第123話 阻む者は容赦せず
城門をぶっ壊して内部に入ると、やはりそこには城を守る騎士の一団が待ち構えていた。
「どけ。お前ら如き、この地から消滅させる事も出来るんだぞ」
一応脅してみる……と、戸惑いを隠せない者も一部いるが、それでも王城を守る騎士だけの事はあるのか、武器を持つ手に一層力が籠ったようだ。
最前列には盾を構えた者が並び、その後ろに長槍をこちらに向けた騎士がいて、その後ろには矢をつがえた騎士とは別の兵士がいるが、どいつもこいつも苦々しい顔でこちらを睨んでいやがる。
「弓隊、放てッ!」
一際大きな声で攻撃を開始する言葉が発せられると、矢をつがえていた兵士たちが一斉に射る。
矢の速度などたかが知れてる。
即座に結界障壁を展開して防御し、そのまま今度はこちらから『氷結矢』を撃ち放ってやる。
すると、真正面からの『氷結矢』を受けて、最前列の盾隊は衝撃をまともに受けて後ろに倒れ込んでしまい、その結果、盾隊の後ろにいた長槍隊が『氷結矢』を喰らっていた。
放った『氷結矢』の数はそれほど多くは無かったから、全滅はさせていない。
しかし、王城守備隊とでも呼べばいいのか知らんが、残った連中はそれでもまだ戦意消失していないのは流石か。
次はどんな攻撃をしてやろうか……などと考えていたら、先に連中が何か魔術を展開したようだ。
「タナトリアス様、これは魔法阻害術です!」
「何ッ⁉」
やられた……。収容所で騎士団の援軍と遣り合った時に魔法阻害術で俺とレトゥームスは魔法が使えなくなったのに、すっかりその事を忘れてた。
「レトゥームス、俺の後ろに来い!」
魔法による防御手段が取れなくなったレトゥームスを匿い、俺自身が壁となる。
「見ろ、死神などと言っても魔法が使えなくなった魔族と同じだ! 弓隊、一斉掃射始めェ!」
魔法が使えなくなったとしても、俺自身の姿は魔法とは関係ないから身体能力的には全く問題ない……が、とは言えレトゥームスを庇いながらでは矢鱈と身動き出来ず、爪で飛んでくる矢を振り払うのが精々だ。
それに、こっちには意識が無いとはいえ枢機卿とガウリレルがいるんだがなぁ。連中はこの二人を見捨てたって事なのか?
「タナトリアス様、私のことは捨て置き下さい」
「何言ってんだ、そんな事出来るワケないだろ! いいからじっとしてろ――よっと」
連中の矢が無くなるまで耐えるか……と思ったその時。
『稲妻雷撃斬!』
激しい稲光と轟音、そして衝撃が身体を揺さぶった。
ガラガラ、ゴロゴロと何かが崩れるような音が聞こえ、辺り一面に砂埃が舞って視界を遮る。
「魔法阻害術ってのは面倒くさいモンだな。なぁ、ターナス」
「ああ、確かに。正直すっかり忘れてた」
グレッグが来たという事は、門前の連中は全部片づけたってワケだな。
「それで、コイツ等も俺が相手してやろうか?」
「いや、それには及ばない。俺もちゃんと考えたからな」
「考えた? 何をだ?」
「つまり―― 『魔法阻害術打破』『対魔術防御結界』」
グレッグが対魔法術士を潰してくれたおかげで魔法の使用が可能になった。そこですかさず防御魔法を創造したってワケよ。
「レトゥームス、これでヤツラの魔術は俺たちに効かない。あとは『絶対的身体防護』を上掛けしてやるから、思いっきり暴れていいぞ」
先程までの魔法を封じられていた違和感が無くなり、逆に魔力が放出していくような感覚を覚えたレトゥームスは、力強く頷いた後に黒い翼膜を広げて地面を蹴り飛び上がった。
レトゥームスも俺も翼膜を持ってはいるが、長距離を飛行する事は出来ない。だが、短い距離ならジャンプしながら翼膜を使って距離を延ばしたり、上空で一時的に停止する空中浮揚ならば可能だ。
「今この場にいる敵は、相当減りましたね。残ってるのは後方の魔術師と、それらを護衛している剣士のみのようです」
「その程度なら一気に片付けよう」
「ではその役目を私が……」
思いっきり暴れていいと言った手前、ヤル気満々のレトゥームスを止めるのは無粋というものか。
「ああ、それじゃあ任せる。存分にやってくれ」
「はいっ!」
満面の笑顔で返事をするが……そんなに嬉しいか?
