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第145話 もう一つの計画

「トラバンスト聖王国にいる亜人種族の救出……ですか?」


 ガルメリア侯爵も今はこの国の宰相であるから、戦争が始まった今は何かと忙しくて俺たちと話をしている暇などないはずだが――。

 そうは言っても俺たちを無下にすることは出来ないのが、今この国の現状。

 忙しい合間を縫ってでも時間を作らなければならないのが、宰相の立場。


「ガットランドとは亜人種族の扱い方が違うらしい。時間をかけていると対策を立てられてしまうだろうし、どうにか短期間で一気に救い出す方法がないかと思ってな」


「確かに、我が国では一市民が亜人種族を奴隷として所有する事はありませんでしたし、貴族が所有する奴隷もいるにはいましたが……それよりも排他的な扱いの方が多かったかもしれません」


 そもそもガットランドでは『人間中心主義』の名のもとに亜人種族は“物”として扱われる存在で、人間族からすれば存在を気に掛けることなどない石ころと同じだったのだ。

 そんなこの国が亜人種族を集めていたのは、枢要塔なるモノを建設するための人柱としての扱いだった。まぁ、ピラミッドやら古墳やらの時代も、そうやって人身御供という名の生贄にされた人たちがいたらしいが、この世界の『亜人種族を救う』という使命を帯びて転生させられた俺としては、それを「仕方がない」と割り切るワケにはいかない。


「我が国においてはタナトリアス公が国王と教王を公開処刑された事で、国民は勿論、貴族や兵士たちも亜人種族解放に関して異を唱える事はありませんでした。否、一部を除いて――ですが」


 その一部とはジェネリアス侯爵等の事だ。

 ガルメリア侯爵は言葉を続けた。


「トラバンストでは様々な業種において亜人種族を奴隷として使っています。特に精霊人族は国が厳しく管理しているらしいですから、見つけ出す事も容易ではないかもしれません」


「……」


 暫し沈黙が流れた。なかなか良い考えが浮かばない。


「まずは、亜人種族を解放するという目的を伏せるというのは如何でしょう?」


「ベルグレット外務卿、それはどういう事か?」


 束の間の沈黙を破り、ローデンサス摂政からベルグレット外務卿と呼ばれた男が、やや躊躇いがちな口調で提案してきた。

 外務卿……要は外務大臣ってところか。


「亜人種族を解放しようとしている事は伏せておき、何か他の理由を付けて、トラバンスト国王を含めた聖王国の要人を先に始末するとか……」


「随分簡単そうに言うが、国王暗殺などそう簡単に出来るものではなかろう」


「あっ、はい、いえ、まぁ、その通りなんですが……。タナトリアス公なら、もしかして……と」


 ベルグレット外務卿がチラリと俺の方に視線を向けたので、ふと目が合ってしまったが、彼は目を反らす事は無く、逆に<どうでしょうか?>とでも言ってるように感じられた。


「考えようによっては、その方法もいいかもしれんな」


「……タナトリアス公、何かお考えが?」


「外務卿の言う通り、俺たちの目的である亜人種族の救出は隠しておいて、表向きはこの戦争における特殊部隊的な役割で王都に突っ込んじゃうとかな」


「特殊部隊的……ですか?」


 ガルメリア侯爵の顔に<意味がワカラン>と書いてあるように見える。


「今回のこの戦争は、例の反乱貴族がトラバンストに救いを求めた事で、それを好機と見たヤツラがガットランドに侵攻しようと企んだのが切っ掛けだろ? まぁ、トラバンスト(向こう)の言い分としてはガットランド(こっち)が政府要人を誘拐したから、奪還のために戦争するんだ――ってな感じだったよな。何れにせよ、今の時点じゃ亜人種族がどうのって話は無いワケだ。だから、あくまでも国家間の戦争における兵隊として、俺たちはトラバンストに乗り込めばいいんじゃねぇの? って事さ」


 摂政をはじめ、宰相に大臣連中もお互いに言葉は発せず、黙ったまま顔を見合わせて考えを巡らせているようだ。


 そんな中、最初に言葉を発したのはグレッグだった。


「言いたい事は分かるが、具体的にどうするんだ?」


「軍や騎士団なんかの戦闘に関しては、そっちのプロに任せる。俺たちは隠密行動で王都へ向かい、中枢である王城を落とす感じだな。目的としては国王以下、政府関係者の暗殺だ」


「……軽く言ってくれるな」


 呆れ口調ではあるが、グレッグの顔には薄ら笑いが浮かんでいる。


ガットランド(こっち)の王様と教王だって、なんだかんだイケちゃったろ?」


「そりゃまぁ、そうだけどな」


「端的に言えば、ガットランドが戦争に勝ってトラバンストを占領する。まぁこれは一時的な処置だな。それで同じように新政権を樹立させて『人間中心主義』を放棄させるってワケだ。ここで亜人種族の解放になるワケだが、当然反対する連中も出てくるだろう。そういう連中は――」


「潰す……か?」


「当然」


 俺とグレッグの会話をマジマジと聞き入っていた侯爵たちだが、隣同士で顔を近づけて「本当に可能なのか?」「タナトリアス公なら、或いは」などと小声で話していた。


 可能か否かもない。ヤルんだよ!





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