第141話 聖王国の返事
捕縛した反逆貴族とトラバンスト聖王国の役人や軍人等を連れて王城に転移魔法で帰還すると、いったん連中を近衛騎士に引き渡してからシェレル女王、及びガルメリア宰相への報告を済ませた。
連中は王城地下の牢獄へ禁牢され、どのような処罰を下すかをこの後話し合うらしい。
「お疲れさん、ターナス。それにパイルも」
「いやぁ、なかなか面白かったよ。グレッグ」
戻った俺たちにグレッグが労いの言葉をかけるが、そもそも俺自身はそんな大層なことはしていない。それよりもパイルの方は個人的に色々と楽しめたようで、ここぞとばかりにグレッグやアレーシアたちに出来事を語り始めだした。
グレッグもアレーシアもやや困惑気味のようだが、まぁ我慢してもらおう。
「タナトリアス公、感謝致します」
グレアモルドが近づくと、握った右手を左胸に当てて騎士流の礼をしてきた。
「俺にとっちゃ大した事じゃない。それに、あんたが頭を下げる事でもないだろう」
「いえ、それでもタナトリアス公には助けられてばかりです。今まで何もせずにいた自分に恥じるばかりで」
「それは立場上仕方ない事だっただろうさ。そんな事よりもこれからの事を考えるべきだ」
そう言うとグレアモルドは感慨深げに目を潤ませていた。
「さて、それはさておき……トラバンストの方はどうだろうか? 何か事を起こしそうか?
「はい、いえ。まだ通告を出したばかりですので、返事は今しばらくかかるかと思われます」
「ああ、そうか。この世界じゃ手紙くらいしか手段はないもんな」
トラバンスト側がどう動くのかが分かるのは、まだ数日先になりそうだ。それまでは暫くゆっくり出来そうだな。
パイルからの熱心な解説を受けて苦笑しつつも、チラチラと俺の方に目を向けるグレッグを放っておき、俺はそそくさと部屋を出てハースの所へ向かった。
シーニャやレトルス、そしてリビエナと与えられていた部屋で寛いでいたであろうハースだったが、俺の顔をみるなり飛び込んでしがみついてきた。
「ターナス様、おかえりなさい!」
「ああ、ただいま。いい子にしてたか?」
「えっ? もちろんですよ! だって、ターナス様が戦ってるのに、遊んでなんかいられないじゃないですか」
「いや、別にそんな大した事じゃなかったんだがな……」
「それで、敵はやっつけたんですか?」
「ああ、勿論やっつけたぞ。とっ捕まえて牢屋にぶち込んだよ」
パイルから嫌々話を聞かされているグレッグたちとは逆に、ハースは今回の件の一部始終を聞きたがった。
正直、子供に聞かせるような話でもないのだが、ハースにせがまれては仕方がない。少々大袈裟に『征伐譚』を語ることにしたのだが――
何故かシーニャ、レトルス、リビエナまでもがいつの間にか近くに来て座っており、首を伸ばして話を聞く体勢になっている。
ヤレヤレ……。
レトルスとリビエナは兎も角、ハースとシーニャに向けて少し大袈裟気味に身振り手振りを交えて話しをしてやっていると、パイルから解放されたグレッグがうんざりした様子で俺の隣に腰掛けた。
「はぁ……。これならターナスの話の聞いてる方が分かりやすいし楽しめる」
「なんだかんだとパイルも活躍してくれたからな。まぁ、尋問にはちょっとアレだったが……」
「ああ、察しがつく。何しろ“如何に相手から望んで喋らせるか”ってのを散々聞かされたからな。連中にとっちゃ自業自得ではあるが、少々同情しそうになった」
話を聞いただけで現場を見ていないグレッグでさえコレだ。あの現場を直接目にしたザーラン、ケルツ、ナッスルたちがどんな気分だったかは……追って知るべしだな。
とは言え、ザーランたち三人は尋問後の残党狩りで発散させられたのか、帰還する時にはスッカリ顔色も良くなっていたから大丈夫っちゃぁ大丈夫だろう。
結局、その後は特に何事もないまま、俺たちは城内で思い思い過していたのだが、数日して漸く慌ただしくなった。
「トラバンスト聖王国から“誘拐した聖王国の要人を解放せよ”と通告してきました。“返答次第では兵力による奪還も辞さない”との事です」