第137話 簡単なお仕事です
※一部敬称表現を修正しました。
ジェネリアス侯爵を筆頭に新女王の体制に謀反を企てたうえ、トラバンスト聖王国の兵を領内……というよりも国内に密入国させた反逆貴族達に対しては「この場で処刑」という事でザーラン達と話をまとめた。
「取り敢えず、お前達には完全な防御魔法をかける。こいつは云わば攻撃を受け付けない無敵状態になるから、防御を考えず攻撃だけに専念出来る」
「そ、そのような魔法が⁉」
「俺の仲間がお前達騎士と戦っていた様子を見ていないか?」
「ああ、はい。いえ。我々はグレッグ殿達とは直接交戦はしてはおりませんで、駆け付けた時には既にタナトリアス公が国王様……いえ、前国王と教王を城から連れ出してきたところで」
確かに、もしグレッグ達と交戦していたのであれば、下手すりゃ今頃ここにはいないかもしれないもんなぁ。
「少し規模の大きな戦いになる時には、俺の仲間にはその防御魔法をかけてるんだ。だから俺の仲間は戦闘時に一切傷を負ってないだろ?」
チラリとパイルの方を見ると、ドヤ顔で胸を張っている。
ザーランもパイルの方を横目でチラッと見つつ、話を続けた。
「そういえば……確かにグレッグ殿は勿論の事、女性のお仲間達もかすり傷一つ無かったような……。それで、そのような魔法を我々にも?」
「そうだ」
その言葉を聞いた途端、三人とも顔を見合わせて目を見開き笑顔になっていた。
そりゃそうだろう。騎士として様々な戦闘に出向いていただろうが、死はおろかケガの心配さえしなくていいんだからな。
「それで、我々は何をすれば⁉」
ケルツがグイッと勢いよく前にのめり出して訊ねてきた。
「取り敢えずは城内の案内かな。親玉連中が何処にいるのか、大まかな予想はつくか?」
「はい。おおよそ城の作りは似たようなものですから、どの辺りの部屋にいるかは想像がつきます」
「そうすれば転移魔法でさっき俺が行った城の正門へと転移する。そこからは俺が切り開くからケルツが案内をしてくれ。俺は正面からの攻撃に対応するからザーランとナッスルは後ろからの追撃があれば対応を頼む」
「「お任せ下さい」」
二人とも大きく頷きニヤリと笑った。なんだかこれから起こる事を楽しみにしているようだ。
案外こいつ等も戦闘狂なのだろうか。
「それじゃあ魔法をかけるぞ」
三人共大きく頷くと、先ほどまでとは打って変わって真剣な表情になった。
「『絶対的身体防護』」
実際には言葉にして発しなくてもいいのだけど、やはり声に出した方が彼らにとっても魔法をかけられたという実感が湧くものだ。
事実、『絶対的身体防護』をかけたあと三人はそれぞれ手を握ったり開いたり、自分の体を抓ったりして感覚を確認しては驚いたりニヤニヤしたりと静かに騒いでいるのだが……いい歳した男、それもこれが騎士様だと思うと少し可笑しくも見えるな。
「さて、それじゃあ城の入口まで転移するぞ。全員手を繋ぐか肩にでも手を当てていてくれ」
「て、転移ですか⁉ それも魔法で?」
「ああ、そうだ。ただコイツは一度行った場所である必要があってな」
「いえいえ、それでも凄いですよ。未だ魔術でも転移魔術は開発されていないのですから」
パイルは【魔術印符】で転移を可能にしちゃったんだけど……まぁ、あれは俺の魔法あっての事だから特殊なのか。黙っておこう。
これから戦闘になるはずなのに、何故か遊びにでも行くかのようにウキウキしている三人とパイルを連れ、先程の傭兵達が警護していた城門へと転移した。
◆◇◆◇◆◇
城門前に転移したのと同時に警備している傭兵たちを『呪縛』で拘束しつつ、そのまま催眠魔法を掛けて昏睡状態にして目立たぬ場所へ移動させるようザーラン達に指示すると、ポツリとパイルが口を開いた。
「殺さないんですか?」
「あぁ、さっき傭兵達が話してたのを聞いたんだが、どうもコイツ等も食い扶持のために仕方なく参加してるっぽかったからな。まぁ、そう無闇矢鱈と殺す必要もないかなって思ってな」
「なるほど、そういう事ですか」
パイルにしては珍しく素直に納得したな……と思ったら、グレアモルド達のような事もあるから一概に敵視するのは危険かも――と感じていたらしい。
ちょっとパイルらしくない気もするけども、それは言いませんよ。
全員に認識阻害の魔法を掛け、そのままケルツを先頭に城内へと進む。
騎士を見つけたら状況に応じて結界で覆って『死絶の業火』で始末するか、『呪縛』で拘束して転がしておく。
バッタリ出くわしても認識阻害のおかげで見つかるという事はないが、極力相手の戦力は削いでおいた方が後々楽だろう。
ケルツをはじめ、ザーランもナッスルもあまりにも簡単に突き進んでしまっているために、顔がいささか戸惑い気味なのは仕方がないか。
ふと、ザーランが「いつもこんなに簡単な仕事なら……」と呟いたら、他の二人も無言で頷いていた。
とは言え、やはり敵さんもバカではない。警備している騎士や兵士の異変を感じて慌ただしくなってきた。
一階から二階。そして更に内部へと進むにつれ、騎士や兵士だけでなく、所謂城内で働いている給仕のような者の姿も多くなってくる。
どうやら目当てとする人物たちが集まっている場所に近づいているようだ。
いったん誰も居ない部屋に入る。
「おそらく、この上の階に応接室があるはずです。これまでの状況からみて侯爵たちはそこに集まっていると思われます」
「そうなると警備の数も多いだろうな」
「勿論。――で、如何なされますか?」
「フンッ、一択だな。強行突破だ」
こちらは人数こそ少ないとはいえ、絶対に負傷しない無敵騎士だ。いちいちコソコソと倒していくよりも一気に片付けた方が早いし、何よりジェネリアス侯爵たちに逃亡や反撃の余地を与えない方がインパクトあるだろう。
「まずは俺とパイルが魔法&魔術で廊下にいる警備兵たちを始末する。そのまま突き進んで応接室のドアを破壊するから、三人は部屋に突っ込んで中にいる警備兵たちを始末してくれ」
「「「了解です」」」
「それで、侯爵たちはどのように?」
「俺が魔法で拘束するから、色々と尋問しようじゃないか」
俺の言葉に騎士三人は顔を見合わせながら苦笑しているが、それとは別にニヤリと口角を上げているパイルの顔は……悪い事考えてるよな。絶対。