第100話 王都潜入への足掛かり
なんとか100話に達しました。
神官であるリビエナが使う術は、【魔術】ではなく【聖術】なのだという。
素人目には大した差なかろうかと思ったが、実験の結果、一般的な魔術師が魔術を発動する為に使用する魔術杖では聖術を発動することが出来ず、聖術専用の聖術杖でなければダメだということが分かった。
王都に入る前に聖術杖を手に入れておきたかったが、魔術杖のように街の魔道具屋で売っているなんてことはなく、教会から神官に授与される神聖なる物なんだとかで、結局手に入れることが出来ないまま王都が見える所まで来てしまった。
「いよいよ王都に入る。此処から先は完全なる敵地だからな。人間族に変装してる皆はいいとして……リビエナ、お前は顔バレする可能性が大きいんだから、その帽子を深く被っておけよ」
そう。ガーネリアス教の者なら知っている者がいるかもしれないリビエナのその顔と、ただでさえ目立つピンクヴィオレの髪を隠す為に、帽子はガーネリアス教神官の物から、キャスケットを大きくしたようなモノに変えさせた。
帽子の左右と後ろには日除け垂れのような布が付いているのと、帽子全体が黒基調なので特徴的な髪の色を隠すのに一役買っている。
そして神官服もガーネリアス教の白い神官服から、動きやすい内服で外装は十字軍のサーコートに似た黒基調のシュルコに変えた。
これでパッと見は神官には見えない……と思う。
王都は強固な城塞になっていて、出入りする者の検査が厳しいそうなので、今の状態で素直に入る事は不可能だろう。
「ターナスさんは身分証持ってませんし、私たちは人間族の姿をしちゃってますからね。まともに通過出来るのはグレッグとアレーシアさんだけですよ」
そう。俺とハースはそもそも身分証が無い。パイル、シーニャ、レトルスの身分証は亜人種族としての種族名が記されている。そしてリビエナはお尋ね者。そうなると人間族であり身分証の記載と偽りのないメンバーは、グレッグとアレーシアだけなのだ。
「改めて考えてみると、もしかしたら野盗と何ら変わりないんじゃないですか?」
「違いない。ランデールじゃギルドも認める一端の冒険者クランだが、ガットランドじゃその身を明かせない野盗と同じだな」
呆れるアレーシアにグレッグが笑いながら同調している。ってか、お前らもその一派なんだからな!
「ま、要は正規に通用門で入るんじゃなく、転移魔法でコッソリ侵入するつもりなんだろう?」
「そうだよ。ただし、転移する場所を選ばなきゃならないから、先に誰かが入城して転移目標を探す必要がある」
「ああ、そういやそうか。人目に付かない場所に転移する必要があるもんな」
「そこで、だ。誰が先に城塞内に入って転移場所探しをするか……だ」
第一案として、グレッグかアレーシアが正規に通用門から入る。
第二案として、俺が自分自身に認識阻害を掛けて紛れ込み侵入する。
第三案として……は、無い。
「俺かアレーシアが入って場所を見つけたとして、それをどうやって連絡すればいいんだ?」
「念話――」
「――は、俺達からは出来ないぞ?」
そうだった。まだ念話は俺からの一方通行でしか出来ないんだった……。
「それじゃあターナス様が侵入して探すしかな……」
「どうした、アレーシア?」
俺が行くしかないと言いかけて、急に何か思う所があったのか考え込んでいる。
「ターナス様が一人で……大丈夫ですかね?」
「どういう事だ?」
つまり、アレーシアは俺一人で城塞内に侵入したとして、「不慣れな王都内で簡単に転移場所探しが出来るのか」「一人で侵入して何か問題を起こさないか」が心配になったそうだ。
場所探しに関しては兎も角、もう一つの方はちょっと酷くないか? 俺はトラブルメーカーか? そういや以前、そう言われた事があったっけ……。
「確かにターナス一人だと心配だな。だったらアレーシアも一緒に行ったらいいんじゃないか?」
「私もですか⁉」
確かにグレッグの言う通りだ。言い出しっぺが付添うべきだな。
という事で、俺とアレーシアが認識阻害を掛けて、王都に入る他の者たちに紛れ込んで侵入する事に決定だ。
◆◇◆◇◆◇
王都城塞に入る商人らしきキャラバンの積荷に紛れ、認識阻害を掛けて無事に検問のある通用門を通過する事に成功した。
通用門からは両脇を壁に挟まれた一本道を進んでいくと、更に城壁があり、王都が二重の城壁で囲われている事が分かった。
二つ目の城壁では検問は無いものの、通用口の両脇や壁の上には兵士らしき者が常に人通りを監視している。
そして、その通用口を通り抜けるとようやく街としての体が見えて来る。
「やはり人が多いな。この近辺じゃ馬車ごと転移するのは無理っぽい」
「そうですね。もう少し郊外に行った方が良いかもしれません」
「どっちに行けばいいか、分かるか?」
「……取り敢えず、歩いてみましょう」
お前だって一人じゃダメだったかもしれないじゃん!
認識阻害を掛けたままキャラバンから離れ、行き交う人達と接触しないように気を付けながら人の少ない場所へ移動する。
暫く歩いたところで露店が並ぶマーケットが広がる場所に出た。
良く見れば細い路地が建物と建物の間に通っている。
「あの路地に入ってみよう」
人通りの無さそうな細い路地に入って進んで行くと、建物の裏通りに出る。そこは表通りのマーケットの喧噪とは異なり、あまり王都というイメージからは少々外れた庶民的な人々が行き交っていた。
「ここは平民層の居住区みたいですね。表通りのマーケットに出ている商人とは身形が異なり、簡素と言うか質素と言うか……おそらくあまり裕福ではない層の居住区だと思います」
「そういえば、地方の集落に住んでいるような人に近い雰囲気だな」
「マーケットにはこのような人達の姿を見なかったので、表通りには行かないよう御触れが出てるのかもしれませんね」
「こういう平民層ってのも、何かと疎外される対象なのか?」
「そうとも言えませんよ。平民層はそれなりに力仕事や裏方の仕事がありますから、そういった意味では無くてはならない存在です。ですから裕福層としても無下に扱う事はありませんね。下手に反抗されて仕事を放棄されたら困りますから」
「……なるほど」
「それに――」
「なんだ?」
「言っておきますけど、彼らもれっきとしたガーネリアス教徒ですよ。『人間中心主義』を是としてるのは変わりませんからね」
「……お、おう」
やはりガーネリアス教を国教とするだけあって、殆どの国民が信仰してるってワケか。ガーネリアス教の中での階級はあるのかもしれないが、亜人種族との共存は嫌悪する人間って事なんだな。
場合によっては敵対する者達だと言い聞かせて、人気のない場所を探して辺りの散策に集中する事にした。
暫く歩き回っていると、木々が生い茂る一画が目に留まった。
「あれは何だ?」
「ランデールやカウスなどと同じであれば、森の精霊に休んでもらう為の休息地だと思いますよ」
「森の精霊の休息地……か」
「あそこなら人目に付かないかもしれません」
「禁足地なのか?」
「別に人が立ち入ってはイケナイって場所じゃないんですけど、ガーネリアス教の場合だと『精霊も亜人の一種』って考えですから、精霊に対して何かしらの用がない限りは来ない可能性が高いです」
どうやら今の俺たちにとっては都合の良さそうな場所だ。
俺とアレーシアは『精霊の休息地』と思われるその場所が転移地点に適してるか否かを調べる為、木々が生い茂るその一画に進んだ。
拙い物語ですが、お読みくださりありがとうございます。
どうにかこうにか100話まで続ける事が出来ました。
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