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第110話 トラブル

※軽微な修正をしました(内容に変化はありません)

「スマン、遅くなった」


 森に戻ると既に第三グループが転送されていて、前のグループと同じ様に体力的に弱っている者や、傷病で一人では歩けない者に治癒を施しているリビエナに遅れた旨を詫びた。


「いえ、大丈夫です。それよりも、あの子供はどうでしたか?」


「ユメラシアのジグラルダルで軍の師団長が預かってくれたよ。駐屯所内の売店に、同じ猫獣人種族の女性がいるらしくてな。その猫獣人(ひと)を付けてくれるそうだ」


「そうですか」


 感情を失っていた猫獣人種の子供が相当気になっていたのか、俺の返事を聞いて悲愴感のあった表情から安堵の表情に変わった。


「それで、こっちの方はどうだ?」


「はい。特に問題はないので、スグにでも移せます」


 転移する際に前後隣り合わせになった者同士で体を接触させる必要があるのだが、既に三回実施している事もあってか、既にリビエナが全員に周知させておいてくれたから、怒鳴る必要もなくスムーズに事が運んだのは助かったな。

 

 三番目のグループは、ユメラシアとランデールの境にある街、ネルダルの魔王軍駐屯所に転送する。

 亜人種族拉致に関わっていたガイールの傭兵ギルド壊滅に協力してくれた駐屯所だし、検閲所を挟んでランデールに接している街だから、これだけの大人数でもその日のうちに粗方ランデールへ越境させることが出来るだろう。


 突然の保護依頼にネルダルの魔王軍駐屯地は多少慌てていたものの、ガイールで傭兵ギルドに捕まっていた亜人種族を保護した経験があったおかげか、兵士たちもスグに役割分担を決めて準備に取り掛かってくれた。


 予定よりも若干時間は掛かってしまっていたが、ここまでは順調に亜人種族を転送出来ていたのだが……。

 森に戻ると収容所から転送された四番目のグループの数が明らかに少ない。

 ――何かあったか?


 探索を収容所に集中して中の様子を窺ってみると、グレッグとアレーシアが衛兵と事を構えているのが分かった。


「ハース! シーニャ! リビエナと亜人種族たちを守って此処で待機していてくれ。俺は収容所に行く」


「何かあったんですか⁉」


「どうやら敵が大勢来ちまったようだ。残りの亜人種族たちをこっちに送らなきゃならないから、ちょっと行ってくる」


 亜人種族を分割して転送するからには多少時間が掛かるのは承知していたし、その為に収容所内の衛兵にバレてしまうのも想定はしていた。とは言え、此処まで問題無く進めていたからこのまま終わるかとも思ったりしていたが……ま、仕方ないか。


 心配顔のハースに笑って応え、頭を撫でてから収容所に転移した。




◆◇◆◇◆◇




 収容所の通路に転移すると、両側の出入り口付近でグレッグたちが応戦していた。


「アレーシア! レトルス! いったん退け!」


 片側の出入り口付近で応戦しているアレーシアとレトルスに声を掛けると、二人は一瞬驚きつつもスグに頷いて後退したので、その隙間を狙って敵に対し『虚空斬(ブラインドスラッシュ)』を放つ。


「……なッ⁉ 魔族だ! 魔族がいるぞ!」

「対魔法術士! 対魔法術士を呼べ!」


 一気に数人が切り刻まれた衛兵たちが動揺している。それにしても「対魔法術士」なんてのがいるのか。どんなのか知らないけど面倒そうだな。


 瞬間移動して出入口から外に出ると、そこには三十人くらいの衛兵がいた。出入口が狭いせいで一斉に突入する事が出来なかったんだろうな。まぁ、おかげでグレッグたちも時間稼ぎが出来たようなもんか。


「取り敢えず――『雷撃瀑布(サンダーフォール)』でも喰らえっ!」


 目の前に広がっている衛兵たちに向かって雷撃を降り注ぐ。

 一人一人に狙いを定めて放っているワケじゃなく、それこそ雨アラレのように所構わず落としてるから逃げようが無く……というか、逃げる場所もなく撃たれるがままだ。


「ぎゃっ……」「がはぁっ……」「あがっ……」


 ま、どいつもこいつも悲鳴にならない一声を上げてぶっ倒れていくわけで。


「……で、対魔法術士ってのはどこだ?」


 ほぼほぼ敵が倒れてしまい、パッと見た限りでは立っている敵さんは見当たらないのだけれども、取り敢えず声に出して聞いてみる。


「返事は無しか……」


「当たり前でしょ!」


「うおぅ……」


 何故か腰に両手を当てたアレーシアが仁王立ちして俺を睨んでいるのだが……これってアレか? 「俺、何かやっちゃいました?」ってヤツですか?


