2 直家からのプレゼント
なんで様付け設定にしたのか昨日の僕に聞きたい
「は?先陣を承った?お主馬鹿なのか!?」
本陣に戻った俺にそう言ったのは忠家殿の子供の詮家だ。
俺より7つ上で兄のように思っているがこいつはあんまり俺の事が好きじゃないらしい。
とはいえこいつを懐柔しておかないと関ヶ原で大変な事になる。
いや……関ヶ原はそもそも起きないんだった……。
てか、江戸幕府の将軍の娘を強奪しようとしたお前にだけは言われたくないわ!
「いやぁ〜。上様に会えると聞いてあっさり明智様の策にハマってしまったわ。」
「まあ外様の我らからしたらここで手柄を上げて上様に気に入られるのならばそれで良いではありませぬか。」
そう言ったのは筆頭家老の富川道安だ。
こいつは物事を長い目で見ることが出来る。
「確かに毛利軍は全軍を合わせても我が軍の3分の1に過ぎませぬ。それに厄介な吉川元春と小早川隆景はここにはおらず穂井田元清は居城を囲まれて既に自害しておりますから大丈夫そうですな。」
全登が珍しく乗ってくれた。
こいつの上げた武将は皆毛利輝元の叔父で特に小早川隆景は羽柴様を罠に嵌めて散々に打ち破ったが明智様に居城を逐われて一旦、長門に兵を退いたらしい。それで罠に嵌めた時に羽柴様の軍を恐ろしい勢いで追撃したのが小早川の兄の吉川だ。まあこいつは出雲から出てこないだろう。
「殿、先陣はワシにお申し付けくだされ。」
家中一の武勇を持つ花房正幸が言う。
「いや、ワシが自ら先陣を務める!」
俺のその発言にみんな唖然とした。
あの岡ですら、「は?」って顔をしてやがる。
「何を仰るのだ!大将とは後方で指揮を取る物じゃ!」
忠家殿が言うとみんな騒ぎ始めた。
こう見えても現代では弓道と剣道してたしハワイで親父に銃の撃ち方も習ったんだけどね……。
「うるさい!土佐の長宗我部宮内少輔殿などは初陣で自ら突っ走って敵の首を上げ大大名になったではないか!ワシもやるぞ!」
「いやそれは……。」
前例を上げるとこいつらも黙り込んだ。
「では一体誰が軍の指揮を取るのだ……。」
忠家殿が頭を抱えて言う。
「そんなもの、ワシが取るに決まっているでしょう。兵達はワシに着いてくれば良いのです。」
「そこまでやりたいと仰られるならやればよろしかろう。されど危ないと感じたらすぐにお逃げになれば良い。」
忠家殿が渋々承知すると他の連中もGOサインを出した。
「それで八郎殿よ。こちらの軍議も良いが大将の軍議は行かなくて良いのか?」
「あ!」
俺は予定を思い出した。
急いで本陣に向かうとそこには明智様や羽柴様を始めとして錚々たる顔ぶれが居並んでいた。
中央に控えるのは信長様の甥で明智様の娘婿の津田信澄様と信長様の4男で羽柴様の養子の秀勝様。
名目上の大将はこの2人だ。
脇には明智様と羽柴様、その配下の細川藤孝殿や筒井順慶殿、黒田官兵衛殿らに加えて丹羽様と毛利水軍と戦う四国方面軍よりの援軍の十河存保らがいた。
「さあ、皆さん集まったようなので軍議を始めようと思います。なんと宇喜多殿が自ら先陣を務めて下さると仰られました。」
明智様がそう言うと諸将は“おおっ”て顔で期待の眼差しを向けてきた。
「お待ちくだされ!先陣はこの与一郎に任せると義父上は仰られたではありませぬか!」
そう言って立ち上がった強面の20歳くらいの男がいた。なんだコイツは……
「まあまあ婿殿。宇喜多殿は織田家に仕えて日も浅い。ここは控えられよ。」
光秀の娘婿は3人いる。
信澄様と従弟で家臣の明智秀満、そしてそこにいる細川殿の嫡男の細川忠興だ。
「控えよ、忠興!七兵衛様の御前であるぞ!」
隣にいた藤孝殿が注意した。
そりゃそうだ。
だがコイツに恨まれると後々ろくな事が無いのは歴史を調べていればすぐ分かる話だ。
「では与一郎殿は我が軍に参加されれば良いのでは?」
俺が提案した。
「おお、それは良い考えではないか。どうじゃ与一郎殿。」
丹羽様がそう言ってくれたが忠興の反応はイマイチだった。
まあ元は将軍家の重臣の家系でプライドの高い忠興が10も下の成り上がりもののガキの指揮下に入るわけ無いわな。
軍議の後、羽柴様がこっちに来た。
「先程のことはお気に召されるな。織田家の若い衆は言い方は悪いが貴殿のような降り者を良う思うてはおらぬ。」
「まあそうでしょうな。とはいえそれで挫ける八郎ではございませぬ。」
「流石は直家殿のご嫡子でござる。手柄を聞くのを楽しみにしておりますぞ。」
そう笑顔で言う羽柴様だったが目が笑っていなかった。
まあ明智様に出世レースで現状ぼろ負けしてるから当たり前か。
てかよく考えたけど2人とも様付けで呼んでるけど俺と立場は変わんなくね?
これからは殿付けで呼んでみようかな?
とりあえず明日攻撃すると明智殿から言われたので武器の用意を始めた。
やっぱ無双ゲーみたいに二刀流かな?
てか、宇喜多秀家とか明石全登って全然そういうゲームだと出てこないんだよなぁ。
そんな感じで色々考えてると忠家殿がやってきた。
「八郎殿。これは亡き兄上より預かりし物じゃ。」
忠家殿はそう言って木箱を持ってきてくれた。
なんだろう。そう思って箱を開けてみた。
「これは具足と刀?」
「左様。八郎殿は昔から身軽だった故、兄上は軽くて動きやすい具足と取り回しの良い刀を特注で作っておいてくださったのだ。八郎殿が初陣の時にお渡しせよとワシにお命じになられてな。」
「父上が……。」
親父の心遣いに感謝して俺は具足と刀を身につけてみた。
おお!確かに軽い。
下手したら剣道やってた頃に着てた防具より普通に軽いぞ……。
刀はかなり軽いみたいだが切れ味は良さそうだ。
マジで親父は俺の事よく見てくれたんだな……。
「兄上は八郎殿に期待しておられた。そのご期待に応えられるように今日は早う寝なされ。」
忠家殿はそう言うと一礼して陣を出て行った。
そういえばもうあたりも暗いし今日は寝るとするか。
明日が楽しみなようで不安なようで寝れるかな?