30 ヤバい展開
柴田軍は今にも崩壊しそうな勢いだった。
「勝政様お討死!先鋒部隊は壊滅致しました!」
「もはやこれまでか……。」
「殿、ここは突撃し華々しく最後を飾りましょうぞ!」
柴田勝敏が提案する。
「たわけが!わしらがここで崩れては三介様が危ないであろう!何としてもここを守れ!」
「されど突撃して秀吉めの首をとる方が!」
「お主はまだ若い!いまは突撃する時では無いわ!」
そういう勝家だがもはや望みは薄いと考えていた。
もうそろそろ東の成政も崩れる頃だろう。
そうすれば信雄本陣に一気に大軍が攻め込む。
そうすればこの戦は負けだ。
いくら秀政や長可が戦おうともはやこの戦は負けなのだ。
「上様……申し訳ありませぬ。」
勝家は空を見上げ亡き主君に謝ることしか出来なかった。
勝家軍を追い詰める秀吉だが素直に笑うことは出来なかった。
細川勢に続き筒井勢までも兵を引き始めたのだ。
「どいつもこいつも勝手な事を……。又左達はまだ突破できぬか……。」
秀吉は東の味方を思った。
「撃ちまくれ!何としても食い止めろ!」
成政は今までに出したことのないくらい大きな声で味方を鼓舞していた。
「右翼が突破されました!」
「敵軍の勢いは増すばかりです!」
ネガティブな報告ばかり流れてくる。
もはやこれまでか……?成政が諦めようとした時、急に敵の動きが衰えた。
「なんじゃ……?何事じゃ?」
その時、成政を攻める利家と宮部勢の背後を守る前野勢が一瞬にして敗走したのだ。
「我こそは織田四天王が1人!滝川左近将監一益!裏切り者どもよ!覚悟せよ!」
滝川軍2万が突如として戦場に現れたのだ。
滝川軍が誇る騎馬隊は前野長康を討ち取ると油断していた宮部勢もあっという間に叩きのめした。
「滝川だと!?ワシは聞いておらぬぞ!」
利家は突然の敵襲に慌てふためいた。
そしてそれを見逃す成政では無い。
「油断していたな、犬千代!死ねい!」
成政はかつての親友に一撃を浴びせた。
利家の首は吹き飛び胴体から血が飛び出す。
瞬く間に南宮山方面の羽柴軍2万が消滅した。
「よし!このまま権六を助けるぞ!進めい!」
佐々軍を併合し信雄軍と合流した滝川軍は本戦が行われている西部まで急いだ。
「何!?滝川じゃと!?」
まさかの敵襲に秀吉は飲んでいた茶碗を叩き割った。
「おのれ!このままでは負ける!撤退じゃ!撤退せよ!」
「よろしいのですか?」
三成が聞く。
「構わぬ!兵を温存し再度攻め込むまでよ!」
秀吉軍が引き始めると黒田、秀長勢も兵を引き始めた。
残された尾藤、戸田隊は蒲生、堀両勢に飲み込まれ2人とも討ち取られた。
織田軍の勝利である。
その日の夜、信雄は諸侯を集めた。
「皆の者、ようやってくれた!このまま一気に安土を取り返すぞ!」
そう言う信雄だが佐久間盛政、金森長近は死に堀秀政は右腕を失い柴田、佐々軍はまともな戦力にならず滝川軍は強行軍で疲れていた。
つまりまともに戦えるのは銃撃戦だけしていた森長可と丹羽長秀程度である。
皆どんよりしていた。
「ううーむ。ここは西国勢に任せるか……。」
それを察した信雄が聞く。
「いえ、我々はまだ戦えます!」
長可が言う。
「ワシもまだ戦えます。ここは勝蔵とワシで攻めましょう。」
そう長秀が言うと信雄は有り難そうに
「うむ。ではお主らに任せよう。」
そう言って2人の率いる1万を近江に向かわせた。
「では我らは北条のことがあるのでこれにて。」
一益はそう言うとさっさと戻って行った。
この時点で誰も深く考えなかったがもし読者の方で疑問に思われた方がいたらそれはそういう事だ。
関ヶ原で織田軍勝利の報告は翌日には伊丹城に入った信家の元にも報告された。
おいおい、これがこの世界での関ヶ原かよ……。
正直期待していた形とは違うが何とか関ヶ原に勝つことには出来た。
俺は摂津方面を詮家と池田勢に任せ京に上洛し本能寺へと向かった。
焼け焦げた本能寺をみて俺は自然と涙が出てきた。
秀吉の謀反を察知できていたらと思うと悔しくて仕方がない。
「殿、泣いてるお暇はありませぬぞ。羽柴軍が戻って参ります。」
全登が言う。
「うむ。瀬田に鉄砲隊を並べておけ。秀吉を討ち取るぞ。」
そう言うと俺は瀬田に2万の兵を率いて向かった。
その頃、もう1人軍備を整えている男がいた。
「殿、全軍出陣準備完了致しました。」
「よし、忠次と元忠は信濃へ向かえ。我らは尾張へ向かう。」
「御意!」
家臣たちが頷く。
それを見て立ち上がった男は徳川家康。
彼は織田家を攻めることを決めたのだ。
「皆の者、信康の仇討ちじゃ!進めい!」
ついに日和見だった徳川軍が動き出した。




