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第125話 公開処刑

 瓦礫の上に倒れた教王に近付き、髪を掴んで持ち上げる。

 グイと引っ張って顔を向かせると、教王は顔を歪ませながらも睨んでいた。


「人間中心主義は終わりだ。創造神は人間族と亜人種族が共存共栄する事を望んでいる。負けを認めるんだな」


「……亜人種族に手を貸すなぞ愚かな事。亜人種族は人に非ず。人間族のために働いてこそ、意味がある」


「まだ言うか。お前も国王もこんなザマだが、そのガーネリアスとか言うヤツ(・・)は何もしちゃくれないだろ?」


「神を愚弄する気かッ‼」


 こんな状態でもまだ反抗できるかぁ。面倒なヤツだな。

 歯向かう気力はまだ持ってるようだけど、だからと言って抵抗する力なんかは既に無くなってるんだから、潔く負けを認めて欲しいものなんだけどなぁ。

 どうしたもんかと考えていたら、グレッグが国王を引き摺りながら提案してくる。


「どうせ国王も教王もコッチの手に落ちてるんだ、このまま俺達が勝利宣言……と言うか、人間中心主義の終りを宣告してもいいんじゃないか?」


「国王は兎も角、教王(コイツ)はまだ落ちてないぞ?」


「いや、問題無いさ。なあ教王様よ、そうだろ? あんたがどんなに抵抗しようが、死神の力には敵わなかったんだ。このまま抵抗を続けたところで、死神タナトリアスが本気を出せばガットランド王国そのものを消滅させる事も出来る。そうなりゃ全ての国民が犠牲になっちまうんだぜ?」


「やれるもんならやってみろ。国民もガーネリアス教徒、亜人種族などと共存するくらいなら死を望むだろう」


「……ふぅ。――だってよ、どうるする?」


 おいおい、俺に丸投げかよ⁉

 ――にしても、亜人種族と共存するくらいなら死を望む……か。まぁ、ガーネリアス教の信者は兎も角、ガーネリアス教徒じゃない国民だっているんじゃないのか? いや、歴史的に見ても異教徒が虐げられていた時代もあったんだから、この国だって同じように異教徒である事を隠して生活してる人だったいるはずだ。


「国民には、猶予を与える。他の地には亜人種族と共存している国が存在している事実を知り、亜人種族が決して人間族よりも劣った種族ではないという事を知るための時間を与える」


「そう簡単にいくものか」


「そうだな。簡単にはいかないだろうが……まぁ、出来なくはない」


「……なんだと?」


 古の宗教なんてのは洗脳と同じだ。ありもしない事をでっち上げて無実の人々を殺しまくった魔女狩りだって、言ってみりゃ洗脳と同じだからな。

 死神の力……悪魔の能力……。使い様によっては洗脳を解くような事だって。


「取り敢えずは、亜人種族を殺めてきた教会の関係者は問答無用で処刑とするか。手始めに教王、お前を公開処刑することにしよう」


「……‼」


 口答えされるのも面倒なので、呪縛で口を塞いでおいて――っと。

 教王が身に付けている大層な襟の付いた服を掴み、そのままボロボロに砕けて大穴の開いた王城の壁を引き摺りながら外に出て行く。


 王城の庭では近衛や騎士が臨戦態勢で待ち構えてはいたが、教王が見るも無残な姿で引き摺られているのを目の当たりにすると一気に士気が下がったようで、構えていた剣や槍などを持つ手から力が抜けていくのが目に見えて分かった。


 そのまま彼らの前を歩いて行くと、まるでモーセの海割りみたいにサァっと両端に分かれて退いて行く。

 因みに、襟首を掴んで教王を引いて行く俺の後ろからは、同じ様に国王を引き摺っているグレッグが続いている。

 その姿を見た近衛や騎士の顔がみるみると青褪めていくこといくこと。


 さて、王城の外で来ると今度は王都の住民たちが野次馬の如く集まって遠巻きに見ていた。

 丁度いい――。


「おい、あれは何者だ?」

「いや、分からん。衛兵に聞いても何も教えてくれないんだよ」

「俺が聞いた話じゃ、魔族国に雇われた傭兵らしいぜ」

「バカ言え! そんなのが王城で暴れられるはずないだろう」

「ちょっと待てちょっと待て、俺が聞いたところによるとアレは死神だって話だ。死神タナトリアスが亜人種族を助ける為に死神界から舞い降りたんだってよ」

「はぁ⁉ それこそあり得ない話だろう!」


 ざわつく住民の中でも、ワリと近くにいる者たちの会話が聞こえてくるが……どうにも情報統制がとれてるんだかいないんだか。

 おそらく実際に俺たちと対峙した衛兵や騎士の中には、事実を住民に喋っちまったヤツもいるのだろうけど、あまりの非常識さに信じて貰えないんだろうな。

 それはそれで、国民のどれ程が人間中心主義に傾向しているか……。どれ程の国民が亜人種族に対して受け入れる気持ちを持っているかが分かるかもしれない。


 教王を引き摺ったまま住民たちの前に出て行き、立ち止まった所で教王を手前に投げ出した。


「見た事がある者もいるだろう、コイツはガーネリアス教の教王だ! そして……」

 ――と後ろを振り向くと、グレッグが同じ様に国王を前に放り出す。


「――国王だ! 我は死神タナトリアス! ガーネリアス神を祀り、人間中心主義によって亜人種族を虐げる事を是としてきたこの教王と国王を此の場にて処罰する! これは死神タナトリアスによる人間中心主義の終結を告げるものであり、ガットランド王国における亜人種族への迫害を撤廃するものである! 異論のある者は遠慮なく申し出よ!」


 ガットランド王国全てに伝わるよう拡声魔法で通告する。

 拡声魔法は単純に声を拡大させるワケではなく、広域に渡っても同じボリュームで声が届くようにしているので、近いから声が響くとか、遠いから聞こえ難いということはない。故に―― 「聞こえなかった」という事はあり得ない。


 予想通りに住民たちはざわついている。『千里眼クレヤボンス』で民衆の表情を見てみれば―― 「どういう事なんだ?」と、まだ理解出来ていない者。「そんな事があってたまるか」と、険しい表情で睨む者。「これから先どうなるんだろう?」と、今後の在り方を憂慮する者……など。

 これはまぁ、想定通りだけどな。


 それは兎も角として――。


「亜人種族を迫害する者の末路をよく見ておけ!」


 国王と教王を球状結界に封じ込め、呪縛を解き体を自由にしてやる。

 動けるようになった国王と教王は周囲に目を向け、これから何が起こるのかと興味津々に見つめている民衆に対して苦虫を嚙み潰したようにその顔を歪めるが、次第にその顔からは血の気を失い、死を察したのかブルブルと震えながらこちらを向いて命乞いをはじめた。

 

「今更遅い――『死絶の業火!デスフレア・デストラクション』」


 球状結界の中で業火に焼かれ悶絶する国王と教王。そして、それを黙って見つめる民衆。

 王城前にこれだけの民衆が集まっていながら、そこには生きたまま焼かれて叫び狂う国王と教王の断末魔が聞こえるだけだった。


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