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17 タヌキ逃走

「これより我らは相模、伊豆より撤退致す。されど北条方の手出しは無用。これが和睦の条件でございます。」


小田原城は大広間にて徳川家の参謀の本多正信が言った。


「構わーぬが?我らが甲斐と信濃を攻めるのは……黙認するのじゃな?」


北条氏直が高圧的な態度で聞く。


「ははっ!我ら徳川はこれより中立の立場を取り北条家に対して一切の軍事行動を取りませぬ。」


「よろしいですな?父上ェ?」


「構わぬぞ。当主はお前じゃ、好きにせよ。」


「よぉーし、氏照殿。」


「ははっ!」


氏直は首だけ動かして叔父の氏照を呼んだ。


「3万の兵を率い、逃げる織田軍を追撃し、甲斐を攻めよ。」


「ははっ!承知致しました。」


氏照は頭を下げると直ぐに家臣を率いて出て行った。


「氏邦殿はァ、滝川に備えるのじゃ。」


「承った!」


もう1人の叔父の氏邦にも指示を出すと氏直は正信に言った。


「姑殿には、よろしく伝えておけ?」


「ははっ!」


正信は平伏すると城を後にした。

正信の報告を聞いた家康はすぐに全軍の撤退を始めた。


これにより北条家は撤退する織田軍への攻撃を始める。


北陸では進軍してきた最上軍を新発田重家が何とか敗走させ主だった変化はなかった。

しかし1週間のうちに信長が作り上げた勢力図は大きく塗り変えられるのだった。


播磨姫路城にて


「宇喜多め……。」


秀吉は送り返された山内一豊の首を眺めながら言った。


「殿、筒井順慶殿が紀伊を制圧したとの事。また和泉の蜂谷頼隆は我らに降るそうです。」


三成が報告した。


「南は磐石のようですな。あとは宇喜多を抑えれば信雄と柴田との戦に集中できます。」


蜂須賀小六の死と本能寺における活躍で羽柴家中一の権力者となった官兵衛が言う。


「行長を宇喜多の元へ向かわせよ。何としても奴を従えるのだ。」


その頃、宇喜多家では様々な情報が入っておりその対処にみな勤しんでいた。

信家も例外ではない。


「詮家と利勝は伯耆と因幡を落とせ!それから津田様と三七様にも使者を送るのだ!」


はぁ、中々疲れるな。

史実の宇喜多秀家ならここまでキツくなかったのに……。


「殿、行長がお目通りを願うております。」


全登が言ってきた。

秀吉め、どれだけ俺を味方にしたいんだ……。

まあ行長はスカウトしたいし会うか。


「通せ。」


早速俺は行長を部屋に通した。


「お忙しい中お会いして頂き……。」


「堅苦しい挨拶は要らん。お前に言いたいことがある。」


「はて?なんでしょうか?」


「お前、もう一度ワシの家臣になれ。」


「え?」


行長はキョトンとしていた。

まあそりゃそうだよな。


「お前は南蛮と繋がりがあると聞く。だからお前の力で備前の港を整えて欲しいのだ。」


「いやしかし、私には秀吉様が。」


「断るなら撃つぞ。」


俺は銃を構えた。

ほぼ脅しだけどこうでもしないと屈しないだろう。


「くっ……。八郎様も随分と厳しくなられましたな。」


なんだこいつ、ちょっと嬉しそうだ。


「どうする行長。お前は人質ということにしてやるぞ。」


「お受けしたいところですがわが妻子が……。」


「それこそ堺から逃がせば良いのでは?」


全登が聞く。


「そうじゃ、そうすれば良かろう。当家に縁のある商人に話をつけておく。」


行長は困惑している。

俺もちょっとジャイアンみたいなこと言い過ぎたかな?


