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16 真田昌幸の策

下野に入った伊達政宗率いる伊達、蘆名連合軍は大田原城を落とし宇都宮城の近くまで展開していた。


「関東の雑魚どもなど大したことないのう、小十郎!」


そう馬上よりドヤ顔で言う右目に眼帯を着けた男はこの軍の大将で伊達家次期当主とされる伊達藤次郎政宗だ。

弱冠17歳ながら2万の大軍を率いている。


「藤次郎様、我らの敵は関東の豪族では無く滝川左近将監にございます。決して楽な相手ではありませぬぞ。」


片倉小十郎が言う。

この二人の関係は八郎と全登の関係に似ている。


「はっはっはっ!滝川が優れていても奴の手足は関東の雑魚であろうが!宴を始めようぞ!」


伊達軍は諸城を制圧すると城にいた者を皆殺しにして進んでいた。

それを聞いて激怒したのは下野で最大勢力を誇る宇都宮国綱だ。


「ええぃ!伊達の小童如きが……。」


国綱が悔しげに言うと一益は同情の視線を送った。


「悔やんでいる時間はありませぬ。早く伊達を迎え撃つ準備をしなければなりません。」


昌幸が言う。


「で、どうするのだ?」


一忠が聞く。


「この戦は短期決戦に持ち込む必要がありまする。伊達は現在宇都宮城以北の中規模の山に陣を敷いており順調に戦も進み上機嫌でしょう。」


「されど伊達の大将の政宗はまだ若くおそらく我らの力を正確に測ることは不可能かと。ここは伊達軍を背後より奇襲し驚いて出てきたところを本軍で叩くべきかと。」


「おい、それってよ!」


そう言ったのは春日信達だ。


「それはかつて御館様が川中島の戦いでお使いになられた……。」


内藤昌月が聞く。

この2人は武田四天王の高坂昌信と内藤昌豊の跡継ぎだ。


「ええ、キツツキ戦法でございます。謙信ならともかく伊達の小童ならこれくらいで十分でしょう。」


「確かに我らの方が数は多く相手は油断しておる。それであれば春日と内藤に奇襲部隊は任せる。武田軍の武勇をしかと見せてくれ。」


「ははっ!」


一益の武田軍という言葉に2人は大いに喜んだ。


「一時、そなたも別働隊に回れ。武田四天王の跡継ぎの戦を隣で見てまいれ。」


一益は次男でまだ若い一時に言った。


「ははっ!お二人の采配をしかと学んでまいります!」


「それならば我が次男の源次郎も是非お供させたいのですがよろしいでしょうか?」


昌幸が聞く。


「ああ、構わぬぞ。源次郎よ、一時の事頼むぞ?」


「お任せくださいませ。」


源次郎が元気そうに言う。


こうして武田騎馬隊を中心とした一時を大将とする一万二千の軍勢と一益率いる一万三千の軍に別れた滝川軍は宇都宮城を超え伊達軍と睨み合った。


「ふははははは、小十郎よ見よ!我らより少ないでは無いか!恐らく北条の備えに半分は残してきたのだろうな!」


「そのようですな。しかし油断大敵ですぞ。」


「ああ、分かっておる。早う竜騎兵を使うのが楽しみじゃ。」


政宗は先進的な思想を持ち騎馬鉄砲を竜騎兵として組織していた。

機動力と攻撃力を持つ竜騎兵は期待の存在であり政宗からしたら新しいゲームのキャラを使うような気持ちだろう。


「いつ仕掛けましょうか?」


「兵たちの様子を見て決める。お主も準備しておけ。」


「ははっ!」


政宗は調子に乗っていた。

父輝宗には褒めちぎりられ周囲の者は初陣での彼の戦いぶりと眼帯をつけて戦うその姿から政宗のことを独眼竜と呼んだ。


「頃合ですな、早速攻撃させましょう。」


昌幸が使者を送ると別働隊が動き出した。


「行くぞ皆の者!武田家が魂はまだ死せずと世に知らしめるのじゃ!」


別働隊先鋒の春日勢が動き出した。


猛スピードで山に入った春日勢は油断していた伊達軍の背後より襲いかかった。


「藤次郎様!敵襲でござる!背後より敵襲でござる!」


それを聞いた小十郎は焦って政宗に報告した。


「ええい!山では竜騎兵も扱いにくい。1度山を降り敵を各個撃破するぞ!」


「それでは向こうの織田軍に挟み撃ちに……。」


「黙れい!山を下れば勢いで敵を突破できるわ!全軍進めい!」


こうして政宗の命令により山を下山することになった伊達軍に滝川鉄砲隊の弾丸が襲いかかる。


「見事に飛び出てきてくれたのう、昌幸。」


鉄砲の餌食になる伊達軍を眺めながら一益が笑いながら言った。


「この軍にはワシを含め武田のものが多くおります。それらを奮い立たせるためでございますよ。」


「父上!京より至急の知らせが!」


一忠が走ってきた。


「なんじゃ、報告せよ。」


「いや、その……父上にのみお知らせすべきかと思いまして。」


「なんじゃ?昌幸よ、すまぬが席を外してくれ。」


「承知致しました。」


昌幸は一礼して出て行った。


「何かあったのでしょうか?」


息子の信幸が聞く。


「恐らく畿内で何かあったのであろう。上様が亡くなられたか……?」


「なんと!それでは滝川様は撤退して仇を取られるのでは?」


「ワシもそっちの方がよいわ!」


「昌幸、もう良いぞ。」


一益に呼び戻され陣に入った昌幸は内心驚いた。

一益は顔色ひとつ変わっていなかったのだ。


(戦は続けるつもりか……。)


しかし隣の暗い顔をした一礼して忠を見て昌幸は信長が死んだと確信した。


その頃、戦場では蘆名軍が逃亡し伊達軍単体で戦っていた。


「藤次郎様!もはや我らの負けでござる!逃げましょう!」


「おのれ!覚えていろ滝川一益!」


「待たれい!」


逃げようとした政宗の前に真田源次郎が立ちはだかった。


「それがしは真田昌幸が次男、真田源次郎!大将でありながら不利になったらさっさと逃げるなど言語道断!お覚悟なさいませ!」


「うるせえクソガキ!逃げるが勝ちってものよ!お前らやっちまえ!」


政宗は近くの兵に任せると足早に逃走した。


「おい!逃げるな!」


源次郎も追いかけようとしたが結局逃げられた。


その日の夜、一益は諸将を集めた。


「皆の者、此度はご苦労であった。これより我らは陸奥へ向かう。」


「何故陸奥に?」


昌月が聞く。


「北条は上様と徳川殿にお任せし我らは佐竹と共に陸奥に攻め込み反逆者を討ち取るのです。」


一忠が説明する。


「出陣は明後日。それまでは各々宇都宮城にて休息いたせ。」


昌幸は全く理解出来なかった。


(なぜ陸奥へ?なぜ畿内に戻らない?)


この時一益は伊達と羽柴が繋がっているのを確信していた。

そして伊達を討つ事も信長の仇討ちになると考え北条は徳川に任せ自分たちは奥州を制圧することにした。


しかしこの一益の徳川家への期待はあっさり裏切られる事になる。


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