22 旅に行こう
信長の死から半年が経ち天正12年になった。
未だに織田領は分断されたままで大垣城を包囲する秀吉軍は続々と増えつつあった。
そんな中で信濃のとある寺で織田と北条の講和の議が開かれることになった。
「それでは北条は信濃より兵を引くと?甲斐はどうするつもりじゃ?」
信長の弟の有楽斎が聞いた。
「はぁ。甲斐は頂きたく……。」
一気に老け込んだ氏照が答える。
川中島の戦い以降この男からは覇気という物が一切感じ取られない。
「お主らは戦で負けたのだぞ?今更そのような事を言われてもな。」
有楽斎は高圧的に言う。
「お言葉ですが、今の織田様も北条との全面戦争となると羽柴の動きが気になるのでは?」
脇にいた江雪斎が聞く。
「仰る通りでござる。北条殿の小田原城はかの武田信玄や上杉謙信ですら落とせなかった名城。今の我が軍では厳しいでしょうな。」
「五郎左!何を言う!」
長秀の発言に有楽斎が声を上げる。
「ともかく、甲斐の領有は認められぬ。もし断るなら信濃の軍勢が攻め込むぞ。」
「それであれば武田を復活させて甲斐を治めさせるのは如何でしょう?」
江雪斎が提案する。
「武田じゃと!?」
有楽斎も氏照もその提案におどろいた。
「ああ、それはよろしいですな。当家には武田一門の穴山信君がおりますればその子に武田を継がせましょう。」
「いや待て!それでは亡き兄上に……。」
有楽斎が止めようとする。
「恐れながら有楽斎様、ここは北条との間に緩衝地帯を作る方がよろしいですぞ。裏切り者の筑前を討つのが第一かと。」
長秀がそう言うと有楽斎も折れた。
「うーむ……、仕方あるまい。穴山にすぐ伝えよ。しかしながら武田の家臣を与えることは出来ぬ。」
「なら我ら北条と織田様よりそれぞれ家老をつけるのは如何でしょう?」
「それは良いな、有楽斎殿はどう思われる?」
江雪斎の提案を受けいれた氏照が聞く。
「くっ……。仕方あるまいな。そうしよう。」
こうして信濃は森長可が治め甲斐には穴山信君の子を武田信氏と改めさせ家老に織田家の土方雄久と北条家の北条康種が付けられた。
ひとまず中部地方の問題は解決した。
清洲城に戻った有楽斎のその報告を聞いた信雄は終始笑っていた。
「よしよし……!良いぞ、このまま権六と共に大垣城を包囲する羽柴を叩くぞ!」
「三介様、一大事にございます!大垣城が開城したとの事にございます。」
信雄の元に堀秀政が駆け込んできた。
「何!?一鉄は負けたのか?」
「それがどうやら秀勝様が人質に取られているようで……。」
「秀勝じゃと!?あやつ名を聞かぬと思っていたら人質に取られておったのか!情けないのう!」
この時秀政は昔伊賀の農民にボロ負けしたお前が言うかと内心苦笑したがそんなことは今関係ない。
「柴田殿が来られるまであと10日程かかります。それまで私と忠三郎(蒲生氏郷)が岐阜城に入り暫しの間時を稼ぎまする。その間に西国の三七様と共に羽柴領に攻め込んでくださりませ。」
「うむ、わかった。生きて会おう。」
「ははっ!」
秀政は一世一代の大勝負に出た。
正直不安だったが自分と氏郷のような若手がここで犠牲になってでも譜代衆を守るべきと考えたのだ。
その頃、織田家の新世代を担うとか噂されていた信家は不貞腐れていた。
「殿……いい加減気を直された方が……。」
全登が機嫌を伺う。
「黙れ!あの小娘めワシをコケにしおって!」
俺は江にめちゃくちゃ腹が立っていた。
あのクソガキと来たら俺が川で泳いでたら下郎を見る目で見下して鼻で笑いやがった。
「聞くところによると若は全く姫様と寝ておらぬそうですなぁ。不仲なのですかな?」
岡がニヤニヤしながら聞いてくる。
なんだ冷やかしかよ!
「しかしお世継ぎが生まれなければ御家の一大事でございますからな。」
宗茂も笑いながら言う。
いやまだ俺、今年で13なんですけど!?
こいつらマジで頭おかしいだろ……。
「流石は立花殿、良くぞ申された!1度くらい夜を共にしてみられれば?」
全登が続けてくる。
いやそれどころじゃねえから……。
「いい加減にしろ!あのガキにもイライラしてるが誠に俺がイライラしているのは津田と明智じゃ!あやつらなぜ兵を寄越さぬ!」
「まあ九州で大敗しまともに兵を出せる状態では無いのでしょう。仕方ありませぬな。」
親次が冷静に言う。
いやお前の仲間も殺されただろ!
「もし龍造寺が大軍を率いてくると考えたら恐怖でしょうな。我が軍は姫路での敗北からどうも士気が低く……。」
富川が続ける。
「はぁ……。つまり九州の連中が上陸できないようにすれば良いのだな?」
「まあそういうことでございますな。」
みんな声を揃えて言う。
なら俺にも策がある。
「行長、至急船を用意致せ。能島へ参るぞ。」
「は?」
みんなキョトンとしている。
「能島と言うとよもや村上水軍の元では無いでしょうな?」
行長が恐る恐る聞く。
「ご名答!連中に関門海峡を守らせるぞ。」
「お待ちくだされ!村上水軍はかつて毛利に仕え織田家は因縁の相手。手を貸すとは……。」
富川が止めようとする。
「いやさぁ。俺ら宇喜多だし?」
その一言でみんな黙った。
「よし、宗茂と親次は付いてこい。もし羽柴が攻めてきたら富川と全登が指揮を取れ!」
そう言って俺は旅の準備を始めた。




