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第101話 大発見

 王都城塞にある木々が生い茂る一画。

 ランデール領やカウス領でも同じように、木々が生い茂る一画が設けられているらしく、そこは『森の精霊の休息地』と言われてるそうだ。


 前世で言う森林公園や緑地公園といった類のものかと思ったが、特に人の手が入って整備されたという感じでは無いし、もともと此の地にあった木々を伐採せずに残しておいただけ――といったところか。


「確かに人の気配は無いみたいだな」


「そもそも『精霊信仰』そのものが古い言い伝えの中でしかありませんし、ガーネリアス教徒には精霊信仰なんてありませんからね」


「じゃあ、何でこんな場所を残しておくんだ?」


「信仰心は無いけど、呪われるのも怖い……って事でしょうね」


「ガーネリアス教の教会も『森を潰せ』とか言わないのか……」


「ガーネリアス教に限りませんけど、古い言い伝えで『精霊を怒らせると三代に渡り災いを受ける』ってのがあるんですよ。ましてや魔術師が唱える詠唱には、必ず精霊がどうたら……って文言が入りますから、教会としても黙認するしかないって事だと思いますよ」


「魔術師が此処に来ることは?」


「ガーネリアス教徒ならば、ありません」


「なら、今の俺たちにとっては都合が良い場所か」


「……ですね」


 結構な広範囲に及ぶ森だから人目に付かないのは良いとしても、整備されてないから馬車で転移すると身動きとれなくなりそうだが、その事については皆と相談するとして、いったん皆の所へ戻るとしよう。




 ●>>>>>>>>〇




 転移魔法で皆の所へ戻り『森の精霊の休息地』だと思われる場所を説明すると、やはり皆もその場所への転移に賛成だった。


「問題は森の中に転移すると、馬車が動かせなくなるって事なんだが、その事に関してはどう思う?」


「いっその事、馬車はその森の中に隠しておくってのはどうでしょう?」


「王都内の移動は歩きってことか……」


「ターナス様の空間収納には入りませんか?」


「馬車は兎も角、馬は入らんぞ?」


「それじゃあ森の中に隠しておくとしても、世話無しってワケにはいかないぞ?」


「あのぉ……取り敢えず、森を出るまで馬は曳いたらどうでしょうか?」


「馬だけ曳いて行くのか?」


「はい。森から出たら、また馬車に繋いだらどうかと」


「「「「それだ!」」」」


 レトルスの一言で結論が出た。どうしてこんな簡単な事が思いつかなかったんだろうかと―― 俺、グレッグ、アレーシア、パイルの四人で顔を見合わせて苦笑してしまった。


 そうと決まればもう問題はない。皆まとめて先程アレーシアと見て来た『精霊の休息地』なる森へと転移をする。



 

 〇>>>>>>>>●




「なるほど、確かに此処なら人目に付かないな。何か遭った時の拠点にしても良さそうだが……俺達はターナスみたいに転移魔法が使えるワケじゃないし、それは無理か」


「それだっ! それですよ、ソレッ!」


 グレッグの言葉に突然パイルが反応して叫び出した。


「何がソレだ?」


「ターナスさんの転移魔法を【魔術印符(アミューレット)】に書き記す事が出来るかどうかの実験です!」


「あれは魔術の術式を書いて発動させる物だろう? 俺は魔法の術式なんて知らないぞ?」


「だから実験してみましょうよ。まだ例のガンネルト製魔術印符(ダメな方のヤツ)が残ってますから、それで実験しましょう」


 こんな場所でイキナリ実験かよ。とは言え、何だかパイルの眼が輝いてるみたいだし、こうなったらパイルは何が何でも実験したがるだろうし、やらなきゃやらないで後々『やっときゃ良かったぁ!』なんて後悔しそうな気もするし……。


「それじゃあ、やっとくか」


 リビエナ以外は皆、苦笑している。あれが『ヤレヤレ、仕方が無いな』といった表情なのはパイルとリビエナ以外の皆が知っている事だ。


「それで、何をどうしたらいいんだ?」


「まず、何も記してない魔術印符(アミューレット)に転移魔法を書き記すイメージを与えてみてください」


「難しいな。ちょっと待てよ……」


 パイルが魔術印符を取り出して地面に広げる。

 俺はそこに転移魔法を発動させる術印をイメージするワケだが、俺の魔法はあくまでも創造魔法であって、思い描いた事を具現化させるという特異なモノであって、いちいち頭の中で術式のようなモノを思い描いているワケじゃないのだ。


