第132話 女王即位と謀反
※人名の間違いを修正しました。
ガットランド王国歴275年某月某日
この日、第一王女であったシェレル・ガールド・グランドロスが女王として即位した。王家としては11代目であり、女王としては2代目になるらしい。
当面の間はシェレルの叔父であるローデンサスが摂政的な役割に就くことになってるが、正直ローデンサスが信頼できる人物なのか俺達には判断出来ない。なので、監視的な意味も含めガルメリア侯爵が宰相となった。
ちなみに、俺はそういう政治的な役職とか立場の順位とかはまるっきり分からない。細かいことはグレッグやリビエナに教えてもらった。
三週間後には如何なる亜人種族であっても差別・迫害する事を禁ずる『人間中心主義禁止令』が発布された。
これについては特に細かい口出しはしなかったが、当然国民側には「亜人種族との共存など出来ない」という者も多くいるワケで、そういった連中はガルメリア侯爵を始めとする異種族融和派の貴族&直轄騎士による取り締まりを強化することで、半ば強制的に抑えつけた。
まぁ、“見せしめ”として中世であれば洋の東西問わずにあったであろうある物を街道に展示したら……これが効果テキメンで、『人間中心主義』を是とし亜人種族差別を肯定する者の声はピタリと止んだ。
問題は王都から離れた領だ。
王都周辺の貴族は前国王や教王の最期がどうなったのかスグに情報を得て、自分たちがそうなる事を恐れ反意を唱える者はいなかったし、領民も噂話や王都で現場を見た者から直接話を聞かされたことで『人間中心主義』よりも、死神に対する畏怖の念が上回り大きな反目は起きなかった。
だが、それ以外の領の中には直轄の騎士団を強化したり傭兵を雇い入れて反意を示す貴族もいて、特にトラバンスト聖王国と隣接する領の貴族や民衆は、亜人種族への蔑視がまだ根強かった。
一方で、異種族融和派の貴族は以前から亜人種族を受け入れている他国と密かに繋がりを持っていたらしく、特にカラム侯国と繋がっていた貴族領では、侯国からの軍事的な援助が得られたのが大きかったようだ。
領内に亜人種族はいないものの、隣国を行き来する商人も多く領民にも亜人種族に対する偏見や侮蔑があまりみられないのも結果的に良い方へ向いたらしい。
そして、やはり新王女に対して反旗を翻した貴族が事を起こしたようだ。
「ジェネリアス侯爵がトラバンスト聖王国と結託した模様。聖王国騎士団を含めた聖王国軍がジェネリアス侯爵領に相当数入ったとの事です」
ガットランド王国各所に散らばっていた査察団という名目の間諜から連絡を受けたと、グレアモルドが報告にやって来た。
「その……ジェネリアス侯爵ってのは、どんな人物なんだ?」
「はい。正式にはファルト・ヴァイン・ジェネリアス侯爵。ジェネリアス侯爵家の第三代目当主であります。ジェネリアス侯爵家は初代当主がトラバンスト聖王国の貴族――ラファインド家の御令嬢と婚姻を結んでから聖王国とは深く関わりがあり、現在では聖王国との交易で莫大な利益を得て、王国内の領主としては最も資金が潤沢しており、税も多く収めております。まぁ、その為か正直申し上げて王国貴族の中でも少々我が強いと言いますか……勝手な行動が……」
うん、要するに自分勝手で王族に対しても態度がデカいが、金持ってるから国としてもなかなか強く言えない相手って事だな。
「それで、軍事面ではどれくらいの軍備を持ってる?」
俺よりも先にグレッグが問い質した。
「直轄騎士は300ほどですが、一般兵として8千の常備兵、それ以外に傭兵も常に数百雇い入れているようですが……こちらについては正確な数は分かっておりません」
「一つの領……と言うか、領主が持つ兵力としてそれは多い方なのか?」
「勿論です。殆どの領主は直轄騎士団員80程度、一般兵は千を超えれば御の字――といったところです」
「傭兵は?」
「通常、平時に傭兵を雇い入れる事はありません。それこそ無駄金ですから」
「――って事は、ジェネリアス侯爵ってのは普段から戦争の準備をしている。王国にとっては他国と戦争になれば心強いだろうけど、別の見方をすると、内戦になれば他の貴族は勝てる見込みがない……って事になるな」
「……その通りで」
申し訳なさそうな顔で項垂れるグレアモルドだが、別に彼には何の責任も無いだろう。
「そして、そのジェネリアス侯爵がトラバンスト聖王国と手を組んだって事は――」
「十中八九、新女王に対しての謀反だろうな」
グレッグが呆れ顔で肩を竦めつつ、グレアモルドに問い質す。
「ジェネリアス侯爵と手を組みそうな他の貴族はいるか?」
「はい。ジェネリアス侯爵と懇意にしているアルフェルト侯爵、マルテッツァ男爵はおそらくあちら側に就くと思われます」
「その二人の兵力は、他の領主と変わらないか?」
「はい。アルフェルト侯爵領は一般的な兵力ですが、マルテッツア男爵に至っては騎士団員は30程度、その他には自警団が数十名と、ほぼ戦力としては無に等しいかと」
「おいおい、そのマルテッツァ男爵ってのは領地も小さいのか? 他の貴族に比べたら随分と貧弱じゃないか」
あまりにも差があり過ぎるので、ついグレアモルドに突っかかってしまった。
「マルテッツァ男爵領は確かに然程大きくはありません。ただ……まぁ、何と言いますか……ジェネリアス侯爵のお気に入りと言うか……その……」
「なんだ? 何か言いにくいような繋がりがあるのか?」
あまりにも口ごもるグレアモルドに少々気になったのだが――
「はっ、いえ。正直申し上げますとジェネリアス侯爵は色を好むお方でして、マルテッツア男爵は侯爵が気に入るような女性を……はい」
なるほど。要は女を献上して贔屓にしてもらってるワケか。下衆野郎だな。
「分かった。それで、今のところ反旗を翻してるのはその三人だけと考えていいのかな?」
「はい。現在のところ行動が露わなのはその御三方だけです」
正直言って、一人の領主が抱える騎士の数とか一般兵や傭兵の数が俺には妥当なのかどうかさえワカラン。
日本の戦国時代を考えたら一国の領主が抱える兵数と言えば、数万はあったはず。勿論、職業軍人のように常時兵役に就いていた者以外に、戦時には農民も兵役に就いてただろうから、こんなワケ分らん異世界の一国一領地とは比べられないだろうが……。
考えても仕方ないか。
「グレアモルド、悪いがトラバンストに通告してくれ。その三貴族を逆賊とし討伐。トラバンスト聖王国に対してはガットランド王国への侵攻とみなし迎撃すると」
「――よろしいので? 聖王国と全面戦争になりかねませんが……」
「ああ、構わん。勿論、お前達は国民には被害を出さないようにするさ」
「……?」
俺の言葉にグレアモルドは眉間に皺を寄せつつ、僅かに首を傾げて「何言ってんだコイツ」的な顔をしているが、まぁ見てろ。
「みんなは小離宮でシェレル達を警護していてくれ。俺が一発暴れてくる」
グレッグやアレーシア達に向かって親指を立てて口角を上げると、不気味な刈手の面々はそれぞれ呆れ顔や冷たい視線を俺に向けやがった。
そんな顔すんなよ……。




