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第102話 王都の冒険者

 パイルの持つ王国の魔術師ギルドで作られた魔術印符(アミューレット)に、転移魔法を術印として描くと発動する事が確認出来た為、三枚の魔術印符に転移魔法を写し込んで、非常時の転移用として使えるようにした。

 転移場所は勿論、この『森の精霊の休息地』だ。


「よし、それじゃあ馬車は俺の空間収納に入れて……っと」


「それじゃあ馬は俺が曳こう」


「グレッグさん、馬は私が曳きますよ!」


 馬を曳くと言ったグレッグにハースが代わりを申し出た。珍しいな。


「ハースちゃん、結構大きい馬だぜ? 無理しなくていいよ」


「いえ、無理じゃないですよ。私も馬はよく弾いてましたから」


 少々大所帯になった俺たちだが、その分ハースは「自分の役割が少なくなっていることを気にしていた様だ」と、アレーシアが耳打ちしてきた。

 そういえばハースは以前から馬車を扱ってたんだよな。馬は借り物だったが、自分の馬じゃないからこそ、馬の扱いに慣れているのか。


「グレッグ、ハースに曳かせてやってくれ。ハースもそれでいいんだな?」


「はい! まかせてください!」


 本人も嬉しそうだし、そんなハースの姿を見つめてるシーニャも、いつの間にかハースとは反対側の手綱をちゃっかり握ってるし……。


「グレッグ、悪いが殿を頼む。パイルはグレッグの前に。リビエナはアレーシアとレトルスの間に入ってくれ。それじゃあ行こうか」


 整備されていない森を一列になって進む。木の根や倒木はあるものの、然程歩き難さは感じない。

 念の為、認識阻害はそのままに周囲警戒もしているが、気配を感じるのは小型の動物……おそらくはリスや兎のような小動物だろう。


 森の切れ目はスグに見えて来た。

 人目に付かない所で認識阻害を解き、再びひと塊になった。


「この後は……」


「やはり一度、正面の中央門へ行ってみた方が良いのではないでしょうか」


「そうだな。【枢要塔】の建設がどのくらい進んでるのかも確認したいしな」


 アレーシアの提案にグレッグが同意する。


 【枢要塔】の建設は相当数の亜人種族を『人柱』として生贄にするらしく、その人数がある程度揃ってから、基礎の準備が始まるだろうとの事だが、実際にこの目で何処まで計画が進んでいるのかは確認しておいた方が良いだろうとの事だ。


 空間収納から馬車を出し、再び馬を繋ぐ。


「御者はまた俺がやる。ターナスは後ろで――」

「いや、俺も御者台にいこう」


 王都内であれば後方で周囲経過をするよりも、前方で実際に状況確認した方が良さそうだ。


 御者台に冒険者然としたグレッグと、黒服に黒マントの商人とも冒険者とも見えない俺が座っていると、すれ違う人達は最初は物珍しそうに俺たちに視線を向けるのだが、何故かその後サッと視線を外してしまう。

 目立ち過ぎてマズイかと思ってグレッグに聞いてみると――。


「俺たちに対してだけじゃなさそうだ。ほら、あれを見てみろ」


 グレッグが顔を向けた方には、俺たちと同じ様な馬車がいるのだが、やはり道行く人はその馬車に視線を向けた後、サッと顔を背けて見ていないフリをしている。


「あの馬車に乗ってるのも冒険者みたいだろ? もしかしたら、王都では冒険者に対して何かあるんじゃないのかな」


「何か……とは?」


「それはワカランけど――」


 そうグレッグが言いかけたところで、近くから怒鳴り声が聞こえて来た。


「二等級冒険者パーティーにケチ付けたんだ、その意味が解ってんだろうな?」


「ケチだなんて……私はただお金を払って頂きたいと――」


「だからそれがケチ付けてるって言うんだよ! 二等級冒険者が使ってやるって言ってんだ、そういう時は『差し上げますから是非とも使って下さい』って言うべきだろ!」


 酷い言い草だな。あれじゃただの強請り集りじゃねぇか。


「あれが原因か……」


 グレッグがポツリと呟いた。


「原因?」


「ああ。街の人たちが冒険者をチラっと見ては、スグに目を逸らす原因さ。もしかしたら、ここじゃ冒険者はある程度の地位があるのかもしれん。普通なら、あんな事をすりゃスグに衛兵がすっ飛んでくるはずだが……」


