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第16話 パワーアップ

 アレーシアのナイフとハースの鉤爪(クロー)を新品同様に修復してやると、二人とも気もそぞろで、それぞれ片手にパンを持ちつつ、もう一方の手にナイフやクローを持って見つめている。

 パンも食べてはいるが、全く見てはいない。

 ま、あるあるな光景だな。


 食べ終わったところで試し斬りといこう。

 燻製肉の塊を置いて、それを切ってもらった。


 二人ともそれぞれが石の上に載せた燻製肉にナイフとクローを立てると――

 サクッ――なのか、スカッ――なのか知らんが、傍から見ていても、まるで豆腐に包丁を立てた時と同じ動きをしていたから、多分燻製肉を切る時に全く抵抗を感じなかったんじゃないだろうか。  

 二人とも目を丸くして呆気にとられた顔をしている。


「はっ⁉ 何ですかこれは? 新品のナイフよりも切れますよ⁉」


「……っ⁉」


 アレーシアはナイフの切れ味に驚きつつ、「凄い凄い」を連発してぴょんぴょん飛び跳ねて嬉しさを表現している感じだ。

 一方ハースは、何が起こったのか理解できないといった風に、ポカンと口を開けたままクローと燻製肉を交互に見ている。まぁ、切れ味に驚いているんだってのは分かるけどね。


 ただ、ちょっと気になる事があった。

 ハースが燻製肉を切った後、石に到達したクローが僅かながらに押されて歪む様子が見れたのだ。

 あれは力が逃げてる。


「ハース、こっちへ来て手を前に出してくれ」


 言われるままにビシッと、両手を真っすぐ前に突き出してくれました。

 まるで“前へならえ”だよ、それ。


 グローブの上からハースの手首を軽く掴み、魔力を流してグローブの中を探ってみる。

 やはり、グローブのサイズがハースの手に合っていない。

 ナミルが使っていた物というのだから、流石に今のハースには大き過ぎるか。


 鉤爪はグローブの中で添え木に接続され、その添え木に指を入れるリングが装着されている。それで手に込められた力が最大限に鉤爪へと伝わる仕組みになってるようだ。

 だが、グローブの大きさも、指を入れるリングの大きさもハースに合っていない。

 ハースの手に合うよう、鉤爪の添え木、リング、そしてグローブのサイズを縮めていく。

 さりとて、手とクローをピッタリ合わせてしまうと、それはそれで着脱にも影響が出るし、何より指がクローを嵌めた状態で曲げられなくなってしまう。

 その辺りの加減を見極めて、現在のハースの手に合わせて修繕を施す。


「どうだ、感じは?」


 感想を聞こうとハースに目を向けたら、なんだかまた、口と目を真ん丸にして唖然としてるもんだから、つい苦笑いしちまう。


「ハース、どうだ?」


「なんかシューッてなって、ギュウッてなって……」


「ああ分かった、分かったから。兎に角まぁ、どんな感じかもう一度試してみよう」


「はい!」


 うん、ハースの感想はいつも「あーなって、こーなって、わーってなって」だからね。あの子に感想を言葉で求めちゃダメだね。


「あの、ターナス様?」


「ああ、なんだ?」


 アレーシアに呼ばれて振り返ると、何故かショートソードを両手で持って、俺に差し出してる。そしてその上目遣いの顔って事は、アレだね? そういう事だね?


「仕方ないな。剣を持って構えてみろ」


「はいっ!」


 甘いなぁ、俺も。けどまぁ、これも戦闘力向上と維持の為だからな。うん。


 ショートソードを構えるアレーシアの隣に回り、構えた両手の上から俺の手を添える。

 魔力を流してアレーシアの手とショートソードの柄が一つになるようイメージし、柄の表層を彼女の手の形に合うよう造形していく。

 ブレードとエッジの傷や刃毀れを修復し、研磨と汚れ防止のコーティングだ。


「こんな感じでどうかな?」


 アレーシアは―――顔が真っ赤だった。あれ?

 若干涙目になってるみたいだし、どこか痛みでも生じさせてしまったのだろうか。


「アレーシア、どこか痛むか?」


「い、いえ。全く、全然。その、あの、あ、ありがとうございます!」


 言うが早いか、パッと走り出して行ってしまった。大丈夫、なのか。

 ハースとアレーシアが互いに武器を見せ合ってるようだが、急に仲良くなった感じだな。

 共通の趣味があったりすると、初対面でも話が進むと言うし、あの二人もそんな感じなのかもしれない。


 さて、二人に試し斬りをさせてやりたいが……燻製肉はもう小さくなってるし、何か良いモノはないだろうか。

 などと思案していたら、タイミングよく近くに野獣がいるのを察知した。


「野獣は……あの猪みたいなヤツか」


 数十メートル離れた雑木林から、猪に似た動物がのっそりと出てきた。

 体躯は明らかに俺が知る猪よりも数十倍デカイ。軽自動車並みはあるんじゃないだろうか。

 牙も長く、突進されて刺されでもしたら、普通じゃ絶対に助からないだろう。


「ハース、アレーシア! 野獣を見つけた。俺が捕まえてくるから、ここで待ってろ」


「「いえ、大丈夫です」」


「……え?」


 大丈夫って何だよ。まさか、アレをお前ら二人で狩るつもりじゃないだろうな?

 二人で顔を見合わせて頷いてるけど、まさか本気でヤルつもりか?


「ではっ!」「いってきまーす!」


「ちょっ、お前ら……」


 行っちまった。

 アレーシアは兎も角、ハースには無理だろう⁉

 まったく。ヤバそうな感じならスグに加勢しないと。

 

 二人の動きを目で追いながら、いつでも援護出来るように準備をしておく。


 ハースとアレーシアの姿を見つけた野獣は、逃げるどころか二人に向かって突進してきた。

 その野獣の前にハースが立ち塞がる。

 

 ハース、何やって……なッ⁉


 突進してきた野獣が、その牙をハースに突き立てようとした――――寸前。

 野獣の額に左手を当てたハースは、額に手を添えたまま飛び上がり身体を空中で捻る。

 勢いの止まらない野獣は前へ進み、飛び上がって身体を捻り半回転させたハースは、右手の鉤爪を野獣の頸椎辺りに突き刺す……と、それを瞬時に引き抜いた。

 ここまでで2~3秒……。

 野獣は頭をもたげて悲鳴を上げるとガクッとスピードを落とし、ヨタヨタと歩く程度の動きになった。 

 しかし、まだあの巨躯には致命傷となっていないのか、朦朧としつつも、ゆっくりと体躯を反転させた。


 しなやかに地面に降り立つハース。

 野獣はハースにその巨躯を向けると、前脚で地面を掻き上げて威嚇を始める。

 そして、大きくよろめいてもまだ、その殺気をハースに向けて猛進させた。

 今度はハースの前に出たアレーシアが、突進してくる野獣をショートソードで迎え撃つ。

 

 突進してきた野獣を直前で躱しつつ、ショートソードを野獣の顔面に叩きつけるアーレシア。

 野獣は顔面をショートソードで真っ二つにされると、その勢いのまま更に半身を削がれて絶命する。


 ハースとアレーシアは切断された巨躯の猪型野獣を見下ろし、顔を合わせてニッコリ笑っていた。


「心配して損した気分だ……」 


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