第108話 解放開始
※数字の間違い部分を修正しました。
※誤字訂正しました。
亜人種族が囚われている収容所は、外から見た限りでの敷地面積はそれほど大きくないように思える。
ここに四百人からを収容しているという事は、そうとう押し詰められた状態であることは間違いないだろう。
「通用門は正面の一カ所のみ。監視塔が四方の角にそれぞれあって、監視員は二人ずつ。武装は弓だけのようだな」
グレッグに認識阻害を掛けて、神速で収容所の外周を偵察してもらった。
「監視塔の連中は、壁伝いに俺が束縛魔法を掛けて拘束する。拘束が完了したら収容所内の亜人種族の位置を読み取るから、そうしたら全員で中に転移するぞ」
俺の言葉に全員が了解の意を示したのを確認し、収容所の塀まで移動する。
認識阻害を掛けているから監視塔の見張りからは目視は勿論、気配を感知することも不可能だ。
収容所の外壁に手を当てて、束縛魔法を壁伝いに飛ばす――と、四つの監視塔にいる計八人の監視員がその場に倒れて身動き出来なくなった。
そのまま収容所全体に意識を巡らせ、亜人種族が囚われている建屋を探る。
「囚われている建屋は、真ん中の通路を境にして両側に牢屋が十個ずつ、計二十の牢がある。その中にそれぞれ二十人程度で振り分けられてるな」
「牢の監視は?」……とグレッグ。
「衛兵のようなのが二人ずつ二ヵ所。建屋の両サイドで腰を下ろしてふんぞり返ってやがる。それから詰所があるな。そこには交代要員だろう、さらに四人いる」
「どうやって解放します?」……とアレーシア。
「シーニャとアレーシアは両サイドにいる衛兵を倒してくれ。詰所の連中はグレッグに頼む。その間に手前側の牢から破壊していくが、最初に左右二つずつの牢……つまり八十人程度を解放する。そうしたら、俺とハース、シーニャ、リビエナは亜人種族たちと一緒に森に転移だ」
「それじゃあ、後は俺たちが残りの亜人種族を解放していけばいいんだな?」
「ああ。まずは六つの牢を解放してくれ。凡そ百二十人程度になるだろうが、その段階でパイル、森に転送を頼む」
「承知しました」
「俺は森で順次安全圏に転送させるが、収容所の方も常に注視してるから、何か異変があればスグに対応する」
「まぁ、そんなに心配すんな。俺たちは『絶対的身体防護』を掛けてもらってるんだから、亜人種族を解放しきるまでは大丈夫だろう。問題は騎士団がワラワラと出てきたら……だが、まぁこれは問題ってよりも面倒って感じか」
要は、魔獣や魔物と違って、大人数の訓練された騎士団を相手にするのは、単に面倒だという事らしい。
念の為、この収容所内に囚われている亜人種族以外にどれだけの人間族がいるのか探知してみると、凡そ八十人程度。その内、戦闘が可能な者は五十人程のようだ。この程度なら問題ないだろうが、油断は禁物である事を伝えておく。
「最初の牢の破壊は俺がやるが、その次からの破壊だが――」
「それならコイツで斬れるだろ?」
俺は最初の牢を解放した後に、その亜人種族たちを連れて森に転移してしまうが、順番に牢を解放していく都合上、二つ目からはグレッグやパイルたちにやってもらわなきゃならない。その方法を聞いてみようと思ったのだが、グレッグが自身のショートソードをポンポンと叩いてニヤリと笑った。
グレッグのショートソードをはじめ、メンバーの武器は全て俺が強化魔法を施していて、その切れ味は伝説級とでも言っていいほど、とんでもなってるからなぁ。
「フッ、もう何でもありだな」
「そうしたのはターナスだってのを忘れるなよ」
「はいよ。それじゃあ皆、準備はいいか?」
皆を見渡すと全員が大きく頷いた。
◆◇◆◇◆◇
収用所内の牢が並ぶ通路のほぼ中央に転移した俺たちは、すぐさま打ち合わせ通りにシーニャとアレーシアが通路両サイドにいる衛兵に向かって斬り込む。同時に、グレッグは詰所に突入していった。
「今からお前たちを解放するが、騒ぎ立てるな。全員を確実に解放する」
牢に囚われている亜人種族たちは、今のところ何が起こったのか分からず呆然としているが、助かると分かれば我先にと騒ぐかもしれない。騒がれたところで問題はないのだが……煩いのはイラっとするからな。
「まずは右側二つと左側二つだ。牢を破壊するから後ろへ下がってろ。下がれ!」
呆然としてる亜人種族にやや強い口調で告げると、ハッとなって慌てて牢の奥の方へと下がって行った。
牢の鉄格子に指を当て、鉄格子を円形に描いて切り抜く様子をイメージしながら、鉄格子に添って指を円形にグルリと回す。
そして、鉄格子を掴んで手前に引っ張ると、牢に円形の通り穴が出来た。
「ココから出て牢の前に纏まるんだ」
亜人種族を牢から出し、そのまま牢の前で待機してもらう。
彼らはまだ事態が飲み込めていないようで、恐る恐る、ビクビクとしながらゆっくり牢から出て来ていた。
「本当に……助けてくれるんですか?」
「ああ、本当だ。だが、ここで騒ぎ立てれば敵に見つかって全てが台無しになって、また囚われの身。下手すりゃ、即殺されるかもしれんぞ?」
少しくらい脅しておいてもいいだろう。大抵こういう時は「俺も俺も」「早くしろ」と騒ぐのが常になるだろうからな。
同じ様に続けて他の五つの牢も鉄格子を破壊して解放しつつ、順番を待つ亜人種族たちにもレトルスやパイルが「これから安全な場所へ転送するから黙ってまっているように」と説明していく。
四つ目の牢を解放した時には、既にシーニャとアレーシア、そしてグレッグも戻って来ていた。
「何かあってもスグに駆けつけて来れる衛兵はいなそうだ」
「それじゃあ、俺たちはこれで森に移動する。あとは頼むな」
「ああ、任せておけ」
「魔術印符で順次転送させますからね」
「慌てなくても大丈夫だからな」
最初に解放した約八十人を四列に並べさせると、転移に巻き込まれないよう他のメンバーは後ろへ下がった。
「皆、片手を前のヤツの肩に置いて、もう片方の手を隣のヤツと繋ぐんだ。早くしろ! ――出来たな? それじゃあ行くぞ」
◆◇◆◇◆◇
中心部から離れた『精霊の休息地』の森に転移すると、一瞬で目の前が木々で覆われた森になった事に亜人種族たちが動揺している。
「皆、座ってくれ。一度確認しておきたいことがある。座れ!」
状況が飲み込めず動揺しているのは分かるが、やはり強い脅し口調で言わないとスグには反応してもらえないな。
「此処はまだガットランドの中だが、これから国外に転移する。その前に体調の悪い者がいたら教えてくれ。神官が治癒を施す」
見渡すと十人弱の者が手を挙げた。
リビエナが手を挙げた者達の下へ向かい、体の状態を診る。状態に応じて、転移先で治療を必要としない程度に治癒聖術を掛けていく。
最後の一人の治癒が終わると、立ち上がって俺の方を向き大きく頷いた。
「それじゃあまた、さっきと同じ様に前のヤツと隣のヤツとで繋がってくれ」
転移前と違って、今度は一度言っただけでスグに態勢を整えたか。
まずはゴーランの所だな。
こうして、まずは最初の八十人ほどの亜人種族をアトーレの冒険者ギルドに転移させることにした。