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第17話 散歩の行き先

 軽自動車ほどもある大きな猪型の魔獣だったが、ハースとアレーシアは怯む事無く立ち向かい、見事な連係プレーで真っ二つにしてしまった。


「二人とも凄いじゃないか。特にハース、よくあれだけの動きが出来たな」


「お母さんに色々教わってましたからね。でも、ターナス様みたいに一発でやっつけられなかったです……」


 一撃で仕留められなかったのが心残りのようだ。

 気持ち的には、悔しいというよりも残念といった感じに受け取れるなが、そもそもハースにとっては初めての実戦だったと思うし、野獣がもう一回り小さければ、あの一撃で即死させられたんじゃないだろうか。


「いやいや、お前のあの一撃は相当効いてたぞ」


「そうですね。ハースが入れた一撃があったから、私も安心してぶった斬る事ができましたし」


「お前もだ! あんな真っ二つにするなんて事は、なかなか出来る事じゃないだろ」


 アレーシアだって、初めて会った時はあんなに強いとは思えなかったぞ。それがなんだよ、あの巨体の野獣を真っ二つにしちまうなんて。


「ターナス様に施術して頂いたこの剣のおかげです。私だって、まさか真っ二つになるまで斬れるなんて思いませんでしたよ!」


「私も練習で使ってたクローよりも、ずっとずっとピッタリしてて、自分の手みたいでしたよ!」


 う~ん、あれか。俺のせいか。

 手に馴染んで使い易くさせて、その上で切れ味を少し向上させただけのつもりだったが、俺が思っていた以上の効果があったってことだよな。


「なあハース、前にも野獣狩りをしたことがあるのか?」


「いえ、ありませんよ? 初めてです」


「怖くなかったのか?」


「うん……とぉ、アレーシアさんがいたから大丈夫かな? って。あと、ターナス様がいるから絶対大丈夫だって、分かってますからね!」


「そうか。まぁ、信頼してくれるのは嬉しいが、無茶だけは絶対にするなよ」


「はい!」


 しかし、考えてみれば武器の威力は兎も角、身体能力は彼女ら自身が身に付けたものなのだから、もともと戦闘力は高かったのだろう。

 母親譲り……か。

 これなら半端なゴロツキ程度じゃ全く相手にならないだろうし、今後の事を考えれば幾分かは安心できるってものか。


 武器の威力も二人の身体能力も分かったし、この野獣の死体を焼き払って始末してお終いにしよう――と思っていたら、野獣は解体して部位をギルドに持ち込めば買い取ってくれるのだとアレーシアは言う。

 そうならば……と、魔法で解体出来れば手っ取り早いだろうと思ったが、アレーシアから折角切れ味の良いナイフがあるのだから、是非とも自分で解体したいと言われたので任せる事にした。


 鼻歌交じりに巨躯の野獣を解体している女とか、正直見慣れないもので背筋が少し寒くなってしまう。

 そんな俺を余所に、楽し気に解体しているアレーシアを見つめていたハースが、彼女に声を掛けた。


「アレーシアさん、私も解体したいです」


「ええ、勿論いいわよ。ハースも一緒にやりましょう」


 自分も解体をしたいと伝えたハースは、腰のベルトに差していた小型のナイフを取り出した。

 ハースも自前のナイフを持っていたようだ。


「ハース、そのナイフを見せてみろ」


 ハースからナイフを受け取ってブレードを見ると、手入れはされてるがエッジの研ぎがあまく、あまり切れ味は良くなさそうだ。

 俺は一瞬でナイフを新品同様――というか、それ以上のモノに施術してハースに返した。

 

 ハースは満面の笑みを向けて礼を言うと、尻尾をピンと立てて解体に取り掛かった。

 最初にナイフを施術したアレーシア同様に、その切れ味に余程ビックリしたのだろう。ブルルっと体が震えたかと思うと、髪の毛が逆立った。

 見ていて面白い。


 さてと、二人の解体作業が終わるまで、俺はちょっと散歩でもしてくるか。

 先程から急に複数の視線が向けられ始めたし、それが殺気とも興味本位とも異なるが、どうにも悪意と取れる気配なのが気になる。

 なので、ちょっと見てこようと思う。


 二人に少しこの場を離れる旨を告げ、雑木林に足を踏み入れる。

 自分の気配を消して進むと、そこに3人の人間の姿があった。

 不審に思うのは、その恰好だ。

 3人とも頭巾の付いたローブを纏っているが、それぞれローブの色が異なっている。一人は黒色、一人は栗色、そしてもう一人は青色。

 黒色ローブは木製の杖を持ち、栗色ローブと青色ローブは先端に金属製と思しき装飾の付いた杖を持っている。


 見様によっては魔術師にも僧侶にも見えるが――。

 やはりこいつ等、隠蔽の術を掛けて気配を消している(けど俺には丸分かりなんだけどね)

 大体、俺達に気付いてから急に隠蔽の術を掛けてるのだから、余計に分かるっての。


「やはり、あの人間が連れている猫獣人は奴隷ではないようだ」


「確かに。あれは不穏分子の輩であろう」


「それにしても、あの男は亜人が持っていたナイフに魔術を施していたが……詠唱していたようには見えなかったぞ」


「ああ、それは私も気になった所だ。詠唱していないとすれば、魔術ではなく魔法かもしれん」


「では……あれは魔族だと?」


「で、あろうな」


「ならば、今この場で始末した方が良かろう」


「同意だ。獣人族に魔族……出来れば生きたまま連れて戻り、“道具”にしたいところだがな。今回は諦めるか」


 なるほど、殺気とも興味本位とも違ったのはコレか。

 こいつ等が俺達に気付いたのが、解体を始めた頃。俺が気配に気付いたのも、丁度その時だから合致する。

 それにしても“道具”だとぉ? 舐め腐りやがって。 

 では、挨拶でもしてやろうか。


「こんにちは、皆さん」


 俺は“認識阻害”を緩めて、努めて明るく(・・・・・)彼等に声を掛けた。


「な、何奴!」「お前は……っ!」


「はいはい。さっきからあんた等が監視してた者ですよ」


 少し大袈裟に答えてやる。


「バカな……気配などしなかったぞ」「そもそも我々だって……」


「我々だって? 隠蔽してたとでも言いたいのか?」


「……っ!」


「あんた等の隠蔽術なんて、まぁ~ったく意味を成してないからな」


「何だとぉ⁉」


 おおっ、急に敵意剥き出しの感情になったな。

 こいつの杖は、ファンタジーの世界で聖職者が持ってる錫杖のようだし、やはりガーネリアス教の関係者か。

 人間族の使う魔術ってのは、それ程高度なモノじゃなさそうだが、確かメナスは魔族の魔法より強力だ……みたいな事言ってたと思うんだがなぁ。


「まぁ、どうでもいいさ。それより、お前等の事だよ。お前等、ガーネリアス教の者だな?」


「ふんっ、それを知ってどうする。貴様が何者なのか、既にバレてるのだぞ!」


「俺が何者か……だって? ふむ、それで何者だと思う?」


「貴様、魔族だろう! 魔法を使っていたのが何よりの証拠だ!」


「残念、ハズレ」


「何っ⁉」


「正解を教えてやろう。俺はなぁ――」


 少々勿体振りつつ、また僅かに認識阻害を緩めて、こいつ等に向けて軽微な気迫を放ってやった。


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