第133話 征伐隊編成?
※一部表現を修正しました。
「ジェネリアス侯爵領へは最速馬車でも4日は掛かります。案内役として5名の騎士を就けさせていただきたい。タナトリアス公に護衛は不要でしょうが、小間使いは居た方がよろしいでしょう」
グレアモルドはガルメリア侯爵直轄騎士団の中からジェネリアス侯爵領に明るい人物を案内人兼従者? として俺に就けると言う。
正直、4日も掛けていられないから、場所さえ把握出来れば瞬間移動を続けて可能な限り最短で行くつもりだったんだけど、確かに案内役は必要だよな。
「それならば申し訳ないが3人にしてもらえるか? 動くなら、なるべく少数の方がいい」
「そういうことでしたら――」「私も行きたいです!」
グレアモルドの言葉を遮ったのはパイルだった。一緒に行く? パイルが? 何故?
「おい、遊びじゃないんだぞ」
「そんなこと分かってますよ。私だってこの一カ月近く色々とやってたんです」
「色々とは?」
「戦闘魔術の研究ですかね!」
「戦闘魔術?」
確かに、シェレルの王位継承前後あたりからは特にパイル達にはやる事もなかったから、俺たちの宿舎としてあてがわれた貴族用の建物の部屋と、そこの庭を使って色々と何かをやっていたのは知っていたが……。
戦闘魔術の研究?
「今回の戦いは冒険者稼業ではあり得ない戦闘でしたからね。正直言って魔獣やダンジョンのモンスターを相手にするのとは全く違う状況だったでしょう? 傭兵ならいざ知らず、冒険者が騎士団と戦闘行為になるなんてほぼほぼあり得ない事なので、これを機に軍隊との戦闘を考慮した魔術をいろいろと考えていたんですよ。それでですね、そんな中で中隊規模の兵力を殲滅できる魔じゅ――――」
「止め~いっ!」
パイルめ興奮気味に何をやってたのか話だしたけど、騎士団の目の前で言う事じゃないだろぉ!
「ああ~、ターナス。スマンが連れて行ってやってくれるか」
グレッグが苦笑いしつつ、頭を掻きながら言ってきた。
どうやらあの様子じゃ厄介払いも兼ねてるな。
「まぁ、あれだ。パイルが作った新しい魔術も……その……たぶん役立つんじゃないかと思うんだ」
「ちょっと待て。なんだ、その奥歯に物が挟まったような言い方は?」
「ん? 別に奥歯になんか何も挟まってないぞ?」
「そういう意味じゃないっ! ……が、まぁいいか。分かった。連れて行くよ」
「そうしてもらえると助かる」
助かるって何だ、助かるって。
「ターナス様……」
グレッグの笑顔とは別に、今度は寂しそうな顔でハースが声をかけてきた。
「ハース、大丈夫。すぐ戻るさ。本当はハースも連れて行ってやりたいんだが、これから行く所では新しい女王様を裏切って、トラバンストと手を組んだ悪い連中と戦争をしてくるんだ。ただ、戦争とは言っても俺が相手だからな。ハッキリ言って蹂躙してくるつもりだ。相当な人間が死ぬ。そんな場面をハースには見せたくないしな」
「ターナス様なら、大丈夫だと信じてます。でもでもでも、絶対に帰ってきてくださいね?」
「当たり前だろう! 心配すんな。ちょっとパイルの新しい魔術の実験も兼ねてくるから、帰ってきたら何をするか考えておけ。いいな?」
「……はい」
ハースの両頬に手を当てて顔を見合わせた後、相変わらず触り心地の良いハースのもふもふ頭を存分に撫でまわしてから立ち上がった。
「それじゃあ、俺とパイル。それと――」
「ナッスル上位騎士です。自分が先導を務めさせていただきます」
グレアモルドの方に顔を向けると、察したのかすぐにナッスルという男が一歩前へ出て来た。
「それでは他の二名は……ケルツ、ザーラン、お前達だ」
グレアモルドに言われて、二人の騎士がナッスルの隣に並び名を告げた。
「ケルツ上位騎士です」
「ザーラン上位騎士です」
上位騎士と言うからにはそれなりに階級が上だと思うのだが、騎士について何も知らない俺には軍隊で言うところのどの程度の階級になるのかがワカラン。
そんな事を考えていたのを察したのか、グレアモルドが説明しだした。
「彼ら上位騎士は部隊長クラスですから、実力のほどは申し分ないかと思います。まぁ、タナトリアス殿に比べたら赤子同然でしょうが……」
言い始めは「自慢の部下」とでも言いたげな物言いだったが、言った後ですぐに俺との差に気付き苦笑いしてしまっていた。
「いや、俺と比べるのはお門違いだろう。三人とも、案内頼むぞ」
「「「承知致しましたッ!」」」
流石は選別された騎士だけあってなのか、三人揃ってビシッと敬礼決めてる姿はカッコイイとは思うけど、正直言って足手纏いにだけはならないでくれよ……ってな。
「そんじゃまぁ、行ってくる。アレーシア、レトルス、シーニャ、リビエナ。後を頼んだぞ。特にハースの事は頼むからな」
「大丈夫ですよ。お任せください。――とは言っても、私よりシーニャの方が頼りになるかもしれませんけどね」
アレーシアの視線の先を追うと、ハースの横にベッタリと寄り添うシーニャの姿があった。勿論、彼女の顔は「自分に任せろ」と自信に満ちた顔つきだ。
「確かに、アレーシアの言う通りハースちゃんはシーニャに任せておいて大丈夫かもな。こっちの事は心配せず、ターナスは思いっきりやってきてくれ」
「ああ、分かった」
グレッグが俺の肩を叩くと、グレアモルドと数人の騎士が敬礼をした。
本を正せば、この国にとって俺たちは外敵であり、この国の根幹を壊滅させてしまった諸悪の元のはずなんだがな。
だがこれで、ガーネリアス教を信仰している全ての人間族が『人間中心主義』ではないというのが分かったわけだし、これならばトラバンスト聖王国を崩す事も可能なはずだ。