1 八郎の初陣
今週の白石麻衣の卒業コンサートのセトリがイマイチだったので頑張ります
天正11年6月 安芸国吉田郡山城外
「毛利もさっさと降伏しておればこのようなことにならなかったのにな。」
俺は思った。
にしても甲冑というのは重いものだ。
こんなものをつけて良く戦えるな。
俺、宇喜多八郎にとっても淡路雪翔にとっても戦争に出るのは初めてだ。
13歳なのでこの時代では普通だが俺の主君の信長様は14だからそれよりは早い。
「殿、あまり前に出過ぎては危険ですぞ。」
家臣の明石全登が注意してきた。
大坂五人衆でもパッとしないが俺は結構好きな武将だったが家臣となるとめんどくさい。
頼りにはなるが小言が多すぎる。
「ああ、分かってるよ。初陣というのにつまらぬ戦よ。」
「何を申されます。この戦は右府(信長)様と毛利との最終決戦ですぞ。この大軍を見れば戦の重要性も分かるでしょう。」
確かに数々の戦で兵を失った毛利がこの城の防衛に動員できた兵は五、六千程度だ。
周防と長門の兵は大友対策で動かせないしまあ妥当だろう。
それに対して信長様は明智(惟任)日向守様を大将にして明智殿の配下の軍と俺の直属の上司の羽柴筑前守(秀吉)様に加えて四国の三好信孝様や直属の丹羽(惟住)越前守様まで送り込んでいる。
まあそれだけ力を抜けない戦って事だろう。
「八郎殿、そなたは大将なのじゃ。後ろで座っておれば良い。」
兵を掻き分けて叔父の忠家殿がやって来た。
優しいけど心配性で今回の初陣を認める時も渋々だった。
「しかし大将が前に出れば兵の士気も上がりまする。それにあの大毛利を滅ぼす戦に参加できるのですぞ。興奮が収まりませぬ。」
そりゃ13歳なら中学一年生だ。好奇心旺盛な時期だろう。
だがそれ以上に歴史オタクで石田三成や島左近などの西軍ファンの俺に取って毛利ほど憎いものは無い。
吉川も小早川も消し去ってしまえばもし関ヶ原が起きても大丈夫だろう。
まあこのまま信長が天下を統一して俺は備前の大名となるんだろうけど……。
「全く……兄上に似て困ったお方だ。」
忠家殿は頭を抱えて戻って行った。
忠家殿の兄上、つまり俺の親父(仮)の宇喜多直家は謀略を駆使して大名になった男だ。
もし俺が大名だったら、最も戦いたくない相手だ。
「いっその事、八郎様も暗殺などしてみれば?」
そう笑いながら岡家利が言った。
こいつはうちの軍事面の指導者で冗談やノリの分かるいいおっさんだ。
「岡殿、そのようなことを言うと殿がまた調子に乗られまする!」
全登が焦って言う。
「まあまあ、お堅い事は言うなよ。ワシだって毛利を討てる事に胸の高まりが止まらぬわ。」
「そうだ!岡の言う通りだ!お前だってテン……いや興奮してるだろ!」
おっと、危ない、こいつらは俺が転生してるってことは知らない。
「まあ……確かに気分は良いですが……。」
「ほら言わんこっちゃない。もうそういう事は言うでないぞ!」
俺は仁王立ちして言った。
「やっぱ殿は直家様と違って実直ですな。暗殺などやめてくださいよ?」
「左様な事を披露する機会はもうないだろうな。」
いや俺もやってみたいけどね。
すると高級そうな甲冑を身につけた一団がこっちに来た。
「ここにいらっしゃいましたか、某は明智日向守光秀でござる。此度は一万五千もの兵を率い参陣して頂き誠に恐悦至極にござる。」
そう言って明智様は頭を下げてきた。
おいおい、この軍の大将だぞ。
「そのような事!どうぞ頭をお上げくださいませ。」
俺は急いで頭を下げた。
「いやいや、宇喜多殿のお力添えがあるからこそここまで毛利を追い詰めることが出来たのです。」
この人は昔、将軍家に仕えていたこともあって礼儀正しい。かと言って変なプライドもなく感謝するところは丁寧に感謝できる人だ。
「その様にお褒めくださるとは有り難き幸せにございます。」
「流石は宇喜多家のご当主。礼儀正しゅうございますな。此度の戦の結果によっては上様が、直々に褒美をお与え下さるやもしれぬゆえ、気張りなされ。」
えっ?マジ?信長様から褒美貰えるの?俺会ったことないんだけど……。
信長に会えると聞いてテンションが上がった。
「それでは明智様、もしも攻城戦になるならばこの八郎、若輩者なれど先陣を仕りとうございます。」
「おお、その言葉を待っておりましたぞ!中国一の宇喜多家の武勇。この目で見るのが楽しみでござる。」
明智様はニヤリと笑うと俺の手を握ってそう言った。
しまった……、ハメられた。褒め殺しにして信長様というエサを使って俺を先陣にしたのか。
してやられたと思いながらも俺は本陣へ戻る明智様を見送った。
さあ、先陣を引き受けてしまったけどどうするか……。
とりあえず全登に聞いてみることにした。