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第121話 もしかして⁉

 劣勢を悟ったガウリレルは、天空の勇者が持つファーマメントソードだけが繰り出せる『究極防御壁アルティメット・バリア』で結界を張り、自身とカンレルト、そしてガーバンス枢機卿をアレーシアとグレッグの攻撃から守った。


 勇者が繰り出す究極の防御であれば、こちらもそれ相応の武器で攻撃をさせてもらおうじゃないか――と、男のロマンを込めた攻撃武器『最強最悪の悪魔的槍槌デモンズ・パイルバンカー』を撃ち込む。


 辺り一帯に大きな衝撃と地響きが鳴り、崩れかけていた大聖堂は完全に崩壊。

 上空からパラパラと土砂が舞い落ち、土煙が視界を遮る。

 地響きが治まり微かに静けさが戻ったところで、漆黒の槍槌となっていた右腕を元の姿に戻す。


 まだ視界は晴れないが、そこにヤツラがいるのは分かってる――――とは言っても、生命反応は二つだけなのだが。


「大気の精霊よ突風を巻き起こせ――『塵旋風(ダスト・デビル)』」


「おっ⁉」


 急に強い風が吹いたかと思えば、その場で渦を巻き始め、そのまま砂塵を集めて大きなつむじ風となっていった。

 つむじ風を起した張本人はパイルだったが、眉間に皺を寄せてちょっとシブイ顔をしつつ魔術を唱えてるんだけど……。


「砂埃で目が痛いし、口の中がジャリジャリですよッ!」


「ス、スマン。ちょっとイキリ過ぎた」


 目をシパシパさせながら、少々お怒り気味のパイルが文句を言う。


「ガハッ、ゲハッ、確かに、ガハッ、コイツは、キツイな。タナトリアスよ、どうせなら俺たちを結界か何かで囲ってからやって欲しかったぜ」


 こっちはグレッグだ。申し訳ない……。


「ケッ、ケッ、ケホッ……」


「ハース! 大丈夫か? 喉が痛いのか? 目は開けられるか?」


「ケホッ、大丈夫……です。ケホッ、ケホッ。ちょっと、ビックリしただけ、ですから……」


「スマン、本当にスマン。ちょっと待ってろ、スグに楽にしてやるから」


 辛そうなハースに浄化の魔法を掛けて、砂埃と汚れを取り除いてやる。喉に入り込んだ砂塵も魔法で除去し、喉粘膜に潤いを持たせてやると、辛そうな咳も治まってくれた。


「ターナス様……あ、じゃなかった、タナトリアス様、ありがとうございます。でも……」


「でも? どうした、まだどこか痛いのか?」


「いえ、そうじゃなくて。あの……みなさんが……」


 何やらハースがモジモジしながら視線を俺の後ろに向けるので、どうしたのかと振り向いてみれば――。

 グレッグとパイルは苦笑いし、アレーシアとシーニャが冷たい眼差し……と言うか、あれは“呆れた”って顔だな。レトゥームスとリビエナが俺の行動に疑問を持っていない様子なのは、せめてもの救いか。


「何だよ、いいじゃねぇか! ハースは特別なんだよ。それよりアイツ等はどうしてるんだ?」


 視界が戻ると『悪魔的槍槌』を撃ち込んだその場所に、三人の姿があった。

 枢機卿は白目を剥いて倒れている。あまりの恐怖に精神が保たれず気絶してしまったようだ。

 天空の勇者ガウリレルは……呆然としたまま力なく膝から崩れていて、砂塵で汚れた顔には目から涙が流れた跡がクッキリと残っている。コイツも恐怖で精神が崩壊しちまったか?

 そして火の勇者カンレルトだが……目を見開き、口をあんぐりと開けたままの姿で倒れている。そして、その下半身は辛うじて両脚が残っているくらいで、腹部は跡形もなく消えていた。勿論そこは、狙い通りにパイルバンカーを撃ち込んでやった場所だからな。


 枢機卿とガウリレルの二人は、気が付いても身動き出来ないように『呪縛』を掛けて拘束しておく。

 そんな連中を見てグレッグがポツリと呟いた。


「あんな理不尽なタナトリアスの攻撃を喰らっても無傷でいるとは、やっぱりガウリレル(こいつ)はそれなりに防御力があるのか」


「いや、コイツ等には害が及ばないようにしたからな。全員殺しちまったら却って面倒な事になるだろう。コイツ等は勿論、更に上の教王とか国王なんかにも<人間中心主義>を終わらせる宣言をさせたいからな」


