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25 16年早い関ヶ原

美濃の岐阜城に入った堀秀政と蒲生氏郷は暇そうにしていた。


「羽柴軍来ませんね。」


氏郷が言う。


「そうだな。」


秀政もため息をついて言う。


せっかくカッコつけて手柄を上げようとした秀政と氏郷だったが岐阜城には羽柴軍など欠片も見当たらずいつもと同じ感じだった。


「何故、大垣城に籠っている?意味がわからぬ。」


「久太郎殿、よもや秀吉は我らに恐れを……。」


「有り得ないな。秀吉は極度の自信家。何か考えがあるに違いない……。」


しかし秀政にはなぜ秀吉が動かないかさっぱりだった。

秀吉は兵力で劣るため素早く城を落とし味方を増やしたいはずである。

なぜ動かないのか……。

秀政は必死に考えた。


「決戦で勝つ気でしょうか?」


氏郷が聞く。


「馬鹿を言うな。秀吉はかき集めても5万。こちらは7万だぞ?」


「しかしそうとしか考えられませぬ。」


2人が頭を悩ませていると使者がやって来た。


「申し上げます!柴田様の軍勢が美濃に入られたとの事。三介様も2万の兵を率いて清須を立たれました!」


「いよいよ決戦か……。」


2人は歯をかみ締めた。



「遂に動き出したか……。」


大垣城の本丸でくつろぐ秀吉にもその情報は入ってきた。


「敵の数合わせて7万程。手筈通りに進めますか?」


三成が聞く。


「うむ。これで良いな、官兵衛?」


秀吉は脇に控える官兵衛に聞いた。


「ええ、少なくとも丹羽長秀ならそうするでしょう。」


三成は何故丹羽長秀が出てくるのか分からなかった。


「何故丹羽長秀が?」


「織田軍で参謀格は奴だ。お主は7万の兵で5万の兵が籠る城を落とせると思うか?」


官兵衛が地図を取り出しながら尋ねた。


「いえ……、私なら敵をおびき出します。」


「そうであろう。ではお主が城に篭る立場なら自分の本領に敵が出てくるとなれば出陣するじゃろ?」


「ええ、仰る通りです。」


「ならもう分かるな?地図を見てみよ。この大垣の西側には山と街道に囲まれた関ヶ原という場所がある。ここで3方より敵を包囲し叩き潰すのじゃ。」


「なるほど……。つまり関ヶ原が決戦の地ですか?」


三成は官兵衛の策に目を輝かせていた。


「左様!1日もすれば織田軍は消え失せるわ!」


秀吉は自信満々に言うが1つ問題があった。

先駆けが居ないのだ。

仙石秀久は淡路にいて動けず加藤清正と福島正則は既に世を去っている。


「殿!先陣は某めに申し付けくださいませ!」


そう悩む秀吉の元に十代半ばの男が入ってきた。


「これ長政!まずは挨拶せよ!」


官兵衛が注意すると長政と呼ばれるる若者は膝まづいた。


「これはとんだ御無礼を!某は黒田官兵衛が子、黒田吉兵衛長政でございます!」


三成はこういうタイプが苦手だったが秀吉は元気な感じは好きだ。


「おお、官兵衛の子か!やってみるか!?」


官兵衛はえっ?って顔をしてたが長政はめちゃくちゃ笑顔になった。


「ははっ!お任せくだされ!兄者(清正と正則)や小六様の仇をとってみせます!」


「羽柴殿!ワシにも先陣をお申し付けくだされ!」


そう言って割って入ってきたのは細川忠興だ。


「細川殿、貴殿は藤孝殿の名代で細川の大将じゃ。大将は大将らしく振る舞わねばならぬ。」


秀吉がそう言うのを聞いて官兵衛はうちの息子はなんなんだよと思ったが確かに忠興は単純だ。


「何故でござる!所詮細川はよそ者扱いか!?」


忠興はものすごい剣幕で秀吉に迫る。


「そうではない!今後羽柴の最大の同盟者になるであろう者を死なす訳にはいかぬと言うておるのじゃ!」


秀吉も怒鳴り返した。


「細川殿、我が殿は貴殿に大層期待しておられます。その期待を裏切り一兵卒のように敵陣に斬り込まれるおつもりか?」


官兵衛がするどい眼光で睨みつけると忠興も仕方なく引き下がった。


「めんどくさい男じゃのう。」


忠興が出ていったあと秀吉は面倒くさそうに湯を飲んだ。


「あれは若いだけでしょう。いずれは分別のつく将になるはずです。」


「しかし官兵衛よ。細川と言い筒井と言い連中はすぐ裏切るぞ。」


「裏切ったところで織田に許されるはずがありませぬ。まあそのようなことにはなりませんが。」


「じゃあそろそろ軍議を始めるか。」


秀吉は三成に命じて諸将を集め布陣と作戦を説明した。


「筑前殿、よろしいか?」


一通り説明が終わると大和の筒井順慶が手を挙げた。


「ん?どうなされた。」


「当家の家臣に島左近というのがおります。その男が夜襲をかけたいと申しております。」


「なるほど、良き案でござる。特に柴田軍は先の北条との戦や長旅で疲れておるはず。ここは夜襲を仕掛けてみては?」


官兵衛もそれに乗り秀吉に聞く。


「よかろう!ただしワシの家臣も付ける。佐吉、行ってまいれ。」


諸将が一斉に三成の方を見る。


「私ですか?」


三成は驚いているようだ。


「そうじゃ!島左近は武名高き男。傍にて戦を学んで参れ!」


秀吉の親心みたいなものだろう。

三成はこれを純粋に喜んだ。


「ははっ!お任せくだされ!」


こうして羽柴軍は関ヶ原に着陣した織田軍に夜襲をかけることになった。


そして三日後には織田軍は岐阜城を出て大垣城の近くに通りかかった。


「羽柴軍は城に篭っておる!すぐに叩き潰すべし!」

「そうじゃ!臆病者の猿を斬り捨ててくれる!」


森長可と佐久間盛政は城攻めを主張した。


「いや、敵は5万と聞く。ここはこのまま畿内に向かい秀吉を誘き出すべし!」


逆に前田利家は野戦を主張した。


「親父殿はどう思われます?」


またヘラヘラしながら成政が聞く。


「待ち受けて叩くべし。」


勝家は利家の意見に同意しているようだ。


「ワシも同じ意見じゃ。三介様は如何ですかな?」


「ん。ワシは権六と五郎左が言うならそれを信じよう。」


信雄が言うので盛政も長可も大人しくなり織田軍は移動した。


松尾山に信雄の本軍一万、その前方に北から柴田勝家の一万五千、柴田勝豊の六千、佐久間盛政の三千、森長可の六千、丹羽長秀の四千、蒲生氏郷の二千、堀秀政の三千と並び後方には金森長近の五千、前田利家の六千と佐々成政の七千が置かれた。


対する秀吉軍は笹尾山に秀吉の兵一万、そこから南に黒田官兵衛の二千、加藤光泰の三千、秀長の一万、筒井順慶の一万、尾藤知宣の二千、戸田勝隆の二千、そして松尾山に細川忠興の六千が布陣し信雄本陣より南の南宮山には宮部継潤の六千と前野長康の五千が布陣した。


数では織田軍、布陣では羽柴軍が優勢となった中央の覇権を握る戦いが今始まろうとしていた。

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