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20 盛政と長可

19話の展開について違和感を感じた方申し訳ありません。

今後このような事にならないように気をつけます。

柴田軍の本陣はピリピリとしていた。

絶対に負けられない戦いだからである。

この戦いで負ければ織田家は信濃での主導権を完全に失う。

それだけは何としても避けなければならない。


「敵の数は。」


しばらくの沈黙の後、勝家が口を開いた。


「およそ四万。我らより少し少ないですな。」


前田利家が報告する。


「先陣は俺に任せてくだされ。必ずや北条軍を叩きのめしてみせましょう。」


そう言って手を挙げたのはここら辺を支配する鬼武蔵の異名を持つ森長可だ。


「いや!ワシにお任せくだされ!」


少し遅れてそう言ったのは佐久間盛政。

勝家の甥で鬼玄蕃と呼ばれている。

この時点で鬼の異名がつく男が二人いるが勝家も鬼柴田なので三人である。


2人は織田家の若手のエリートとして期待されているがライバル関係にあり仲が良いかと言われれば微妙だ。


「しゃしゃり出てくんな玄蕃!ここは俺の所領だ!」


もちろん長可はキレた。


「何を言う!柴田軍の先陣はいつもワシじゃ!ならワシが先陣に決まっておろう!」


「あぁ……始まった……。」


利家は頭を抱え佐々成政はケラケラと笑っている。

ピリピリしたムードは無くなったのでそれは良かったかもしれないが味方同士で揉めるのは戦場ではNGだ。


「そもそもお前は柴田軍では無いだろうが!客将は客将らしく大人しくしてろ!」


「黙りやがれ!お前は与力だが俺は大名だぞ?ここは目上の人間に譲るべきだろうが!」


この一言は長可より歳下だが未だに勝家の与力の利家の心に深く突き刺さった。

対する成政はずっと笑っている。


「何がおかしい、成政。」


「いやいや、犬千代よ。昔の俺たちを見ているみたいで面白くして仕方がない。いつぞやの戦でワシが先陣を切り上様に褒められてお前が悔しがった顔といえば……。はっはっはっ!」


「黙れ成政。過去のことを掘り返すな!」


「なんだ?恥ずかしいのか?それでは一国の主にはなれんなぁ。」


「ええぃ!この青二才が!」


利家は立ち上がってキレた。


「またこれじゃ。一喝した方が良いぞ。」


それを黙って見ていた金森長近が勝家に言う。


「いま先陣をどちらにやらせるか考えておる。」


「何を迷うておる。今回は勝蔵殿に譲るべきじゃ。玄蕃と違い大名なのじゃぞ?」


「やはりそうすべきじゃな。先陣は勝蔵に任せる!」


勝家がそう言うと長可はめちゃくちゃドヤ顔で盛政を見た。


「残念であったな、玄蕃。早速準備に取り掛かってまいります。」


長可は勝家に一礼するとルンルンで外に出ていった。


「叔父上!何故ワシではなくあの馬鹿なのですか!?」


「落ち着け玄蕃。ここは奴の領地じゃ。顔を立ててやれ。」


「しかし!」


「これは柴田軍としての戦ではなく織田軍としての戦と心得よ!良いな!?」


勝家は諦めの悪い盛政を怒鳴りつけた。

その後、鉄拳を利家と成政に喰らわせた。


「お主らも四十を超えておるのだから童のような争いはやめよ。明日には仕掛けるぞ。」


勝家はそう言うと本陣を出ていった。


「納得できん!なぜワシが先陣では無いのじゃ!」


「先陣では無くてもお主が勝蔵より手柄を挙げれば良いでは無いか。なぜその発想に至らぬ?」


ごねる盛政に成政が言う。

成政という男は別に相手を怒らせるつもりは無いのだがいつも一言多い。

だから単純なタイプの利家と仲が悪いのだが……。


「ワシが単純でございました……。お恥ずかしいところをお見せして申し訳ない。」


ただ盛政は幼い頃から成政に憧れており素直に言うことを聞いた。

2人も陣を出ていき中には1人イライラしている利家だけが残された。


そして川の近くに布陣した長可は恐ろしいものを見た。



「おいおい……よりにもよって地黄八幡かよ……。」


対岸の北条軍を見た長可は唖然としていた。


朽葉色に染まり堂々と八幡と書かれた旗印、あれは正しく北条軍最強の北条綱成の率いる部隊である。


「隠居したって聞いてたがどういうことだ?」


長可は小刻みに震えながら家臣の各務元政に聞いた。


「御家の重要な戦なので出てきたのでしょうか。」


「まあ仕方が無い……。地黄八幡を討ち取って鬼武蔵が武勇を北条の連中に思い知らせてやる!」


だがこの八幡の旗印を見た盛政はやっぱり先陣を務めたくなった。


「勝蔵に地黄八幡の相手は務まらん。我らこそがその役目に相応しい。全軍進めェ!」


かくして第六次川中島の戦いは佐久間盛政の抜けがけで始まった。

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