第139話 捕縛
※一部敬称表現を修正しました。
護衛であっただろう兵装していた者は全てザーラン達が始末し、それらとは別のおそらくは主犯であろう人物等を呪縛で拘束した。
その捕らえた七人は――。
この城の主でありこの謀反の主犯でもあるジェネリアス侯爵。そして、そのジェネリアス侯爵に追従したアルフェルト侯爵とマルテッツァ男爵。この三人はザーラン達が顔を知っていたのでスグに身バレした。そしてジェネリアス侯爵の側近だという男が一人。
そして、この四人以外がトラバンスト聖王国の者だった。
まず最初にパイルとザーラン達が三貴族の方から丁重に尋問を始めたのだが、黙秘どころか罵詈雑言が酷かったのでパイルが少々キレてしまった。
とは言え、パイルがキレたその後はしっかりと質問に応じてくれたので良しとする。まぁ、何故かザーランとナッスルの顔から生気が無くなり、ケルツは部屋の窓から半身を乗り出して外の空気を吸っているのが気になるが……。
要は――
「やはりジェネリアス侯爵は亜人種族の解放に断固反対だったようで、聖王国を後ろ盾にして王室に『人間中心主義禁止令』の撤廃を要求する手筈だったとの事です。アルフェルト侯爵もマルテッツァ男爵も同様で、領地では亜人種族の奴隷が絶対的に必要とされていたようなので、これを解放されると領地経営に相当影響が出ると……」
「亜人種族差別があるのは聞いてたが、そんなに奴隷として使われてたのか?」
そもそもガットランドに入ってから亜人種族の姿も見なかったので、奴隷として使役されている事があまり想像出来ていなかった。
少々驚きつつ質問する俺にザーランが続ける。
「奴隷――と言っても、王都では小間使いや雑用を言いつけられるのが普通で、一般の民衆には奴隷という程の認識では無かったかもしれません。ただ、地方では過酷な重労働をさせられる事が多いでしょう。対価は払っていたとは思いますが」
「賃金を払っていたとでも?」
「いえ、賃金ではなく食事面という事で……」
無償で働かせていれば奴隷と同じだろうが、まぁ『人間中心主義』を掲げる国家ではそれが普通の事なんだろうな。
成る程、三貴族が謀反を起こした理由は何となく分かった。
次はトラバンスト聖王国の連中だ。
一人は聖王国軍務大臣補佐官という男。コイツはこの侵攻軍の取り纏め役な存在らしい。主に事務的な役割だ。
もう一人は聖王国騎士団 第八騎士団長という男。実質的な侵攻軍の指揮官であり、軍事的な面を一任されているのがコイツとのこと。
そしてもう一人、聖王国魔術省の特務機関員だという男。ナッスル曰く、魔術省というのはトラバンスト特有の省庁で、所謂【魔術研究機関】に該当する所らしい。
「ジェネリアス達に手を貸したのは何故だ?」
「もともとジェネリアス侯爵とは関係があったのと、やはり『人間中心主義』の教理からのようです」
「もともと懇意な関係だったとしても、他国が、たかが一領主の王室に対する謀反に支援するか? トラバンストとガットランドは友好関係にあるんだろう?」
「確かに両国ともガーネリアス教国家であり、人間中心主義を遂行する国同士ではありますが、実際には魔族国との紛争に備えて不可侵を結ぶような関係なのです」
「パワーバランス的なもの……か?」
「そうですね。両国間での戦争を避けるのが目的のような」
「それじゃあ、謀反貴族に手を貸したのは、ガットランドに対して優位に立てるように……って感じか?」
「もっと具体的に言えば、この機会に領土を広げようと考えているようです」
「弱体しているとはいえ、不可侵条約を結んでるのにか。まるでかつての……」
「何か?」
「いや、何でもない。どの世界でも同じような事はあるもんだなってさ」
取り敢えず、捕らえたジェネリアス侯爵他二名の貴族は王都に連行する。新女王となって早々にこのような輩が出てしまったし、やはり見せしめとして大々的に処刑するのが一番だろう。
これについてはザーラン達の意見も同じだ。
そしてトラバンスト聖王国の連中だが、俺としては此処で処刑して首をトラバンストに送り返すってのを考えたのだが、それに関してはケルツから「場合によってはコチラが彼らを拉致して因縁を吹っ掛けたと思われる可能性があります。確固たる証拠―― 確実に聖王国側が手を貸したという証拠を示す必要があります」と、言われてしまった。
そんなもの、今此処にトラバンストの軍事的役職がいるんだから証拠になるだろうと思うのだが……この世界の国家間の何らかのルールがあるのかもしれんし、ここはケルツたちに任せるしかないか。
「さて、それじゃあコイツ等は全員、王都に連行するとしてだ。城内にいる他の騎士や傭兵達はどうする?」
「タナトリアス公、例の防御魔法は今もまだ効いているのでしょうか?」
「絶対防御魔法か? それなら大丈夫だ、まだ効いてるぞ」
「ならば我々にお任せ頂きたい」
「殺るか?」
「あ、一応話をしてみてからです。シェレル女王陛下に降るのであれば良し。抵抗するのであれば……致し方無し」
「分かった。そっちはお前たちに任せよう」
「ハッ!」
大袈裟に敬礼して三人共部屋を飛び出して行きやがった。
「それじゃあパイル、俺たちは暫くここで待機するとしようか」
「そうですね。折角時間が出来たので、もう少し詳しく尋問してみましょうか」
え? 意味がワカラン。何故また尋問する?
パイルの言葉と明らかに意味ありげな笑顔を見てしまった反乱貴族&聖王国の連中が真っ青になって震えだしたんですけど?