「衛兵ならあそこにいる……が、笑って見てやがる」


「つまり、そういう事だ」


 横暴な冒険者と、おそらくは商品を奪われたのであろう店の主人らしき男の姿を見ていると、とうとう冒険者が剣を抜いてしまった。


「止めるぞ」


 一言グレッグに告げ、返事も聞かずに瞬間移動して店主の前に立ちふさがり、冒険者が振り下ろした剣を防御魔法で弾き返す。


「そのくらいにしておいたらどうだ?」


「な……なんだお前は⁉」


 商人に剣を振るった冒険者は、筋骨隆々で力で押し切るタイプのような感じだが、二等級というからにはそれなりに実力もあるのだろう。ただ、防御魔法に当たった剣の感じでは、力任せに剣を振り下ろしただけのようにしか見えない。

 もしかしたら、パーティーメンバーにもっと凄いヤツがいるのかもしれんな。


「冒険者なら商人の世話になる事も多いだろ。いくらなんでもやり過ぎだ」


「俺達は二等級冒険者パーティー<疾風の旅団>だぞっ!」


「……知らん。有名なのか?」


「キサマ……<疾風の旅団>をなめてんのか⁉」


「<疾風の旅団>か、聞いた事はあるな」


 しれっと近くまで来ていたグレッグが、筋肉男に向かって言葉を返した。


「なんだ、有名なのか?」


「いや、聞いたことあるってだけだ。確か『コカトリスを退治して二等級になった』って話だったと思うが、聞き間違えだったかもしれんな」


「聞き間違えじゃねぇ! 実際に俺たちがコカトリスを退治したんだ!」


「まあ、コカトリスを退治したのが本当だとしても、実際に倒したのはお前じゃないんだろ?」


「なんだと……⁉」


 筋肉男の顔が真っ赤になり、腕の筋肉には血管が浮き出てきた。そうとう怒ってるのだろうが、この変化は見ていて面白いな。


「キサマ等、<疾風の旅団>をナメてただで済むと思うなよ。俺達<疾風の旅団>は、全員が実力で二等級になったパーティーなんだからな」


「コイツだって二等級だぞ?」


 グレッグの肩に手を置いて教えてやる。


「そうか、お前は二等級だったか。それじゃあ、そっちのお前も二等級なんだな?」


「俺か? 俺はそもそも冒険者じゃないからな。等級なんざ無いぞ。まぁ、それでもお前よりはずっと強いだろうけどな」


「なんだとぉぅ⁉」


 いよいよ茹蛸かと思う程真っ赤になって、このまま煽っていたら卒中でぶっ倒れるんじゃないかと思う程、血管がブチ切れそうなくらいに、こめかみや額に大きく浮き出ている。


「冒険者でもない者が俺たちより強いというのか?」


 筋肉男の後ろにいたハルバートを持った男が、やや冷静な口調で言いながら前に出て来た。パーティーメンバーだろうか、コイツも結構な筋肉男だ。


「ああ。俺は勿論、この男もオーガジェネラルを数人倒してるしな」


「オーガジェネラルだと……。ふ、フン、俺たちは亜人種狩りなんぞよりも魔物討伐に力を入れてるからな」


「ああ、そうだとも。亜人種狩りなんぞは騎士団にやらせておけばいいんだ。だいたい、オーガジェネラルを倒した証拠があるのか?」


「ユメラシア魔王国の魔王軍に聞けば分かる。ユメラシアの傭兵ギルドを一つ、壊滅させたからな。なんなら此処で、相手にしてやってもいいぜ?」


「……チッ。お前等の顔は覚えたからな。今度会ったらただじゃ済まさないぞ」


「俺は今度じゃなく、今でもいいって言ってんだけどな」


「フンッ、覚えとけ……」


 随分と尻すぼみな捨て台詞を吐いて何処かへ行ってしまった。ゾロゾロと後に続いて行った者の人数からして、パーティーは六人ってところか。ま、次に会ったところで痛い目に遭うのはアイツ等の方だろうけどな。


 思いがけずというか、ついつい出しゃばって喧噪の中心になってしまったが、<黒狼>が去った後は見物していた者たちもバラバラと散って行った。


「ありがとうございました」


 筋肉男に絡まれていた店主が頭を下げて礼を言う。


「いや、出過ぎた真似をしちまった。それにしても、この街……王都じゃ冒険者は皆、あんな連中ばかりなのか?」


「はい、その通りです。冒険者は亜人種族狩りに出ている騎士団に代わって、王都周辺の魔物討伐をして下さいますし、他の街へキャラバンを出す商人としては、頭が上がらないのも事実で……」


「冒険者は亜人種狩りをしていないのか?」


「そうですね。報奨金目当てで捕縛してくる冒険者もいますが、それよりも魔物討伐の方が利益になりますから」


 話を聞きながらも、ふと「この商人だってガーネリアス教徒なんだろうな」と思ってしまうと、なんだか「助ける必要があったか?」等と自問自答してしまいそうだ。


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