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第135話 ジェネリアス侯爵領

「信じられん、こんな魔法があるなんて……」

「魔法に関する認識が変わるな」

「ああ。魔術でこのような移動は聞いた事もないし、教会の聖術でも不可能だろう」


 浮遊しての超速移動は相当衝撃的だったようだ。

 馬に餌と水を与えるためと、所謂トイレ休憩のために2度ほど止まった以外は移動しっぱなしだったが、その休憩のために手が空くと三人は即座に固まってあれやこれやと議論をしていた。

 その時にパイルも三人の議論に紛れ込んで、如何に俺の魔法が凄いものなのかを力説しているのだが……正直止めて欲しい。


 そんなこんなで昼過ぎに王都を出発した俺たちだが、未明にはジェネリアス侯爵領に入り、城のある城塞近くまで来ることが出来た。

 因みに、ザーラン曰く途中からルートは「野党や盗賊が使う裏街道」に値する道を使ったとの事。大きな町や検問所があるような場所は回避する為に「やむを得ず使った」のだと釈明していたが、俺は別に非難なんかしてないんだけどな。


 更に「他の領主直轄騎士が通るとなると、いろいろと面倒ごとが多いものですから」と、やや言葉を濁していたが、国軍と違い各領主の直轄兵力だから致し方ない事であろう。


「まぁ、通ってきたのは伯爵領なので、無理を通すことも出来なくはないのですが……。それをやるとガルメリア侯爵閣下の印象が……はい」

 

 他の二人が苦笑いするだけの中、ザーランが一人で弁明に努めてる。きっと彼は世渡り下手なのだろう。俺には分かる!


 それはさておき、城塞だ。

 城塞に入る為の通用門は幾つかあるのだが、騎士によるとこのジェネリアス城塞の出入口は三カ所あるらしい。

 しかし、通常開かれているのは二カ所のみで、尚且つ、王都並みに警備も厳しいとの事だが……。

 パイルは当然の如く全く気にしていないようだが、ザーラン達は最も難問となる場所であると捉えて真剣な面持ちで顔を見合わせていた。


「此処まではタナトリアス公の魔法で問題なく来れましたが、この先は如何なされるのでしょうか?」


「まずは俺が単独で壁の向こうに行って来る」


「はっ……? えっ……? 壁……、えぇ?」


 ザーランの疑問に答えたら、目を丸くして驚いてしまっているのだが――うん、面白いな。


「要は、タナトリアス様が認識阻害魔法を掛けて内部に入って、あとは転移を使って――という事ですよね?」


「ああ、そうだ」


 やはりニヤニヤしていたパイルは分かってたってワケだ。

 だからってザーラン達に向かって得意気な顔をするのはヤメなさいっての。


「俺は自分自身が一度行った事がある場所ならば転移する事が出来る。ただ、そういう理由だから一度中に侵入しなくちゃならないんだ」


 一応、三人の騎士に転移魔法について説明はしておくが、他にも仲間を目標にして転移する事も出来る事はまだ教える必要はないだろう。


「それじゃあ、取り敢えず行って来る。お前達は見つからないように隠れていてくれ」


 四人には城門に続く道から逸れた場所にある、木が密集した場所に身を隠してもらいつつ、念のため更に認識阻害と結界を張っておく。

 騎士達はやや緊張した面持ちだが、魔法の効果を知るパイルは平然としていた。


 自分自身にも認識阻害を掛け、数回の瞬間移動をして城門の前まで来て暫し待機しつつ、夜が明けて空が紫色になってきた頃、ようやく一台の馬車が城門に向かってやって来た。


 ――この商人らしき馬車に付いていくか。


 検査を終え城塞内に入ろうとしている馬車の一行に紛れて侵入すると、辺りを見回して人の少ない場所を目指しながら瞬間移動を繰り返す。

 王都にあった【森の精霊の休息地】を探してみるが……なかなか見つからない。もしかしたら此の領地には無いのだろうか。


 周囲を見渡して高い建物を探してみると、とんがり屋根の上にガーネリアス教のシンボルを掲げた建物が見えた。

 ――ガーネリアス教会か。


 瞬間移動で屋根の上に移ると、城塞内が一望出来た。


 木々が生い茂っている場所は幾つかあるが、やはり【森の精霊の休息地】と言えるような感じには見えない。

 確かパイルの話では、ガーネリアス教とて元々あった【森の精霊の休息地】を潰すことは無いと言っていたはずだ。という事は、この城塞には元からそのような場所が無かったという事なのか。


 教会の屋根からは城の姿もハッキリとみる事が出来る。

 その城を目標にして瞬間移動をする。


 まだ夜明けまでには相当な時間があるが、城へ入る為の門の周辺には、フルプレートの甲冑を着た者が数人いた。

 見た限りでは門番というより前線に立つ兵士のような恰好に見えるが、各々が着ている甲冑のデザインが微妙に違う。

 騎士ではないようだし、衛兵だとしても装備が異なるのは変だ。


 そのまま彼らのもとに近づく。


「いい加減、トラバンストの連中にも腹が立つな」

「ああ、全くだ。あいつら俺たちの事を見下しやがって」

「そうは言っても、連中の力を借りなきゃ王家転覆なんて不可能だしな」

「う~ん。でもよぅ、本当に王家転覆なんて出来るのか? 向こうは死神に魂を売ったんだろ。ガーネリアス教会も壊滅だって言うしよぉ」

「フン、いい気味さ。だいたい中央聖騎士団のヤツラは気に入らなかったんだ」

「そういや聞いたか? 中央聖騎士団と勇者様は死神はおろか、死神の手下にも全く相手にならなかったらしいぞ」

「中央聖騎士団は兎も角、勇者様が負けるとはなぁ……」


 う~ん、愚痴しか口にしてないが、コイツら本当に一体全体何者なんだ? 


「俺はどうでもいいよ。そんな事より早く故郷(くに)に帰りたい」

「ああ、そうだな」


 一人が「故郷(くに)に帰りたい」と口にした途端、急にお通夜みたいな雰囲気になっちまった。

 しかし、彼等のあの口調だとジェネリアス侯爵に直接仕えてる兵士じゃなさそうだな。

 もしかして既に他の貴族が合流してるってことか……。


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