13 早すぎた戸次川
タイトル詐欺なのでは?とご指摘があったのでタイトルを変えました
本能寺の変から3日後。
豊後、戸次川沿い。
鶴ヶ城を落とした島津軍1万8千と織田軍2万は戸次川を挟んで睨み合っていた。
「なかなか仕掛けて来ませぬな。」
如三が言う。
「では我らから仕掛ければ良いのでは?」
三好康長が皮肉を込めて言う。
元々この2人は敵対していたので仲が悪い。
「康長よ、相手は島津じゃ。甘く見てはならぬ。それゆえこうして睨み合っておるのじゃ。」
信孝が康長を諌める。
「しかし我らが兵力は相手を上回っております。今仕掛けなくていつ仕掛けるのです?」
康長の言うことは最もだ。
そもそも織田軍が攻撃側なので攻めない方がおかしい。
「まだその時ではありませぬ。少なくとも中国勢が全軍上陸するのを確認してからの方が。」
如三が目を閉じたまま言う。
「だからそれでは遅すぎるのじゃ!我ら天下の織田軍が島津ごときにオドオドしてどうする!」
康長が元親に怒鳴る。
「確かに如三は慎重過ぎるかもしれぬな。岡本、少しばかり敵に仕掛けてこい。」
信孝が家臣の岡本良勝に命じた。
「お待ちくだされ。島津は毛利と違い軍才も兵個人の力も強うございます。下手に手を出すのは……。」
「父上、慎重過ぎて敵に舐められては話になりませぬぞ。」
信親が言う。
慎重に慎重を重ねる元親に対して信親はどちらかと言うと即時判断のタイプだ。
「お主までそう言うか……。」
元親は島津がなぜ仕掛けてこないのか疑問だった。
まるで何かを待っているかのように。
そして元親はこういう戦には慣れていない。
今まで戦ってきた相手は宿敵とも言える本山家を除いては大軍を持ってして格下の敵を圧倒するという戦ばかりしてきた。
兵力の差が僅かなこの状況で西国一と言われる島津を相手にどう動けばいいかを考えるのに必死だった。
「おっと、痺れを切らした織田側が出てきたか。」
対岸の高地より岡本勢がこちらに向かってくるのを確認した家久は笑いながら言った。
「又七郎様、迎え撃ちますか?」
忠元が聞く。
「おお、迎え撃て。そろそろ頃合じゃな。」
「申し上げます。京より急報でございます!」
織田軍本陣に今まで走ってきたであろう足軽がヘトヘトになりながらやって来た。
「なんじゃ?見せよ。」
信孝はその書状を受け取って読み始めた。
「……ッ!」
信孝は目を見開いたまま書状を落とした。
「三七様、如何なさいました。」
如三がそう言いながら書状を拾い上げた。
「まさか…………。」
如三も絶句した。
そこには織田信長、信忠討死のことが書いてあった。
「三七様、お気を確かに!今は目の前の戦に集中してくだされ!」
如三が信孝の肩を揺さぶるが信孝は固まって何も聞こえていないようだった。
「三好殿は三好殿はどこじゃ!?」
如三が辺りを見回すが彼の姿は見当たらない。
「まさかとは思いますが島津はこれを待っていたのでは……?」
信親が手を震わせながら聞く。
「つまり羽柴と島津は内通していたのか……。となると龍造寺も……。」
如三は全てを理解した。
ここで撤退しては敵の思う壷だ。
だが信孝はまともに指揮を取れる状態では無かった。
「三七様!上様が羽柴に討たれたと聞きました。ここは四国は戻り体制を整えて羽柴を討ち取るべきかと!」
どこからか戻ってきた康長がそう言った。
「そうじゃ……。サルを討つぞ……。」
「お待ちくだされ!ここで兵を引けば敵の思う壷でござる!」
「いや、ワシは決めた。四国へ戻り羽柴を討つ。良いな!」
くそ真面目な信孝の事だ。もう何を言っても聞こえないだろう。そう思った如三は膝を曲げて言った。
「私の手勢3千で島津を引き留めまする。その間に三七様はお逃げくだされ。」
「父上!?」
「良いのか!?お主の身が危ないぞ?」
信親も信孝も驚いた。
「本来ならば毛利や上杉のようになっているこの身を助けて頂いた上様のご子息を死なせる訳には参りませぬ。その代わりに信親のこと、お頼み申し上げまする。」
「うむ。そなたの忠義は忘れぬぞ!長宗我部の事は任せよ。もし生きて帰れれば四国で会おう。」
信孝は如三の手を握りしめ涙ながらに言った。
「父上!嫌でございまする!私は父上と共に!
」
信親は泣きながら元親を引き留めようとする。
「ダメじゃ!そなたの長宗我部の当主、ここで死んではならぬ。何としても三七様と共に上様の仇を討つのじゃ!良いな!?」
如三の迫真の勢いに信親はただ従うことしか出来なかった。
(ふん!見事に罠にハマってくれたな。)
それを見ながら康長はそう思った。
その頃対岸の島津本陣。
「又七郎様!三好殿より報告。織田勢が撤退を始めるようです!」
「よし!今ぞ好機!信孝の首を釣り上げるぞ!」
家久の号令とともに島津の精鋭が動き始めた。