「いきます―― 『雷撃衝撃弾!』」
魔族であるレトゥームスも、魔法を放つ時にはいちいち言葉に出さなくてもいいのだけど、ここは敢えて口にしてるんだろうな。
兎に角、レトゥームスの雷撃衝撃弾は相当な威力だった。
以前、攻撃魔法の威力を増すための手段として魔力の増幅装置を身に付ける事を提案した時に、魔道具屋で魔力を蓄えて置ける魔石を腕輪に嵌め込んだ物を購入していた。
その魔石に蓄えた魔力を雷撃衝撃弾を放つ時にブースターとして使ったのだ。
前面の味方が打倒されてアタフタしていた残敵だったが、レトゥームスによって全滅させられた。
黒く焼け爛れた死体が転がり、雷撃衝撃弾が通過した場所の建物も損壊が激しく、その威力の凄さを物語っている。
「やるな、レトゥームス。俺も負けちゃいられねぇ」
「いや、グレッグも相当な事やってるぞ?」
「――かもしれないけどさ、こんなの見せられたら黙ってられないだろ?」
ほんの数分前に、稲妻雷撃斬とやらで敵を滅茶苦茶にしたのを忘れてるようだ。
<グリムリーパー>は戦闘狂しかいないのか?
「兎に角、先に進むしかないんだが……どっちに行けばいいんだ?」
「枢機卿を起そう。いつまでも寝てんじゃねぇ――ってさ」
「案内役が必要か。なら、ちょっとショックを与えれば起きるかな」
枢機卿とガウリレルに軽い電気ショックを与えると、ビクリと体を震わせて二人共目を覚ました。
「こ、これは……」「あわわわわわ……」
周囲を見渡してその酷い有様に驚愕し、ガウリレルは苦々しい顔をしつつもスグに項垂れてしまう。一方、枢機卿は目を丸くして青白い顔でガタガタと全身を振るわせている。
「おい、立て!」
グレッグが枢機卿に剣先を向けて告げると、生まれたての小鹿のように(まぁ見た事はないんだけど)ブルブルと大きく揺らぎながら、何度か尻餅をつくように崩れながらも、どうにかこうにか立ち上がった。
「国王と教王のいる所まで案内しろ」
「こ、国王様……なら、お、王の間に……いるはず……」
「教王は?」
「きょ、教王……せ、聖下は……」
「――どこだ?」
「……」
「まぁいい。兎に角二人がいる所まで案内するんだ」
教王の居場所について言わないのは、教王への畏敬か、それとも神罰を恐れているためだろうか。
どっちにしたって俺たちの知ったことじゃないが。
枢機卿を先頭にして王城内部へと進む。
途中、何度も騎士や衛兵など王城の守備勢力と鉢合わせをするが、連中は枢機卿の姿をみて一度は戸惑うものの、スグに攻撃を仕掛けて来ていた。
つまり、既に枢機卿はガーネリアス教会から見捨てられたって事だろう。逆に言えば盾としては使えなくなったって事だ。
数度の小競り合い――――と言うか、鉢合わせた兵士を一方的に薙ぎ払いながら、城の深部までやって来ていた。
先頭を歩かせていた枢機卿がピタリと止まり――。
「こ、この先が王の間です」
自分のしている事に罪悪感があるのか、項垂れ肩を窄めながら小さく告げた。
手を壁に当てて千里眼を広げる。
「確かに、いるな。玉座みたいなのに偉そうなジジイが座ってる。あとはフルアーマーの兵士がズラリ。魔術師っぽいのも結構いるな」
王の護衛だろうが、この程度で守れると思ってるのだろうか。
グレッグも同様に思ったのだろう、呆れたような顔で口角を上げている。
「それじゃあ、俺が扉を破壊するから、タナトリアスは王が逃げないように、それと傷付かないように捕縛してくれ。死んだら元も子もないからな。それが完了したらレトゥームスも連中に向けて攻撃してくれればいい。どうだ?」
「分かった。それでいこう」
俺とレトゥームスはグレッグの案に頷き、王の間の扉の前に立つグレッグの後ろで構えた。




