第136話 相談しよう
※一部敬称表現を修正しました。
ジェネリアス侯爵の直轄騎士とは思えない装備がバラバラの兵士達を注視していると、キッチリと装備の揃った数人の兵士らしき者がやって来た。
すると、門前の兵士達は喋るのをピタリと止めて姿勢を正した。
「少しお喋りが過ぎるようだね。傭兵の皆さん」
やって来た兵士の一人が発した言葉によると、この門前の兵士達は傭兵なのか。それで装備もバラバラでおよそ統率された騎士とは思えない言動だったんだな。
「……も、申し訳ない。騎士殿」
「私は気にしないが、どこに卿の目があるか分からないからね。雇い主に嫌われたら君達は困るだろう?」
「は……はい、その通りです」
「まぁ、戦になったら少しは役に立つ働きをしてくれたまえよ。でないと、マルテッツア卿の立場が……ま、そんな事はどうでもいいか。もともとマルテッツア卿には期待していないし」
男の言葉に連れの兵士達もクスクスと笑っているのが窺えた。
逆に、言われている傭兵達は苦虫を嚙み潰したような顔で視線を反らしている。
「此度の戦は王家に対する謀反であるからな。万が一にも負けるようなことがあれば、逆賊として粛清されるであろう。それでも我々騎士には幾つかの選択肢があるが、君達傭兵は間違いなく処刑される。その事をよく頭に入れておくといい」
何やら上から目線で言いたい事だけ言って城壁内に入って行ったが、話の内容から彼らはジェネリアス侯爵か……もう一人の貴族、アルフェルト侯爵のお抱え騎士だろう。
負けても「騎士には選択肢がある」と言ってたな。侯爵共々トラバンストに身売りでもするつもりか。
連中が去った後も傭兵達は暫く黙ったままだったが、ようやく一人が口を開いた。
「俺だって、マルテッツア領なんかに生まれてなけりゃ……」
「全くだ。まともな騎士もいなけりゃ、領民よりも贅沢の方を優先する領主なんてよ……」
「ははは……もう言うな。さっき言われたばかりだろ<どこに卿の目があるか分からない>ってさ」
「ああ、そうだな。スマン」
マルテッツア――男爵だったか。確か領地が小さく騎士も数十人程度の貴族だとか言ってたっけ。
とは言え、まかりなりにも男爵っていうくらいなんだから、それなりの地位だとは思うんだけど……貴族の階級ってのもよくワカランな。勉強しておけばよかった。
傭兵にしても、どうやら彼ら自身は王家に対してどうこうという気持ちは無さそうだ。生活のために止むを得ず傭兵をやってるのかもしれん。
さて、どうしたものか。
今現在、此処にいるのはジェネリアス侯爵の騎士は当然として、目の前にいるマルテッツア男爵が連れて来た傭兵。勿論、数少ない騎士も当然付いてきているはずだ。それと先ほどのアルフェルト侯爵付きの騎士。そして話の内容からトラバンストの聖騎士団が既に入り込んでいる。
全体の正確な数が分からないが反乱軍として考えた場合、王族と王家側に加担する貴族達の騎士達を比べたら戦力としては相当少ないはずだ。
否、まだ反乱側の三貴族とは別に、王族側にどれほどの貴族が就くか不明だ。
場合によっては状況次第で反乱側に寝返る貴族が出てくるかもしれん。
ここで今いる連中を殲滅するのは簡単……なんだけども、果たしてそれが正解か否かだよなぁ。
反乱貴族の殲滅は兎も角、問題はトラバンストがどう出てくるかだよな。
しょうがねぇ、一回ザーラン達の所に戻るか。
「……ッ!」
「待て! 俺だ、俺ッ!」
「タ、タナトリアス公……驚かさないでいただきたい……」
「スマン。それにしても凄いな。一瞬で臨戦態勢に入るなんて」
俺が転移して姿を現したのと同時に、おそらくは休んでいたはずだが瞬時に立ち上がって剣のグリップを握り身を構えたんだからな。
後で聞いたら剣を抜かなかったのはあくまでもジェネリアス侯爵領内であるからであって、相手が誰であれ剣を抜いてしまえば完全なる敵対行為になるためで、騎士としての本能が抜くのを抑制していたそうだ。流石は上級騎士。
「それで、城の方はいかがでしたか?」
「ああ、戦力としては大したことない。極論から言えばあの場にいる人間を殲滅する事は可能だ。ただ、やはり既にトラバンストの連中が城内にいるようだ。こいつ等の始末をどうすべきかを聞きたくてな」
「成る程、やはり聖王国との結託は本当でしたか。それにしても、既に我が国内に聖王国の者を入れてるとは……ジェネリアス侯爵め」
「仮に、城の中にいるトラバンストの連中を皆殺しにしたとして、トラバンストはどう出てくると思う?」
「ウ~ン、難しいですね」
ストレートに意見を聞いてみたのだが、三人とも腕を組んで考え込んでしまった。
言ってみれば不法侵入しているワケだし、ましてや謀反を起こしている他国の貴族に加勢しているのだから、こちら側が処罰をしてもいいんじゃないのか?
暫し考え込んでいた後、ケルツが口を開いた。
「我が国と聖王国は一応友好関係にありますし、ガーネリアス教を国教とし人間中心主義においても同盟関係に――ありました。そう、今まではそれなりに繋がりがあったのですが、今回のその……」
何か言い難そうな面持ちで俺の様子を窺っている。
「要するに、俺がガットランド内のガーネリアス教と人間中心主義を潰しちゃって、それらを一掃した新しい王政を作っちゃったから、その同盟関係も破棄されたって事か?」
「破棄……ウ~ン、破棄したと宣言したわけではありませんが、結果的にはそうなったわけで……。そうなると……そうなると? そうなると別に同盟国でもないし――」
「何れは事を構える結果になってたんじゃないか?」
ケルツが言い悩んでいると、ザーランがハッと思いついたように口にした。
「ならば、遅かれ早かれ戦争になるか」
ケルツが口にした後、それまで黙っていたナッスルもハッキリとした口調で喋りだした。
「そうだな。こうして既に逆賊である貴族達と組んで我が国の王家に対して弓を引いているんだ。しかも正式な通達無く我が国に不法侵入している。これはもう侵略と言っていいだろう」
結局、ナッスルの言葉に他の二人も大きく頷き、ジェネリアス侯爵の城内にいる者を殲滅する方向で一致したようだ。
「タナトリアス公、殲滅作戦には我々も同行させていただきたいのですが」
「まぁ、お前達がいた方がイイ場合もあるだろうからな。分かった」
取り敢えず、逆賊貴族はここで処刑する。それとトラバンスト聖王国の連中もどうせ戦争になるのなら、今のうちに見せしめを作っておくのもいいかもしれんな。