつけ、そこを上からアレーシアが斬り付けるんだ。そしてハース、野盗の注意がアレーシアに向いたらその隙に――――」
それから具体的な攻撃の仕方を伝え、その後は俺が足止めしている集団の所に合流するよう説明する。
ハースはその度に小さく復唱しては、コクコクと頷いている。
これなら斥候の処理と集団への攻撃開始までは大丈夫だろう。
怒りと恨みで冷静さを失わないよう念を押しつつ、念の為万が一再びハースが狂乱した場合の対処法をアレーシアに伝えておくが……大丈夫、ハースを信じよう。
野盗への攻撃手順を再確認して様子を窺っていると、斥候の三人が見えてきた。
「これから俺が数を数えるから、それに合わせて一緒に数えてくれ。――イチ、ニ、サン、シ、ゴ、ロク――」
「「……ニ、サン、シ、ゴ、ロク――」」
「そうだ、その速さで六十数えろ。そしたら作戦開始だ」
「「はい」」
「よし……行くぞ!」「「はい! イチ、ニ、サン――――」」
離れ際、二人に絶対的身体防護を掛けておく。如何なる攻撃も受け付けない。
過保護かもしれんが、備えあれば患いなし。保険は大事だよ。
俺はまず殿の所まで来ると、邪魔されないように昏睡魔法を掛けて眠らせてしまう。
昏睡状態に陥った人間三人を山道から外れた場所に移動し、隠匿を掛けてから集団の所へ向かった。
斥候とも殿とも200m程度は離れているだろうか、ゾロゾロと歩いてる集団の傍まで来ると、上の方から奴等を見下ろす。
集団十二人の内……人間が八人、狐獣人が三人、犬獣人が一人。
三人の狐獣人の内の二人と、更に二人の人間が荷物運びなのだろう、その四人が、二つの麻袋の口をそれぞれ縄で縛って繋げた物を肩から担いでいる。
他の連中は……剣を抜き身で持ち歩いてるヤツ、干し肉に齧り付いてるヤツ、隣のヤツと喋ってニヤニヤしてるヤツ……エトセトラエトセトラっと。
どいつもこいつも「如何にも悪人です」ってツラしてんな。
そんじゃまぁ、まずは集団の足止めから――。
『軟弱な土壌』
「おっ?」「うわっ!」「何だコレは?」「おおっと……!」
集団の足元の土を柔らかくすると、足を取られてよろける者や、隣にいる者に掴まって持ちこたえる者がいる一方で、荷物を持っていた五人は転んだり尻もちをついて倒れてしまう。
「何で急に足元が泥濘になったんだ⁉」
「泥濘……って言っても、別に濡れちゃいねぇぞ」
「おい、お前等! なに荷物を落としてんだ!」
「いや、そんな事言ったってコレじゃ仕方ねぇだろ」
突然、何が起こったか理解出来ずにそれぞれが思うがままを口にしている。
――が、このまま騒がれるワケにはいきませんよ。
『呪縛』
「……⁉」「????」
動きと声を封じてしまうと、みるみる血相が変わっていくのが見て取れる。
さてと、では登場させてもらいますか。
「こんにちは、皆さん」
颯爽と野盗の前に降り立ち、にこやかに挨拶をして、連中の様相を見渡す。
身形は着古した革鎧、血糊付き。武具は短剣や短槍。どう見ても高貴な者が持ちそうな、柄に緻密な装飾が施されたナイフ。それに、女物の服が飛び出してる麻袋もあるな。
どれもこれも集落を襲って略奪してきた物か……。
まずは拘束している中から、“一番下っ端ぽくて口が軽そう”な人間の呪縛を解除する。
「お前等は何処から来た」
「……? はれ……?」
「聞こえたか? 何処から来たんだ?」
「テメェ、魔術師か⁉」
近付いて徐に顔を蹴り飛ばして続ける。
「何処から来たのかと聞いている」
「て、手前ぇ……な、何を――」
全部言い終わる前にもう一度蹴る。
「お前にはもう聞かん。次、お前!」
拘束し直してから、今度は狐獣人の一人を指差して呪縛を解除する。
「お前等の頭目は誰だ? 言わなければアイツよりも酷い蹴りを喰らわすぞ」
「……。あ、あの男だ……」
ふん、痛めつけられる前に仲間を売るとは。なかなか優秀なクソだ。
狐獣人に再び呪縛を掛けて、コイツが指差した人間の男の所へ行く。
おうおうおう、思いっ切り俺を睨んでるよ。見るからに悪人顔してるし、俺に向ける殺気が尋常じゃないな。
身体の拘束は解かずに、首から上だけを呪縛から解除する。
「……ガハァッ、チッ……テメェ何者だ! この俺を誰だと思ってやがる!」
「野盗だろ?」
「そこらの徒党の同じだと思うなよ! 俺は……っ⁉」
「煩い」
段々と声が大きくなってきたし、質問にちゃんと答える気も無いみたいだからね。また呪縛を掛けて転がっといてもらうとして。
先程、スグに喋ってくれた狐獣人の拘束を解いて、もう一度質問することにした。
「聞いた事に答えろ。お前等は野盗で間違いないな?」
「はい」
「この荷物は何処からか略奪した物だな?」
「は……はい、そうです」
「襲ったのは何処だ?」
「こ……この山の、い、入り口にある……宿……屋……です」
あの宿屋か……。確か、俺達が出発する時には、まだ宿屋には獣人の一家と、獣人と人間の旅人だか行商人だかもいたはず。
クソが……。
「半年前――。半年前に、猫獣人族の一家を襲った事があるか?」
「半年……前……? いや……覚えてない……ません」
この半年の間に何件も一般人への襲撃や略奪を繰り返していれば、コイツ等にとっちゃ一々覚えていられる程の事じゃないのだろうな。
狐獣人に向かって魔法を掛け、半年前の記憶を呼び起こさせる。
本当なら魔法を使わずに喋らせたかったんだけどな。
「思い出せ。半年前、セサンの近くで猫獣人族の家族を襲ったか?」
「セサン……あの時は……街道で……商人を襲った後……森の……近くで……猫獣人族を見つけた……大人が……二匹……で……ガキが……二匹……バズ達が……男の猫獣人を襲い……ガナル達が……ガキを……」
記憶は鮮明に残っていた。
どうハースの父親を殺したのか。どうハースの妹を殺したのか。どうしてハースとナミルが逃げられたのか。事細かに喋っている。
――コイツ等だ――
ハースとアレーシアの二人は――。
時間的には、もう斥候を仕留めてる頃だろう。
野盗の殿は昏睡させて人目の付かない所に隠しているから問題無い。
宿屋の宿泊客は、コイツ等に襲われて……ダメだろうな。
となると……後方から誰かがやって来る率は低いだろうが、念のため障壁を掛けて往来出来ないようにしておくか。
そして、山道を誰も登って来れないように魔法で障壁を創ったところで、ハースとアレーシアがやって来た。
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