「八郎様の強欲なところは変わっておられませぬな。仕方ありませぬ。この行長、これよりは八郎様の家臣になりましょう。」


まあこの流れで断ったら撃たれるもんな。


「よくぞ言ってくれた!早速金儲けしてまいれ!」


俺は行長の手を握って言った。

これで行長は宇喜多の家臣に戻った訳だが秀吉はキレるだろうな。


信家の懸念は当たっていた。


「おのれあの小僧!官兵衛!宇喜多を攻めるぞ!」


秀吉は行長からのお別れの手紙をビリビリに破りさいてキレた。


「お待ちくだされ。宇喜多よりもまずは東の信雄めを何とかする必要がありまする。美濃では小競り合いが既に起きておりまする。」


官兵衛が進言する。


「官兵衛の言う通り、まずは織田を黙らせてから中国は始末しましょうぞ。」


弟の秀長も言う。


「おのれ仕方あるまい!播磨と但馬以外の全兵力を安土に集めよ!信雄を叩き潰す!」


秀吉は畿内より三万の兵を率いて美濃に攻め込み

大垣城を包囲した。


「あまり集まりませんなんだ。」


官兵衛は自軍を見て秀長に言った。


「丹波や紀伊の兵は全て持っていかれてるからのう。織田方はいかほどおる?」


「越前の柴田と濃尾の兵を全てかき集めればそれなりの数になるかと。」


「互角と言ったところか。小六ら家族を失った兄上が選択を誤らなければ良いが……。」


「ご安心くだされ。常に私が殿の傍におりますゆえ。」


「うむ、任せたぞ官兵衛。」


羽柴軍の美濃襲来は直ぐに清洲城の織田信雄の耳にも入った。


「おのれ筑前め!美濃まで奪う気か!」


「徳川も動かぬようですし我らだけで戦う必要がありそうですね。」


堀秀政が言う。


「しかし我が軍は2万。柴田が来ないの話にならぬ。権六(勝家)はなんと申しておる?」


丹羽長秀が秀政に聞いた。


「雪が積もって動けぬそうです……。毛利河内守も木曾義昌も北条の動きが活発化しており……。」


「おのれ筑前め!このときを狙っておったか!」


「如何なさいますか?」


蒲生氏郷が聞く。


「ここは美濃は諦め雪解けを待って中国、四国勢と共に四方面から羽柴を討つべきでは?」


秀政が提案する。


「無念ですがそれしか今の我らに道はなさそうですな。中国も四国も到底兵を出せそうな状況ではありませぬ。」


長秀も悔しそうだ。


「父上に顔向けできぬなぁ。出来る限り羽柴の進軍を遅らせるよう諸城に伝えよ!」


信雄はまず大垣城主稲葉一鉄のこれまでの忠義への感謝の言葉と一族への厚待遇を記した矢文を放った。


「そうか、三介様は来られぬか……。」


「如何なさいますか、父上?」


書状を眺める一鉄に息子の重通が問いかける。


「如何致すとはどういうことじゃ?」


「羽柴側の黒田官兵衛より使者が訪れております。降伏すれば助命し美濃西部を与えると。」


美濃西部はだいたい20万石くらいはある。

それを全て与えるのなら破格の待遇だ。

しかし一鉄は顔色ひとつ変えない。


「ワシはな、今まで3度主君を裏切った。1人目は土岐頼芸様、2人目は斎藤道三様、3人目は斎藤龍興様じゃ。仏の顔も三度までと言うが上様はこれらの主君の中でワシを最も評価し最も信頼してくださった。いわば織田家に大恩のあるワシが何故織田を裏切る必要がある?」


「父上……。」


「この稲葉一鉄、柴田殿が来られるまでは耐え抜き上様の御恩に報いようぞ!」


一鉄は70年の人生の中で最も大きな声でそう言った。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新頻度が高いのでつい見に来てしまいます。 今まで読んだことない歴史の変化の仕方をしているので、自分もこれからどうなるか予想しながら楽しめるところ。 [一言] タヌキが何を考えているのか気…
[一言] 仲たがいしたとはいえ、斎藤利三(嫁が一鉄の娘)が存命なら、稲葉の血は残せるから、その選択は全然アリと言えばアリか
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