「まぁ、そりゃそうか。でも、そんなに旨くいくかな。人間中心主義もガーネリアス教も根深いモンがあると思うぜ?」

 

 そりゃあ、信仰心の薄い者は兎も角として、熱心なガーネリアス教徒や、都合よく亜人種族を使っていた人間中心主義者はそう簡単に棄教なんてしないだろう。

 

「要は亜人種族に手を出させないようにするのが目的だからな。同じ人間族だって、貧富や住んでる地域なんかで差別する事はあるだろ?」


「そりゃあ、まぁな」


「差別の無くすのは、そう簡単じゃない。だけど、亜人種族を<人間族の物>として扱う<人間中心主義>だけは絶対に認めないし、その考えを捨てる意思のない者には容赦しない。それと、その場だけで取り繕うようとしても、その考えすら甘いって事を徹底して覚え込ませるだけさ」


 何故か……最後の一言を聞いたとたんに、皆の顔が引き攣ったように見えたんだけど、俺の思い過ごしか?


「ま……まぁ、いいんじゃないですかねぇ。私は亜人種族が何処の国でも安心して暮らせるようになるのは良い事だと思いますよ」


 パイルが賛同してくれたけど……ちょっと引き気味なのは何故だ?


「タナトリアス様がやろうとしている事に関しては、私も同意です。ただ、これを死神だか悪魔だか分からないような存在のタナトリアス様が言うから、何となく破滅する世界を思い浮かべてしまうんですよねぇ」


「ちょっ、アレーシア! 俺を何だと思ってんだよ」


「だから、死神だか悪魔だか分からない存在――ですよ。でもそれでイイじゃないですか? だって死神が亜人種族を救う存在だってのは、多くの人が知ってる事なんですから」


「そういう事だ、タナトリアス。もともと死神タナトリアスは亜人種族を迫害から救う救世主として謳われてるんだから、ちっともおかしな事じゃない」


 なんだか言いくるめられた気がするが……まぁいいか。


「さて、次は……国王か? 教王か?」


「国王も教王も王城に居ますが……」


 次の目標をどちらにすべきか皆に聞いてみると、リビエナが二人共王城にいると教えてくれた。


「教王も王城にいるのか」


「教王は“王室に守られている”と言っても過言ではありませんから……」


 ガーネリアス教とガットランド王国は一心同体であり、諸悪の根源は双方にあり――ってワケか。


「王城の警備体制は?」


「王城なら通常の騎士団や衛兵の他に、直轄の近衛兵がいる。トラバンストの場合だと、各所の騎士団から抜擢された優秀な者を集めて、更に厳しい訓練を耐え抜いた者だけがなれる精鋭集団だ。武具を使った戦闘に長けているのは勿論だが、魔術も上位の魔術師並みに仕える者が多い。おそらくガットランドの近衛兵も、そう変わらんと思うが……」


 ガットランドと同じくガーネリアス教を国教とするトラバンスト聖王国出身のグレッグが、近衛兵について説明をするのだが……やや歯切れが悪い。


「勇者よりも強いって事はないだろう?」


「……何とも言えんな。俺としては、これ程まで勇者が弱いとは思わなかったからなぁ。正直言って、罠なんじゃないかと勘繰りたくもなる」


 確かに、ガットランドに入ってから聞いた勇者に関する話では、“なんとか聖勇騎士”と呼ばれてたはずだ。

 国民が自慢するような勇者がこんなにも弱くていいハズがない。


「もしかしたら、コイツ等は偽物……と言うか、本当の勇者の影武者(デコイ)だったりするんじゃないか?」


「デコイか。その可能性は……あるかもな」


 勇者たちが影武者だった場合、王城には本物の方が勢揃いしている可能性がある。そうなると、戦闘に長けた近衛兵集団の他に勇者とも戦わなければならないし、影武者は弱かったと言っても、ある程度の方術が使えていたのだから、本物の方の実力は油断ならないと思っておいた方がいいだろう。


 それでもやはり、枢機卿とガウリレルを突き出して<人間中心主義>を廃止する意思があるのか否かを問うのが先決か……。


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