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第144話 開戦の傍らで

 現状、ガットランド王国は俺たちとの戦闘で他国と戦争が出来る程の軍事的戦力が無い。だが、俺の魔法で無敵強化した部隊を編成する事で状況は変わる。


 現存する騎士や衛兵、傭兵などの中から<信頼できる者>を選抜させ、更に例の誓いをさせる。

――命令遵守であり逸脱した場合は即死――

 魔王軍の兵士に掛けたのと同じ魔法(モノ)だ。

 今回は殆どの者が、俺たちとの戦闘を生き延びた、或いは辛うじて生き残れた者から惨劇を聞かされた者たちだったとの事で、疑う事なく受け入れたそうだ。


 魔法強化された兵士は総勢で200名弱。

 恐らく敵は<万>に匹敵する数で侵攻してくるだろうが、命令に背かない限りは不死身の兵士が相手ではあっという間に壊滅するだろう。


 そして、情報を元にトラバンスト聖王国の軍が侵攻してくるルートを探り、そこへ無敵部隊を向かわせると、聖王国軍が越境し間もない場所で接敵し、事実上の開戦となった……との報告を受ける。

 まぁ、今回のこの戦争は国家間の政治的な問題であって、俺たちの『亜人種族解放』と『人間中心主義壊滅』とは関係が無いからな。


 とは言え――だ。

 トラバンスト聖王国では、まだ亜人種族が虐げられている状態だ。

 俺にとっても、この世界での始まりはトラバンストの亜人種狩りからハースを救ったことからなワケだし、この戦争は別にしてもトラバンストへは行かなければならない。


「グレッグって確か、トラバンストの出身だったよな?」


「ああ、そうだ。それがどうかしたか?


 報告を受けた後、俺とは別のテーブル席でパイル達と報告を聞いていたグレッグに訊ねると、俺の問いにキョトンとしながら答えた。


「トラバンストでの亜人種族の扱いというか、現状はどうなってるか分かるか?」


「ああ、そうだなぁ」


 ふと表情が真剣になり、徐に眉間に皺を寄せ、机に肘をつきながら手を顎にやり思い出そうとしている。


「俺が国を出てから……もう5年前になるから、その当時と状況が変わってるかどうかは分からんが、奴隷として扱われているのは変わってないだろう。基本的には人間族がやりたがらない重労働や危険な作業だな。それから彼等にしか出来ないような特殊な作業。あとは貴族連中が野獣狩りに行く時に囮として連れて行くことがある」


「……なんとなく想像つくな。胸糞悪くなりそうだが」


「ああ、多分想像していることで合ってると思うぜ」


「そもそも、国内に亜人種族が住む地域ってのがあるのか?」


「基本的に獣人種族の生活圏は無いはずだ。あんな国にいたら命が幾つあっても足りねえからな。ただ、精霊人族はいる」


「精霊人族?」


「ああ、ドワーフ族やエルフ族さ。彼等は同じ奴隷でも鍛冶や妙薬作りとして囚われてるがな」


 そういえば、この世界に来てからまだエルフを見た事はなかったけど……やっぱいるのか。


「ターナスはまだエルフを見た事がないのか?」


「おまっ! 人の心を読むんじゃねぇよ!」


「ハハハ、当たりかよッ! まぁ、実際エルフ族はトラバンスト以外じゃ見かけないからな」


 見透かされたようでちょっと悔しいが、トラバンスト以外にはエルフがいない理由はあるのだろうか。

 その事を聞いてみると……。


「トラバンストには【精樹の森】ってのがあるんだが、エルフ族はその精樹から出る【ファーナ】と呼ばれる何か(・・)を浴びる事で自然を操る力を得られるんだそうだ」


「そのファーナってのは何なんだ?」


「ワカラン。エルフ族にも見えるワケじゃないらしいんだが、精樹からそのファーナと呼ばれる力の源みたいなモノが出てるんだと。それが身体の中に浸透していくのが分かるらしい。だから精樹が無い場所に長くいると妙薬を作る事が出来なくなっちまうんで、奴隷であっても定期的に精樹の森でファーナを浴びさせるとの事だ」


「妙薬ってのは、どんな物なんだ?」


「色々さ。代表的なモノでは病を治す治療薬(ポーション)だな。傷を治すポーションは誰でも作れるが、病を治すポーションはエルフ族にしか作れない。あとは媚薬だな。アレは貴族が好んで使うらしい。因みに媚薬もエルフ族以外には作れない」


「確か、ポーションはめちゃくちゃ値段が高いとか言ってたっけ。という事は、奴隷とはいえエルフは結構大事にされてるってワケか」


「いや、それはない。あくまでも亜人種族。他の奴隷と一緒だよ。トラバンストじゃあな」


 グレッグの顔に嫌悪の感情が見れた。出身国とはいえ、相当トラバンストを嫌っているようだ。


「因みに、トラバンスト国内にいる亜人種族を救うとしたら、どうするのが最適なんだろう?」


「うん? うぅ~ん……そうだなぁ」


 トラバンストではガットランドにおける亜人種族の扱いとはかなり違いがあるようだし、行き当たりばったりでは安全に解放するのは難しいかもしれない。

 とはいえ、時間を掛ければ相手に対策を取られてしまい、余計に難しくなりそうだ。


 グレッグも目を閉じて考えを巡らせているようだが、眉間の皺が深くなるばかりだし、近くで俺たちの話を聞いてたアレーシアやパイルたちの方をチラリと見れば、首を傾げてお手上げのポーズをしている。

 詰まるの早すぎるだろ。


「俺たちだけじゃ良い案も浮かばねぇし、侯爵様たちにでも聞いてみるか?」


 やや溜め息交じりにグレッグが口を開いた。

 




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