25 土佐騒乱
中村御所はド田舎の土佐の中では見違えるくらいの大都会だ。
かつてここを収めていた一条家は畿内より下向してきた公家なのだからそれに相応しい華やかな場所だ。
「いやぁ堺などほどではありませぬが良き場所ですな。」
行長もこれには感動してる。
そういえば最後の当主の一条兼定はキリシタンだったけど行長はまだキリシタンになってなかったっけ?
「おお、わざわざ備前殿が足をお運び申し訳ない。」
城の城門にてこの城の城主で長宗我部の武断派の筆頭格の吉良親実が出迎えてくれた。
「お初にお目にかかります、宇喜多備前守でござる。岡豊とは違いここは明るいですな。」
そう言うと親実の顔色が変わった。
ああ、地雷踏んだかな?
「久武の仕業でござる……。あの男、岡豊の周辺にて叔父上の死を哀れなものと言いふらし……。」
やっぱりあいつの策略か。
でもなんで?
「しかし久武がそれをして何か得があるのですか?」
「奴は弥三郎様を操り家中を掌握するつもりでしょう。既に家老の江村親俊や桑名親光などが奴の讒言により叔父上の後を追い……。」
なんだよ史実と変わんねえじゃん。
「確か如三殿には弟の安芸守殿がいらっしゃったはず。何故何も言われぬのです?」
「香宗我部の叔父上は誠に気を病んでおられます。ワシの父を始め兄弟をみな失われなのですから。」
ああ、それは辛いだろうな。
しかし久武を何とかしないと瀬戸内の制海権は羽柴に握られたままだ。
「では親実殿が対抗するしか?」
「厳しいですな。ワシの元に集まるのはせいぜい土佐の西の者のみ。中央の家臣はほとんど久武が掌握しております。」
「じゃあ他に対抗出来うるのは?」
「本山城の本山将監でしょう。我らの従兄で弥三郎様の信頼も厚く家中にも信用しているものは多くおります。」
ああ、元親の元ライバルか。
昔読んだ漫画だと朝倉の戦いで無双してたっけ?
「なら直ぐに本山殿にお会いしたい。親実殿も共に来てくだされ。」
「ええ、勿論です。ワシが案内しましょう。」
まさか土佐にこんなに滞在するとはな、と思いながら俺は土佐北部の本山城に到着した。
「中村に比べれると静かですな。」
本山城は中村御所に比べると質素だし賑わいはない。
岡豊城のように暗いムードだ。
「中村に比べれば岡豊に近いからでしょう。もしかすると既に久武が……。」
「いや、そのようなことはない。」
そう言って中年の男が入ってきた。
落ち着いた雰囲気で元親にどことなく似ているが威圧感も少なからずある。
「本山城主、本山将監親茂でござる。貴殿は宇喜多備前守殿ですな。わざわざ御足労いただきかたじけない。」
めっちゃ姿勢いいな。
俺も挨拶する。
「それで宇喜多殿は一体何用でこのような場所に?」
「ああ、ワシから説明する。近頃、弥三郎様は久武のせいで家中の統制がままならず宇喜多殿が淡路への出兵を要請しても軍を出せる状態では無いのじゃ。それで兄者に何とかしてもらおうと。」
「香宗我部の叔父上が病んだ今、一門の筆頭はお前であろう、親実。なぜワシを頼る?」
え?怒ってる?
なんか目付き怖いんですけど。
「西の連中だけでは久武に勝てぬ。それで兄者が北と阿波の連中を……。」
「仕方あるまい。準備するゆえ少し待たれよ。」
ああ、良かった。
胸をなで下ろした俺たちが城の外に出るとそこには完全に武装した二千くらいの兵が並んでいた。
「本山殿!これはどういうことか?」
謀反じゃねえだろなと思って俺が聞く。
「殿にお会いするのです。それに備前殿にお怪我などされても困りますので。」
ああ、警護の兵なのね。にしても多くね!?
それから岡豊についた時、俺はヘトヘトだった。
ここ数日で四国中を回って行長もしんどそうだ。
先頭の親茂に俺は汗を流しながらついて行く。
「親茂様……この軍勢はなんですか?」
怪訝そうな顔でウザイ芸能人みたいな顔した男が聞いてきた。
「久武……貴様やってくれたな。」
親茂は鋭い眼差しで久武を睨みつけると合図した。
すると甲冑姿の兵が久武の両腕をつかみ紐で拘束した。
「なんのつもりだ!本山親茂乱心!本山親茂乱心!」
「黙れ!」
単純にイラついたのか親実が久武の頭を殴って黙らせた。
いや強すぎだろ……
「親茂!どういうつもりだ!」
怒った顔の信親殿がやってきた。
俺も何が起きてるか分からん。
「弥三郎。ワシはここを離れる時そなたに1人でも大丈夫かと聞いたな?」
「ああ、聞いた!それがなんだ!」
「それが家臣1人の内通も見抜けないとは叔父上が泣くぞ……。」
そう言って親茂は紙を信親に投げ渡した。
「なんだこれは……ッ!」
紙を見た信親は驚いている。
やっぱり謀反なのか?
「もし長宗我部軍が動けないようにしたら阿波を与えるだと……!」(現代語訳)
「その使者はもちろん斬り捨てた。しかしその前にワシ以外に声をかけたものがおるか?と聞いた。すると久武の名が出たのじゃ。」
うわ、羽柴の調略かよ。
ますます秀吉の手回しの良さにイライラする。
「おのれ……。久武ェ!」
信親は顔を真っ赤にして久武を蹴り飛ばした。
「こいつの顔を見たくない!早う斬り捨てよ!」
信親に殴られ気絶したまま久武は連れて行かれた。
「備前殿、お恥ずかしい所を見せてしまい申し訳ない。次なる戦では必ずや長宗我部も兵を出そう。」
「よろしくお願い致しますぞ。兄上。」
こうして信親と約束した俺はやっとの事で備前に帰った。
多分領国のことみんなに丸投げしてたから怒られるだろうな。
そして案の定、岡山城にて俺を出迎えた全登はカンカンに怒っていた。
「殿!一旦休戦したとはいえ当主がフラフラと四国で旅をしているとはどういうことですか!?」
いや、長宗我部の事は想定外だったんだよ。
「いや〜、まあ長宗我部の反乱分子を潰してきたし。」
「それは殿のおやりになる事ではございませぬ!野盗に襲われでもしたら……。」
おっ、心配してくれるんだなと感心したけど当たり前だったわ。
「とりあえず、戦が終わるまでは他の方に会いに行くのは禁止です!」
「えぇ、そんなぁ……。明智のところにも行かなきゃならんのに。」
「それは行長に行かせれば良いでしょう!あなたは外出禁止です!」
こうして村上水軍を味方につけ長宗我部家の反乱分子を潰すのに協力し褒められるはずの俺は外出禁止になった。




