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第109話 保護依頼

 ガットランド王国の王都城塞にある『精霊の休息地』から、最初に救出した約八十人の亜人種族と共に、アトーレの冒険者ギルド前へと転移してきた。

 囚われていた収容所から一瞬にして森の中に転移し、更には亜人種族と人間族が普通に(・・・)闊歩している見慣れた景色が現れ、亜人種族たちは戸惑いながらも助かった事を実感したようだ。


「助かったのか⁉」

「此処はどこだ? ザーラか? ドルトアか?」

「見ろ! ギルドだ! アトーレ支部……アトーレなのか此処は⁉」


「取り敢えず黙れ!」


 気持ちは分かるが、煩い。それに、ギルドに引き渡して保護してもらうにしても、身勝手な言動をされてはゴーランに迷惑を掛けちまうし、出来ればゴーランに「面倒な思い」をさせたくはないんだよ。


「此処はアトーレだ。いったん冒険者ギルドに保護してもらうが、動ける者は支部長の許可を取って故郷にでも何処へでも帰ればいい。だが取り敢えずそれまではギルド支部長の言う事を聞け。いいな?」


 少しばかりしょげてしまったようだが、致し方ない。

 ギルドの扉を開け、中にいる者にゴーラン支部長を呼んでくるよう頼むと、俺の事を知っているギルド職員がスグに気付いて二階に駆け上がって行った。


 束の間、勢いよくギルドの扉が開かれてゴーランが飛び出して来た。


「スマンな。およそ八十人の亜人種族だが、保護して欲しい」


「彼らは皆、ガットランドに囚われていた亜人種族か?」


「ああ、そうだ。まだ三百人程度いるが、それは別の場所に転送して保護してもらうつもりだから、取り敢えず此処にいる連中だけでも頼みたいんだ」


「勿論、任せてくれ。見ればドワーフ族や魔族もいるようだが、大半は冒険者だった者のようだし、何ら問題はない。それよりも此処では何だ、ギルドの試験場へ行こう。あそこならこれだけの人数でも十分余裕をもって休めるだろう」


「それなら後は此処で全て任せたいんだが、良いかな? まだ仲間が救出の為に動いてるんだ。俺もそっちを優先しなきゃならない」


「そうか。それなら後は任せてくれ」


「スマンな、迷惑を掛ける」


「なんのなんの。タナトリアス殿のおかげで攫われた亜人種族たちが無事帰還出来たんだ。我々も全力でバックアップする。あれから念の為と思って、保護施設を用意しておいたんだ。まぁ、保護施設とは言っても一時凌ぎの仮設だがな」


「十分だ。ケガや病気などを負ってた者は治癒を掛けて、全員一人で動ける程度にはしてあるから、希望する者は故郷にでも他の街にでも行かせればいいさ」


 前回救出した数人の亜人種族を連れて来た後、こうなる事を予想して動いていたとは……。流石にギルド支部長だけのことはあるか。


 頼りになるゴーランに後を任せて、ガットランドの『精霊の休息地』に戻った。




 森に転移すると、既に次の解放された亜人種族たちが待機していた。

 姿を現すとスグにリビエナが駆け寄ってきた。


「ターナスさん、動けなかった者たちの治癒も完了しています」


「そうか。ありがとう。人数は……百二十人程度かな?」


「はい、凡そそのくらいになります。ただ……」


「ただ? 何かあったか?」


「ああ、いえ。ただ、獣人種族の中に冒険者ではなく、幼い子供がいたんです。相当怯えていて、治癒で精神的には落ち着かせられたんですけど、どうも両親も一緒に拉致されたようなのですが、収容所に入れられた時に別々にされてしまったらしくて……」


「今は、どうしてる?」


「ハースさんとシーニャさんが付添ってます。あの――あちらですね」


 リビエナが少し離れた場所を指差したので、その方向に視線を向けると、ハースとシーニャが小さい獣人の子供を二人の間に挟んでいるのが見える。

 亜人種族を安心させる為に、予めハースとシーニャは魔法で変身させた人間族の姿から、本来の獣人種族の姿に戻しておいたのだが、良かったみたいだな。

 近付いていくとハースが俺に気付いて顔を向けた。


「ターナス様……」


「どんな様子だ?」


「両親と一緒だったそうなんですけど、捕まったあとは離れ離れになってしまったって言ってます。ターナス様、この子のお父さんとお母さんを探せるでしょうか?」


 耳の形状を見ると、猫獣人種族のようだ。見た目的には十歳前後だろうか。膝を抱えて地面を見つめている。周りの亜人種族たちが戸惑いながらも牢から脱出出来た事で、いくらかは安堵の表情を浮かべたりしているのに対し、この子には表情に何の感情も伴っていないように見えた。


