表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

129/143

第129話 シェレル王女

「王子――レビエンス王子……だったかな?」


「……そうだ」


「もう一度聞く。人間中心主義を捨て、異種族共存共栄の国家を作る気は無いか?」


 第一王子にその気があるのなら、シェレル王女と一緒にやらせる手もあるが……。


「くっ……。劣等な亜人種族と頭を並べろと申すか⁉」


「劣等……か。どうあっても亜人種族を受け入れる気は無い――否、受け入れられないと言った方がいいのかな。因みにだが、此処にいる騎士たちは人間中心主義よりも亜人種族との共存を望んで付いてきてくれたぞ」


「そのような者は騎士でも何でもない」


「……そうか」


 まぁ、どうせこうなるだろうと思ってたからな。想定の範囲内だ。

 尤も――、シェレル王女のように幼い子供が亜人種差別を教え込まれてないってのは、想定外だったな。


 兎に角――。


「レビエンス王子、何か言い残す事はあるか? 一応聞いてやるぞ」


「ならば……言おう。其方のような悪しき者は必ず天罰が下る。ガーネリアス様に歯向かうなど、如何に死神が愚かな者なのかが知れた。其方はガーネリアス神の怒りを買った事を苦いて死ぬだろう」


「なるほど。まぁ、もともと俺の目的は『人間中心主義の壊滅』だし、そうなればどっちにしたってガーネリアス神を消滅させる事になるからな。あの世でガーネリアスに伝えといてくれたまえ。ハハハハハ」


 ちょっと煽り気味に高笑いしてみたが、王子のヤツめちゃめちゃ睨んでるな。


「よし、お遊びはこれまでとしようか。グレアモルド、悪いが王子(コイツ)を壁際に立たせて貰えるか」


「承知しました」


 レビエンス王子に『呪縛』を掛けて身動き出来ないようにすると、グレアモルドと部下の騎士たちが王子を引っ張り起して壁際まで摺って行く。

 そのままラウンジの一番奥の壁に立たせると、倒れないようにバランスを取りながら壁に押し付けてその場から離れた。


「シェレル王女、これからお前の兄を殺す。その後は君にこの王国の再建を担ってもらう事になる。まだ幼い君には残酷な話だと思うが、これが亜人種族を虐げてきた者の末路だと肝に銘じておいてくれ」


「は、はい。あの……<きもにめいじて>と言うのがよく分かりませんが、しっかりと見ておきます」


「あ……いや、見なくてもいいぞ。トラウマになるかもしれんし」


 流石に10歳そこそこの子供に身内の処刑を見せるのは良くないからな。


「いえ、大丈夫です」


 シェレルは自分が事の顛末をしっかりと見届けて、その事を王位継承第二位である弟に伝えなければならないと言うと、真剣な眼差しで握った右手を左手で包み込み、祈るような仕草で口元に寄せていた。強い子だ。


 レビエンスは魔法で創り出した10本の『氷結槍(アイシクルスピア)』を胸部に集中して撃ち込んで絶命させた。

 氷結槍は胸を貫き壁に突き刺さっている。その為、レビエンスの身体は倒れず立ったままその場で項垂れているが、足下には大量の血溜まりが出来ている。正直、通常の神経の持ち主なら正気じゃいられないかもしれない。

 

 レビエンスに氷結槍が撃ち込まれた瞬間には、ひと塊になっていた王族たちの中の一部の女性から小さな悲鳴が上がったが、すぐに静寂さに包まれた。とは言っても、静かになったのは例の悲鳴を上げた何人かの女性が失神したからのようだ。ま、当然か。


「シェレル王女。弟の第二王子がいる場所は知ってるかな?」


「はい、知ってます……が、どうなさるのでしょうか?」


「心配しなくていい。第二王子もまだ【人間中心主義】についての教育は受けていないんだろう?」


「あ……はい、そのはずです」


 シェレルの言葉を聞いた後でグレアモルドの方に目を向けると、コクリと頷いた。


「じゃあ、案内してくれるかな?」


「はい――」

「あ、あのぅ!」


 シェレルが返事をしたすぐ後に、他の王族から声が上がった。


「わ、私たちはどうすれば……どうなるのでしょうか?」


 見た目40代半ばくらいか。他の王族たちよりも少し地味な装いの男が手を挙げていた。


「お前は?」


「私はローデンサス・アーガイル・グランドロス。シェレルの叔父になります。私もガーネリアス教徒ではありますが、元々はユーゲンスト侯国の生まれで、姉……つまりシェレルの母である王妃エレノアの婚姻の際に王国に移ってきました」


「それで?」


「ご存じかどうか分かりませんが、ユーゲンスト侯国は亜人種族と共存している国なのです。そこで生まれ育った私や姉は、元来【人間中心主義】ではないのです」


 ローデンサスという男は「自分は亜人種差別意識が希薄だから助けてくれ」とでもと訴えているようにも感じるが、他国の王家と婚姻関係を結べるような家柄なら、人間中心主義に賛同していてもおかしくないんじゃないか? この場にシーニャがいれば、この男の言っている事の真偽がスグに分かるのだが……。


 そんな事を考えていたらグレアモルドが声を掛けてきた。


「タナトリアス殿、この御方はガルメリア侯爵とも懇意にされており、私もよくお人柄を存じております」


「問題は?」


「特に無いかと」


「ふむ」


 暫し思案した後、シェレル王女と第二王子の補助や教育係として使えるかもと考えて生かす事に決めた。


 後は他の王族たちだが、まずはこのローデンサスに「信頼出来る者」を選ばせて、それ以外の者は死んでもらう。そして、他のメンバーと合流した後でシーニャを同伴して質疑応答し、嘘を吐いていた者は処刑するとしようか。


「グレアモルド、外にいる部下を数人中に入れてコイツ等を見張らせてくれ」


「承知致しました」


 返事をするとグレアモルドはラウンジから出て、部下を3人連れて戻って来ると王族たちが妙な気を起さないよう見張らせた。


「アレーシア、スマンが此処を任せていいか? 俺はグレアモルドを連れてグレッグたちの所に行ってくる」


「ええ、お任せください」


 アレーシアならば何かあっても対応出来る。

 俺はグレアモルドを連れて『反・人間中心主義』を探しているグレッグの所に向かった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