29 犬は犬でした……。
「申し上げます!佐久間玄蕃尉殿、討死!」
盛政の死は未だ悩む利家の元にも知らされた。
「うーむ、玄蕃が死んだとなると藤吉郎の方が有利か……。全軍金森勢を叩くぞ!」
ついに利家は決断した。
「南宮山の宮部殿にも伝えよ!このまま一気に信雄めの本陣まで進む!」
前田勢六千、南宮山の羽柴軍一万五千が一気に金森勢に襲いかかった。
「犬め……。そこまで愚かとは思わなんだわ……。」
金森勢を飲み込まんとする利家の軍勢を見て成政は呆れていた。
「全軍迎撃準備、それから三介様に前進するように伝えよ。何としても受け止めるぞ!」
成政は死を覚悟した。
佐久間盛政を討ち取り勢いに乗る黒田勢だったが盛政の猛攻に被害は甚大であり勝家の送り込んだ軍勢を前にあっさりと崩壊した。
「親父殿め……往生際が悪いな。」
崩される味方を見ながら秀吉が言う。
(小六が居ってくれたら鬼柴田を抑えられたやろうに……。清正や正則が居ればよう戦ったやろうな……。)
秀吉は亡き家臣たちのことを思い浮かべた。
もし彼らがいればもっと戦いもスムーズに進んだはずだった。
「申し上げます!前田勢、我が方に寝返りました!」
「又左、ようやったわ!全軍畳み掛けよ!このまま信雄を始末するぞ!」
先程まで落ち込んでいた秀吉だったが吉報を聞き元気になった。
それを機に押されていた羽柴軍の諸隊も盛りかえす。
激しい銃撃戦を藤堂高虎と繰り広げる森長可は明らかに流れが変わっているのを察知していた。
「弾薬が少なくなってきております。突撃致しますか?」
各務が長可に聞く。
「いや、勢いづいている敵に襲いかかれば玄蕃の二の舞じゃ。今はまだ耐えよ。」
「殿……」
各務は長可が明らかに落ち込んでいるのが分かった。
最大の好敵手を失った長可はまるで抜け殻のようだ。
「落ち込んでいるようだな。」
そう言ってやって来たのは丹羽長秀だ。
「五郎左殿!何故ここに?」
「筒井が動かんのでな。見たところ弾薬が残り少ないのでは?」
「なんでもお見通しですな。仰る通りです。」
「だからあれほど鉄砲隊をもっと増やせと申したであろう。それではあの世でお父上が泣いておられるぞ。」
長可の父の森可成は文武に優れ信長の信頼も厚かった名将である。
長秀も若い頃彼に世話になっていた。
「面目次第もありませぬ。この勝蔵が安直でございました。」
「分かれば良い。連中は犬が裏切って勢いづいている。しかしこれを耐えれば我らの勝利ぞ。」
長秀は長可を激励した。
紀伊の雑賀衆を率いる丹羽勢が合流した事で戦況は一気に森勢寄りになった。
「むっ。3段撃ちか。下手に手を出さぬほうが良いな。」
敵を見た高虎は一旦攻撃を抑えることにした。
同じ頃、南宮山の麓で戦う堀秀政を狙う男がいた。
稲富佑直である。
「見つけたぞ、名人久太郎。待機せよ。」
稲富は他の狙撃手に手で合図する。
「待機せよ、待機せよ。よし!今だ!」
稲富が命じると隠れていた狙撃部隊が一斉に引き金を引いた。
大半は外れたが稲富のはなった1発が秀政の右腕を吹き飛ばした。
「ぐぁぁぁぁぁぁっ!」
秀政が半分喪失した右腕を抑えながら崩れ落ちる。
「兄上!兄上を守れ!」
すぐに弟の多賀秀種が秀政の元に駆け寄り兵達が防衛体制をとったため稲富達はすぐに撤退した。
「やってくれたな与一郎……。」
秀政は家臣たちに止血処置をされながら吹き飛ばされた右腕を眺めた。
「兄上、休まれた方が……。」
「いや、この腕を皆に見せよ!卑劣な細川勢に目にものを見せてくれるわ!」
逆に秀政は自分の右腕を槍に刺して突き上げ兵達を鼓舞した。
卑怯な手を使った細川勢にブチ切れた堀勢は先よりもより一層攻撃を深めた。
「何故仕留めきれておらんのだ!数の差で何とかしろ!」
忠興は焦り始めた。
こんなことなら最初から秀吉に味方せず筒井と共に織田に従えばよかった、全ては秀吉のせいだ。
「全軍逃げるぞ!もはやここに用はないわ!」
何を血迷ったか忠興は撤退を始めそれを見た秀政は蒲生の援軍に向かった。
もはや戦場はカオスである。
しかし佐久間勢を粉砕した黒田勢が柴田軍の側面を攻撃し始め柴田軍に綻びが見え始めた。
「猿め……ようワシの戦いを調べておるわ……。」
柴田勝家は静かに笑った。
その頃洲本城は四国勢が制圧していた。
「あっという間でしたな。」
半分燃えた城を眺めて信親が言う。
「2万の軍で攻めたからな。大将の仙石はさっさと逃げたそうじゃ。」
信孝が答える。
「器の小さい男でしたな。このまま本土に攻め込みますか?」
「うむ。目指すは和泉じゃな。」
信孝がいうと信親も強く頷いた。