「絶対に――とは言えないが、まだ沢山の獣人種族が残ってるからな。もしかしたらその中に両親がいるかもしれん。取り敢えず今は安全な場所に移ろう」


 正直言えば、のんびりしている暇はないんだ。グレッグたちが次の解放した亜人種族たちを送って来るはずだから、早くこの場を開けておく必要がある。


「ハース、そのままその子と一緒にいてやってくれ。いったんジグラルダルへ向かう」


 子供を安心させる為にハースはそのまま付き添わせておき、シーニャにはリビエナの護衛を兼ねてこの場に残ってもらう。

 そして、亜人種族たちを最初の連中と同じ様に前後左右で体を接触させてから、ユメラシア魔王国の魔王軍ジグラルダル師団へと転移した。




◆◇◆◇◆◇




 約百二十人と最初のグループより大人数ではあるが、問題無くユメラシアのジグラルダルへと転移した。尤も、パイルの魔術印符(アミューレット)で転送出来てるのだから、俺が出来ないワケが無いんだけどな。


 ジグラルダルの魔王軍駐屯所に転移したが、前もって予告も何もしていないので、駐屯所のグラウンドに突然現れた俺たちに軍の連中は「すわ敵の侵入か⁉」と大騒ぎになってしまった。


「私はタナトリアスだ! ガットランド王国に囚われていた亜人種族を救出してきた。早急に彼らの保護を要請する。ガーハイム師団長にも連絡してくれ!」


「タナトリアスとは……あの(・・)タナトリアスの事か?」


あの(・・)タナトリアスだ。分かってるなら早く師団長を呼んでくれ」


「証拠は――」

「証拠はコレだ! 早く呼べ!」


 一々面倒臭いので死神タナトリアスの姿になって怒鳴ってしまった……。

 そういえば前回ジグラルダルに来た時も、一般の兵士は一々疑ってかかったり口調に文句を言ったりしてたっけ。


 タナトリアスの姿になった俺を見て、その場にいたほぼ全ての兵士が跪いて敬意を表しつつ、おそらくは下士官であろうか、他の兵士よりも少し偉そうな男が数人を走らせて建物の中に向かわせていた。

 多分、師団長を呼びに行ったんだろうな。


「申し訳ございません、タナトリアス様。私は魔王軍ジグラルダル師団第三魔攻軍少尉ダラッツと申します。何卒部下の無礼をお許しください」


「分かった、面を上げてくれ。急を要するもので俺も少し大人げなかった」


「ありがとうございます。それで、こちらの亜人種族たちはガットランドに囚われていた者たちであると?」


「そうだ。取り敢えずここには約百二十人ほどがいるんだが、彼らを一時的でいいから保護してもらいたい」


「それならば容易い事だと思います。じきに師団長もお見えになると思いますので、恐れ入りますが今しばらくお待ちください」


 下士官かと思ったら、れっきとした士官だった……。良く見れば軍服も他の兵士よりシッカリとしてるし、軍刀も持ってたか。


 ダラッツ少尉を立ち上がらせて、亜人種族を救出した経緯を説明していると、ガーハイム師団長が文字通り飛んで来た。

 おお! 彼は浮遊魔法が使えるのか!


「タナトリアス様! 遅くなり申し訳ございません」


「いや、謝るのはこちらの方だ。突然大勢の亜人種族を連れて来てしまって申し訳ないが、取り敢えず保護してもらいたい。殆どの者は動けるから、希望する者は故郷なりランデールなりに行かせてやってくれ」


「畏まりました。他に何かご要望はございますか?」


「ああ、それと特別に頼みたいんだが……。ハース、その子を連れてこっちに来てくれるか」


 ハースが寄り添って猫獣人種族の子供を連れてくると、その子供の事をガーハイムに話した。


「――というワケで、今のところ親は見つかっていないんだが、もしかしたら救出した他のグループに紛れてるかもしれない。ただ、最悪の場合は……」


「分かります。最悪の状況も考えつつ、丁重に保護させて頂きます。ちょうど駐屯所内の物品販売所に猫獣人種族の店員がいますから、彼女に頼んでみましょう。なかなか器量の良い猫獣人種ですし、信頼のおける者を付添わせますので、どうぞ安心してお任せください」


「悪いな。頼んだぞ」


 ハースから離してガーハイムに預けても、猫獣人種族の子供は無表情のままだった。逆にハースの方が今にも泣き出しそうなくらい、顔を歪めて子供を見つめていた。


「可能なら救出した連中の中からも、子供に付添ってもいいという猫獣人種を探してみてくれ。同じ境遇にいた者なら何か分かる事があるかもしれん」


「承知しました」


 あまり長居してる暇も無い。今頃は第三のグループが森に転移されて、リビエナとシーニャが救護でバタバタしているハズだ。

 ガーハイムに後を任せ、俺はハースの手を取り『精霊の休息地』に転移した。


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