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第113話 束の間の勝利

 パイルが放った『火炎弾(ファイヤーボール)』によって中央聖騎士団の対魔法術士が倒され、そのおかげで魔法阻害術も解除され崩壊した。


「さて、それじゃあ俺も参戦するかな」


 衛兵が応援に呼んだ騎士団の殆どはグレッグをはじめ、メンバーが為留めていたから俺はほぼ何もしていない。

 尤も、魔法阻害されていても物理的に攻撃する事は可能だったから、別に何も出来なかったワケじゃないんだけどな。


「弩隊は何をしている! どんどん続けて撃てェ!」


 指揮官らしき男が大声を上げると、委縮していた重騎士が再びクロスボウを放ってくるが、全て長く鋭い爪で払い落としていく。


「ちょっとウザイな――『火炎散弾(ファイヤーショット)


 敢えて重騎士が構える厳つい盾に向けて『火炎散弾』を放つと、盾に当たって更に周囲に火球が飛び散り、重騎士たちはその火球を振り払うのに躍起になってしまい防御もへったくれも無くなっていた。


「うわぁ、みっともないですねぇ。火の精霊よ揺らめく炎を撃ち放て――『火炎弾(ファイヤーボール)!』


「聖なる天父神よ揺らめく炎に風の恵みを与えて下さい――『聖なる疾風(ホーリーフレッシュ)!』


「うわぁぁぁぁっ、火が、火があぁぁぁ!」

「た、助けてくれ! 誰か、誰か火を……」


 火炎弾で飛び散った炎に、更にパイルが火炎弾で追い焼きをし、そこにリビエナが(ふいご)の如く風を送って炎を燃え広がらせてる。

 重騎士は金属製のフルプレートで身を包んでいるが、流石に炎が甲冑に付着したまま消えずにいれば平常心を保つことなど出来はしない。

 その場で転がって火を消そうとする者や、甲冑を脱ぎ捨てる者、魔術師に水の魔術を掛けてもらい消火してもらおうとする者など、もう統制など全く取れない状態だ。


「仕方がない、消してやろうか。――『結界』」


 甲冑に点いた火をどうにかしようと慌てふためいている重騎士たちを結界で閉じ込める。


「火ってのは酸素が無ければ燃える事が出来ないんだ。覚えておくと良い」


 聞こえちゃいないか。まぁ、要は密閉された中にある火は、そのまま燃焼し続けていればそのうち酸素が無くなって消えるんだけれども、心優しい俺は早く火を消してあげる為に結界の中を真空にしてやることにした。


 一瞬で甲冑に纏わりつく火が消えて驚きと安堵の姿を見せる重騎士たちだが、スグに異変に気が付いたようだ。


 結界から脱出しようと持っている弩で叩いたり、拳で結界を破ろうとしている者までいるが、次第に喉を搔き毟る仕草をしながらバタバタとその場に倒れていった。


「タナトリアス様、あれはどうなってるんですか?」


 火が消えたと思ったら重騎士たちまで倒れ出したのを見て、パイルは不思議に思ったようだ。


「火っていうのは酸素がないと燃えることは出来ないって、知らないか?」


「さんそとは……なんですか?」


「亜人種族だろうが人間族だろうが、呼吸ってのをしてるだろ? 呼吸は分かるか?」


「ええ、息をする事ですよね?」


「そうだ。この息をするってのは、体の中に目には見えないが酸素という物を摂り込む事で、この酸素がないと生きていく事は出来ない。それは分かるな。それで、その酸素ってのは火が燃える時にも必要なんだ。火は酸素がないと燃える事が出来ない」


「つまり……あの結界の中は、その酸素という物が無くなったので火が消えて……更に息が出来なくなってしまった……と」


「そういう事」


「なるほど。それは面白い事を聞きました。今度私もやってみま……す? 目に見えないのをどうやって消すんですか?」


「そこは……頑張れ」


 気体元素とか言ったって分からないだろうし、俺は科学者じゃないんだからな。そこまでは説明できん。


 俺の答えに納得いかないのは分かるが……仕方ないだろ!

 パイルとしてもちょっと不満なのか口を尖らせて拗ねた顔を見せてるものの、まぁ、あれは本気で拗ねてるワケじゃないのは分かる。唇を尖らせたまま眉尻を下げると、スグに気持ちを切り替えて周囲を警戒し戦闘態勢に入ってくれた。


「塀の外が随分と騒がしくなってきたみたいだな」


 収容所の衛兵と援軍に来た騎士等が倒れ、広場が静かになると収容所の塀の外側の喧噪がよく聞こえるようになり、その事をグレッグが口にした。


「騎士団の増援か?」


「いや、増援じゃなさそうだが……あれは民衆が騒いでるのかもしれんな」


「要は……野次馬か?」


「そんな感じだろうが、中央聖騎士団がこれっぽっちで終わりって事もあり得んはずだ。野次馬が多くてこっちまで来れないのかな?」


 グレッグも本気で言ってるワケではないだろうが、火事現場で野次馬が多くて消防車が入って来れない――なんて事はあるからな。あながち冗談とも言えなくもない。

 

 だが――どうやら騎士団よりも強大な力を持った者が近付いているようだ。


「グレッグ、アレーシア、いったん下がってくれ。ちょっとヤバそうな気配を感じる」


「私もタナトリアス様に同感です。この気配は通常の人間族のモノとは違います」


 俺が感じた嫌な気配をレトゥームスも感じだようで、それが今までの騎士団とは異なる尋常ではない何かだと言う。


「レトゥームスも下がれ。皆こっちに固まってくれ」


 そう離れているワケではないが、それなりに距離をおいて散らばっていた皆を集まらせ、全員に『絶対的身体防護アブソリュート・プロテクション』を上掛けしておく。

 

 異様な気配が近付くにつれ、ピリピリとした感覚がより強くなる。

 パイルやリビエナもそれを感じたのか、緊張が増していく雰囲気がこちらにも伝わって来る。


「タナトリアス、こいつは相当な強勢だぞ……」


 グレッグでさえ、まだ見えない強大と思しき敵を感じ、剣を構えて迎え撃つ準備を整えている。

 そして、先程まで聞こえていた塀の外の喧噪が消えた。


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