 無地の魔術印符の上で手を広げて、何をどうしようかと思いあぐねる。

 俺はジッと魔術印符と自分の手を見つめたままだが、多分皆はずっと俺を見つめているのだろう。


 ――要は、この魔術印符で転移魔法が発動すればいいワケだろ? 俺の魔法は創造魔法なんだから、そのまま『魔術印符で転移する』って創造すればいいのか?


 魔術印符を放り投げて『転移』と唱えると、この場所に転移する姿を思い描きながら、それを地面に広げた魔術印符に念書するイメージする。


 ――すると


 無地の魔術印符にジワッと、魔術の術式とは全く異なる幾何学模様が浮かび上がり、インクで描いたモノより黒くハッキリとした線で記されていった。


「ど……どうかな?」


「試してみましょう。私がこれを持って、少し離れた所……あっちの方で発動させてみます」


 そう言ってパイルは魔術印符を拾い上げてジックリと眺めると、徐に指差した方向へ走って行ってしまった。

 とは言っても、そうそう遠くに行ったワケじゃなく、此処から見える場所へ移動しただけなので……ほんの50メートル程度だろう。


 立ち止まったパイルはコチラに向かって大きく手を振ると、ほんの少しジッとした後に、手に持っていた魔術印符を放り投げた。


 ――が、魔術印符はそのままヒラヒラと地面に落ち、パイルもその場から全く動いていない。魔術印符に魔法を書き記すのは無理だったのか。それともガンネルト製魔術印符(ダメな方のヤツ)だから、前回の実験の時みたいに発動が遅れているのか……。


 時間的には2~3分程度だと思うが、地面に落ちた魔術印符を見つめたまま固まっていたパイルが動き出し、魔術印符を拾ってコチラに走ってきた。


「ダ、ダメですね。これは失敗です。次は王都ギルド製の魔術印符で実験してみましょう」


王都ギルド製魔術印符(ちゃんとした方)でやるのか?」


「ええ、この際仕方ありません」


 王都の魔術師ギルドで作られた、一符金貨一枚と銀貨三枚という高価な物だが、どうやら他のメンバーもこの実験に関しては成功を願ってるようで、無言のまま「早く早く!」という雰囲気を伝えてきやがる。


 パイルが王都魔術師ギルド製の魔術印符を地面に置いたら、『転移』と唱えるとこの場所に転移する姿を思い描きながら、地面に広げた魔術印符に念書するイメージをする。再び先程と同じ様に幾何学模様がジワッと浮かび上がった後に、クッキリと黒い線で描かれた。


「それじゃまた、あっちに行きますね」


 魔術印……ではなく、魔法陣とでも言った方がいいのか、幾何学模様をジックリと見つめてから、またパイルはさっきの位置まで50メートルほど走って行き、同じ様に手を振ってから魔術印符を放り投げる。


 ――と、今度は放り投げた魔術印符が空中でポンッと煙になった。


「うおぅっ!」


 煙になった魔術印符を見ていた俺達の目の前に、突如パイルが現れる。放り投げた魔術印符が煙になってからパイルが現れるまで、時間にして3秒程度だっただろう。


「おおぅ! 成功しましたよ、成功っ!」


 唖然とする俺達の前で、パイル一人が飛び上がって喜んでいた。


「成功しちゃったな」


「やれば出来るじゃないですか! これで魔法を魔術印符で再現する事が可能だと分かりました。これは快挙……いえ、大発見ですよ‼」


 確かに、魔術印符で<俺の魔法>を再現する事が可能であれば、この先かなり色々な面で優位性が上がるはずだし、何よりメンバー皆の危険回避、或いはイザという時の集合が一瞬で可能になる。これは大きなメリットだ。


 実験の成功を喜んでいるパイルとは別に、グレッグとアレーシアが目を細めつつ、口角を上げているのが……ちょっと気になるけどな。


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