第147話 トラバンスト入国
馬車で王都を出立して一日半、グーレディアに到着した。
行き交う人々は一見して商人風の者が多いように見えるが、冒険者の姿も結構見受けられる。
雰囲気的にはランデールにある多くの町で見た景色と似ているが、決定的に違うのは亜人種族の冒険者がいないことか。
「取り敢えずは、トラバンストへの入国申請の前に冒険者ギルドだな」
騎士団長は冒険者なら比較的容易に入国出来るような事を言ってたが、グレッグも全く気負うような感じもなく、何ならこのような事は慣れているような素振りだ。
俺が心配し過ぎなのだろうか。
「なぜ冒険者ギルドに?」
「ギルドでガーネリアス教のペンダントを手に入れる。アレがあると殆ど警戒されることはないんだ」
「異教徒扱いされない……って事か」
「そういう事」
「っていうか……なんで冒険者ギルドでそんなモノを?」
「本来、ガットランドも国教がガーネリアス教だからトラバンストとは友好関係にあるワケなんだが、まぁ……俺たちみたいに出自がガットランドじゃない冒険者なんてザラにいるワケよ。そういう連中の中にはラダリア教のヤツだっているワケだし、それでも稼ぎ元があればトラバンストに行きたいだろ? そんな時に異教徒だからって理由で足止めされるのも癪じゃねぇか。それでギルドがペンダントを融通してくれるってワケさ」
「いや、それ、教会とかにバレたらギルドもマズイんじゃないの?」
「さあな。今までずっとそれがまかり通ってんだから、こういうのを<暗黙の了解>って言うんじゃないのか?」
正直、もっと厳格にガーネリアス教徒とそれ以外の者を隔てていると思っていたのだが、冒険者に関してはかなり融通を利かせているのか、それともただ単に有耶無耶にしているだけなのか。
取り敢えずはグレッグを先頭に冒険者ギルドへと赴く。
この時点でハースとパイル、そしてシーニャには魔法で人間族の姿に偽装させた。
ギルドでは全てをグレッグに任せる事にした。だって分からないしな。
ガーネリアス教のペンダントを融通してもらうには、一応少額ながらも金が要るらしく、人数分のペンダントで銀貨数枚必要だったようだ。
もっとも、リビエナは元々ガーネリアス教の神官だったからペンダントは自前の物を持っていたが――
「そういえばリビエナってガーネリアス教の教えに背いて捕まったんだよなぁ? ペンダントを取り上げられたりしなかったのか?」
「ううっ……。それはまぁ、背教者として捕まりましたけどもぉ……ペンダントは取り上げられませんでしたよ。そもそもあの時は確かに罪人扱いされてましたけど、ちゃんとガーネリアス教の真っ白な神官服だって着てたじゃないですか!」
真っ白な――とは言うが、初めて会った時のリビエナは結構悲惨なほどにボロボロだったような気がするけどな。
ペンダントを取り上げられなかったのは、取り上げる程の事ではなかったからなのか、単に忘れていたからなのか―― まぁ、今の状況的にはどっちでもいい事か。
兎に角、全員がガーネリアス教徒の証であるペンダントを手に入れたので、国境の検閲所へ向かった。
ガットランド側の検閲所は身分証の提示だけで通過し、そのままトラバンスト側の検閲所に入る。
因みに、俺とハースは未だに正規の身分証を持っていないが、ガットランド側の検閲所では「魔術師と弟子とその護衛」という名目で簡単に通過出来てしまった。
「トラバンスト聖王国への入国目的は?」
「聖王国冒険者ギルドへの登録と魔獣狩りだ」
グレッグが答えるとトラバンストの検閲官は身分証を持っていない俺の顔を訝しげに見る。
「そちらの魔術師の護衛との事だが、魔術師はどのような理由で?」
「ガットランドには生息しない“魔術に耐性のある魔獣”が生息していると聞いた。その魔獣の捕獲と研究が目的だ」
これは予め決めておいた設定だが、魔術の効かない魔獣が存在するのは事実らしく、実際に同様の目的で往来する者も少なからずいるそうだ。
「ガットランド王国には無いようだが、我が国には魔術協会があり冒険者ではない魔術師の多くは魔術協会に登録している。貴方にも登録をお勧めする」
「分かった。提案に感謝する」
これも想定内との事で適当に返事をしておけばいいと言われていた。
そもそも死神が登録できるのかねぇ?
「冒険者ならば承知していると思うが、念の為伝えておく。聖王国法に反する行為をした場合は聖王国内での冒険者資格はく奪、及び罪状に応じた刑罰に処した上で国外追放とする。必ず守るように」
「ああ、分かってる。皆も了解したよな?」
グレッグの言葉に全員が頷いて答えた。
「よし、では良い冒険を」
……これだけか? 存外すんなり通ってしまって少々気が抜けてしまいそうだが、まぁ素直に通過出来たのはなによりだ。
検閲所を通過し、商人や冒険者等の他の入国者たちに交じって街道を進んだ。
ある程度行くまでは他の者たちから目立たないよう、あくまでもただの冒険者パーティーとして手近な街を目指す。
最初の街に着いてからが、行動開始の第一歩になるだろう。