「助けに来てくれたのは嬉しいですけどね。ターナス様が一撃でやっつけちゃったら、それまでの私たちの頑張りは何だったの? って感じになっちゃうじゃないですか」


「……すまん」


「まぁまぁ、アレーシアさん。ターナス様は私たちの事を思って助けてくれたんですから」


「レトルスさんも自分の頑張りを主張していいんですよ」


「ははは……そうですね。そのうち……ハハ」


 やる前にアレーシアたちを労ってからやった方が良かったって事かな。アレーシアにしてみれば、それまで頑張って戦っていたのに、良いトコ取りされちゃった気分なのかもしれないな。


「あ~、アレーシアたちが数を減らしてくれていたおかげで――」

「いいから反対側のグレッグさんを手伝って下さい。急いだので残ってる亜人種族の方たちを転送させる術が無いんですから」


「了解っ!」


 いつもの様に主従逆転したみたいにケツを叩かれて、グレッグの応援に向かう。


「グレッグ! 敵は?」


「おう、ターナス。外にまだ大勢いるっぽいが、どの位いるか分からん。さっき向こうで雷撃音がしたが……アレはお前か?」


「ああ、そうだ」


「ならコッチも頼む。一気に片付けちまいたいからな」


「OK分かった」


 アレーシアとは反対に、グレッグは俺が一気に片付けるのを求める。まぁ、それは単に「面倒事はお前に任せる」って意味合いの方が強そうだけど。


 出入口付近の衛兵はグレッグに任せ、俺は瞬間移動で外へ出た。

 こちらも反対側と同じ様に、数十人の衛兵が出入り口付近を取り囲んでいる。


「何者だ⁉」

「魔術師か?」

「さっきのヤツラの仲間だ、切り刻んでやれ!」


「悪いけど……『雷撃瀑布(サンダーフォール)』っと」


 先程と同じ様に『雷撃瀑布』を撃ち放つと、倒れた衛兵とその周辺を見渡して、撃ち漏らしがないかを確認した後、振り返って出入口で戦っているグレッグの様子を見る。


「な……なんだ今のは?」

「詠唱してなかった……? 魔族か?」

「魔族にあんな魔法を使うヤツがいたか?」


「余所見してる暇なんてないだろっ!」


 俺が放った『雷撃瀑布』の音でグレッグとの戦闘から目を逸らした衛兵だが、その一瞬の隙をグレッグに叩かれてしまっていた。


「ターナス、悪いが残ってる連中を転送してやってくれ。急いでたから半分以上が送れなかった」


「ああ、分かった。そしたら、俺たちも全員で転移した方がいいな」


「いや、取り敢えず俺は残してくれ。どうも王国軍か中央聖騎士団かに応援要請に行かれたみたいだ。まだ『絶対的身体防護アブソリュート・プロテクション』は効いてるだろ? 全員で引くと敵の戦力も散開するかもしれん。それなら此処に集中させた方が何かと楽じゃないか?」


「……グレッグがそう言うなら、分かった。取り敢えず亜人種族と他の皆を移動させたら、スグに戻って来る」


 収容所の中に入って、残された亜人種族を守っていたパイル。そしてアレーシアとレトルスにグレッグと話した内容を伝えると、レトルスが自分も残ると言ってきた。


「私なら魔法が使えるので、グレッグさんの支援が出来ます。魔族の姿に戻れば魔力も元の力に戻りますから問題ありません」


「防護魔法が効いてるうちは傷ひとつ負わないが、だからと言って無茶はするなよ。亜人種族を送ったらスグに戻るからな」


「はい!」


 返事をしたレトルスは、自分で人間族の姿から本来の魔族であるレトゥームスの姿に戻ると、両手をニギニギと握って力の加減を確かめて、俺に顔を向け大きく頷いた。


「そういうワケだ、グレッグ。頼んだぞ」


「了解した」


「ヨシ、此処にいる全員でお互いの体に触れるんだ。安全な場所に転移するぞ! アレーシア、パイル、行くぞ?」


 二人を俺の両脇に添え、全員で『精霊の休息地』へと転移をした。


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