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第148話 先へ

 国境の検閲所を通過した他の入国者たちに混ざって街道を進んで行く。

 他の入国者たちの会話に聞き耳を立てていたシーニャによると、ナバータという街に向かっているらしい。


「ナバータか。所謂“古都”っていう所だな」


「グレッグは行ったことがあるのか?」


 元々トラバンストの出身であるグレッグは知っているようだ。


「ああ、いや行ったことは無いんだがな。トラバンストが聖王国になる前の都だった所だと教わったことがある」


「聖王国になる前?」


「ああ、そうだ。元々トラバンストは当時あった国の“トラバンスト地方”って呼ばれる場所だったんだが、最初の国王となった人物がガーネリアス神から神託が下って、亜人種族を排他し人間族だけが(たみ)となる “トラバンスト国” というのを建国したのが始まりで、その当時の都がナバータって所さ」


「それが聖王国になったってのは?」


「やっぱりガーネリアス神からの神託だったらしい。国教をガーネリアス教とし、自身が国王を名乗り、王都を現在のヒューゴイスにしたんだと。その時に国名をトラバンスト聖王国と定めた……というか、そうするようにとの神託に従ったって事だがな」


 個人的には神託なんてものは、大抵はただの自分の理想とか希望なんかを都合よく夢の中で描いちゃったモンだと思ってるが、ラダリンスさんからこの世界の事情を聞いてる今の俺には、ガーネリアスによる神託ってのは事実なんだと思える。


「それがおよそ300年ほど前。それ以降、トラバンストは人間中心主義を掲げて支配地域を広げていった。元々の土地にいた亜人種族は迫害を受けて殺されるか、奴隷として売られるかになった」


 グレッグの顔が少し険しくなる。


「本当に反吐が出るような国さ……」


 最後はボソリと呟くような小さな声だが、この国に係る人間に聞かれるとあまりよろしくない内容だ。


 他の入国者たちからは程よく離れているし、馬車が進む音で俺たちの会話が周囲の連中に聞こえる事は無いのだが、それでもシーニャはずっと周囲に耳を傾け緊張した面持ちだった。


「シーニャ、あまり警戒しなくていいぞ。ハッキリ言ってこの辺りにいるような連中が束になって掛かってきたところで俺たちの敵じゃない」


「ん、分かってる。ただ何か情報があればいいかな……って、思って」


「そうか。ありがとな」


 そう言いながら、思わずシーニャの頭を撫でてやってしまった。


 シーニャは少し驚いたような表情をしつつも、珍しくニコリと笑って小さく頷いた。それはそれで良かった……の……だが……それを見ていたハースが口を尖らせている。

 これはマズイ。


「ターナス様! あの、私も、あの、えっと、あの……」


「ハース、分かってるぞ。ハースもすっごく頑張って俺を助けてくれてたからな」


「は? はい! えっと……」


 いや、俺も言葉が足りないのは分かってるが、今までの戦闘やら後始末やらで色々と頑張ってたのは知ってる。それを言いたかったのだけどちょっと何言ってるか分からない状態になってしまったっぽい。

 

 戸惑うハースに、アレーシアが言葉を掛ける。


「ターナス様はちゃんとハースの事を見ててくれてたのよ。お城で騎士や衛兵との戦いで頑張ったでしょ? その事を言ってるのよ」


「はい! ありがとうございます!」


 アレーシアに言われて戸惑いの顔は薄れたが、それでもまだ笑顔とはいえない。


「ハース、あのな、言葉が足りなくて悪かった。まぁあれだ、アレーシアが言うように先の戦いでハースもみんなと一緒に頑張って戦ってくれたのは分かってたんだが、ちゃんとお礼をしなくてすまなかった。ありがとう」


 そう言ってハースの頭をクシャクシャになるまで撫でてやった。


 ようやく満面の笑みになったハースの後ろで、アレーシアがドヤ顔で胸を張っているのが少しばかり癪に障るが……まぁ、今回は目をつぶろう。

 それに、他のメンバーもニヤニヤされてちょっと居心地が悪いが……うん、今回ばかりは俺が悪いということで我慢する。後で覚えてろよ!




 そんなこんなで道中はわりとノンビリ進んだ。

 途中、冒険者ギルドがある町では情報収集を兼ねて宿泊したものの、王都から離れた土地では亜人種族が奴隷として使われていることもなく、あまり有益な情報は得られない。

 ただ、ガットランドが国教をガーネリアス教からラダリア教へと変えたことで「他国からの亜人種族の移入が増えているらしい」という話を聞いた。

 逆に、その事でトラバンスト国内では「奴隷の取引きや監視が強まるのではないか?」と懸念されているようだ。


 そうなると、当初の予定以上に短期間で事を片付ける必要に迫られるかもしれない。

 

「グレッグ、ナバータまではあとどれくらい掛かりそうだ?」


「そうだな……何事もなければ明後日には着くだろう」


「そこから王都までは?」


「あ~、徒歩だと5日は掛かる。馬車なら早くて2日、遅くても3日かな。勿論、何事もなければ――だがな」


「そうか」


 これだけのやり取りだが、スグに皆も現状を理解したようで真面目な面持ちになった。


「場合によっては少々無理をするかもしれん。一応、皆もそのつもりでいてくれ」


 俺の言葉にそれぞれが大きく頷いたり、了解した意の言葉で返事をして気持ちを引き締めたようだ。




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