第3話 カレーなる爆走のナギサハイウェイ 06
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レンタロウとサヤカを乗せたバイクは、可能な限りの速度を出して夜のナギサハイウェイを突っ切っていた。
サービスエリアを出て時間にして約30分、距離にして約50キロメートル進んだ時点ではまだ国際警察は追いかけて来ず、自動運転の一般車両を順調に避けて距離を稼いでいた。
「撒けましたかね?」
サヤカは後部座席に座り、振り落とされないようレンタロウの腰に手を回してしっかりと体を固定しながら、追手が来ないのを見て尋ねた。
「どうだかな。簡単に逃がしてくれるような連中では無さそうだけどな」
レンタロウはハンドルを捌いて車両をどんどん追い抜かしながら、サイドミラーをチラ見して背後を確認した。
「でもビックリしましたよ。まさか殴るなんて思いもしませんでしたから」
これまでは逃げるのに必死だったため、目先の事だけを見て他の事は考えていなかったサヤカだったが、追手が来ない安心で心に余裕が出てくると、この逃走劇の火蓋を切ったレンタロウのあの衝撃のボディブローを思い出した。
「仕方ねえだろ。あのままただ逃げても、走って追いかけられたらバイクを出してる間に捕まっちまってただろうからな。必要最低限の暴力だ」
「そんな言葉聞いた事ありませんよ」
「まっ、これに懲りてあの女刑事も俺達には近づいて来なくなるはず……ん?」
レンタロウが話していると、背後から微かにサイレンの音が聞こえ、その音がどんどんと大きくなってきたのでサイドミラーを使って目視をすると、周囲が暗いためレンタロウの目からはランプの色しか見えなかったが、白に黒いチェック柄が入ったセダン型のパトカーが、頭に備え付けられた赤色灯をビカビカに光らせて二人のバイクを追い駆けて来ていた。
「おいでなすったか。もっと飛ばすぞ!」
「はいっ!」
サヤカが体の固定を更に強めると、レンタロウは更にアクセルを吹かせてスピードを上げ、前を走っていた車をどんどんと追い抜いてパトカーとの距離を広げていく。
対するパトカーも、サイレンで他の車が別車線に寄ったと同時に加速し、レンタロウ達との距離を詰めてきた。
「チッ……ネチネチネチネチいつまでも着いて来やがるな!」
「あれ……運転してるのあの刑事さんじゃ……」
サヤカがサイドミラーで背後を走るパトカーを観察すると、助手席にはオキナミが乗っており、そしてハンドルを握っていたのはイチモンジだった。
「クソッ、鈍臭い奴だと思ってたが、意外と厄介な奴に恨みを持たれちまったか!?」
「あの速さでずっと追いかけて来られるって、あの人運転上手いですねぇ……」
「呑気に感心してる場合じゃねぇ!」
レンタロウが追い抜かれまいと必死に運転していると、背後を追ってくるパトカーがスピーカーでこちらに警告を呼びかけてきた。
「そこの暴走車両、直ちに止まりなさい」
声は助手席に乗っているオキナミのものだった。
「ここまで逃げて誰が大人しく待つかってんだ」
当然の如くレンタロウはアクセルを吹かせて逃げ続ける。
その後もオキナミは二度同じ警告を促し、最後には強硬手段を取る形になる事を伝えるが、全てを無視し続けて前方のバイクは一般車両を追い抜かして逃走を続けた。
「クソッ! 聞く耳持たずか!」
パトカー車内。オキナミは再三の忠告を黙殺されて腹が立ち、手に持っていたスピーカーマイクを乱暴に置き場に向かって投げつけた。
「応援はまだ来ないのか!」
苛立ちが募るオキナミを横目に、イチモンジは運転を続けていると、瞬間ピンと妙案が舞い込んできて、咄嗟にスピーカーマイクを手にした。
「おい君、何をする気だ?」
「まあまあ、どうせ相手は止まる気なんてさらさら無いんスから。せんない事だと思って貸してください」
「せんない事だと?」
訳が分からないままオキナミはスピーカーマイクを明け渡し、イチモンジはスイッチを入れた。