12 斬っちゃった
週間1位ありがとうございます!
「八郎殿、いくらなんでも強すぎでしょう。」
秀勝様が頭を抱えて言う。
いやお前が将棋弱すぎんだよ!
「少しは練習された方が良いかもしれませんな。武士の教養として。」
「そうじゃな。それにしても戦をするよりもここで将棋をしておきたいのう。」
いやそれ言っちゃいますか。
まあ俺も龍造寺と島津はガチで怖いけど。
「そろそろ昼飯にしましょうか。良い鴨が今日の朝、献上されたそうなので。」
「鴨ですか。それは楽しみですな。」
鴨って現代だとあんま食えるところないけど柔らかくて美味しいんだよな。
俺の命令を受けた側近と入れ違いで全登が走ってきた。
「丹波様、八郎様!一大事にございます!」
え?なに?まさかあれじゃないよな?
「京にて羽柴筑前守が謀反!上様と中将様が討ち取られ首を晒されている模様にございます。」
ガタン!
自分でも将棋盤を落としたのが分かった。
自然と力が抜けてしまったのだ。
「父上が……父上が!嘘じゃ!父上がそのような!」
秀勝様は事実を受け入れられていないようだ。
だが俺は秀勝様以上にショックだ。
史実と違う以上もう起こらないものだと思ってしまった。
いや起こって欲しくなった。
それほどまでに親父は大きくて憧れの存在になっていた。
「それで畿内の状況は?」
俺は涙を堪え全登に聞いた。
「当家の者によりますと畿内にはめぼしい有力武将はおらず既に羽柴の手の内に……。」
「細川や筒井がおるではないか……?」
秀勝様が涙を拭いながら聞いた。
そうだよ、あいつらは史実では光秀を見捨てたぞ?
「どちらも羽柴に呼応していたようにございます。」
えっ?つまり光秀と違って入念に計画されたモノなの!?
「となると丹波は……。」
秀勝様が悔しそうに言う。
まあ丹波は細川と羽柴に潰されてるだろうな。
「殿!羽柴様より使者が来られましたぞ。」
富川が入ってきた。
どうせ味方しろってことだろう。とりあえず話だけ聞くか。
「秀勝様、しばしお待ちくだされ。」
「よもや、羽柴に付くわけでは無かろうな?」
「無論そのつもりでございます。」
秀勝様を退席させると俺は使者を入れた。
「羽柴家家臣、山内伊右衛門一豊にございます。」
あれ?行長がじゃないのか。
こいつみたいな虎の威を借る狐はあんまり好きじゃない。
「上様を討ち取ったそうだな?今更何の用だ?」
俺は上座より低い声で言う。
「お耳が早いようですな。我が主、筑前守は先代の宇喜多直家様とは入魂の仲であられました。此度もその誼により宇喜多様にはお味方して頂きたく。」
「ほう?どのようにして味方になれと?」
「ここにおられる丹波守秀勝様の身柄を引き渡し備後に兵をお出しして頂きたい。」
「断る。」
俺はキッパリと答えた。
羽柴が勝てるわけが無いと分かっているからだ。
例え細川と筒井が味方になろうと柴田も滝川も丹羽も明智も黙っていないだろう。
「誠によろしいのですな?」
山内は腹立つ顔でニヤニヤしながら言ってきた。
そこで俺は親父を失った怒りが爆発した。
「黙れ!この謀反人が!誰のおかげでお前らのような土人が今の立場になれたと思っておる!この嫁の力で出世したカマ野郎が!」
そう言うと俺は親父から貰ったサーベルで山内の首を切り落とした。
「と、殿!」
全登と富川は唖然としていた。
そりゃそうだよな。
「八郎殿!よく申してくれた!この秀勝、できる限りの力を貸そう!」
隙間から見ていた秀勝様が俺の手を握りしめて言った。
「お任せくだされ!まずは明智殿と三七様にこの事を報告しお戻りになるのをお待ち致しましょう。」
「うむ。されどそなたは大丈夫なのか?」
「問題ありませぬ。全登、1万は国境付近に集めよ。明智殿が戻られるまで備前は何としてでも守り通せ。」
「ははっ!」
「通安!お前は備中の詮家に使者を送って兵を送るように命じよ。美作の兵は但馬より流れてくる羽柴の備えに動かすな!」
「承知致しました!」
「何としても親父の仇を取るぞ!良いな!」
俺は声を荒らげて言った。
多分史実の秀吉が明智殿になっただけだろう。大丈夫だ、大丈夫。
俺は自分にそう言い聞かせた。
その頃、筑前の立花山城を超えた織田軍の前には想像を絶する光景が見えていた。
「フフフフ。まさかここまで揃えるとは、思ってもいませんでしたよ。」
光秀は不気味に笑った。
その光景は龍造寺、秋月の5万の大軍だった。
事前情報ではせいぜい3万が限界と光秀も信澄も聞いていたので信じ難い事だった。
「義父上……これは一体?」
「おかしいですね、龍造寺と秋月はせいぜい3万と羽柴殿から聞いております。それを分散させるのですから2万が限界かと思っていましたが……。目下5万と言ったところですね。」
「我が方は3万。これは厳しいですぞ。」
信澄は額から汗を垂らしていた。
「フフフフ。しかし装備はこちらの方が圧倒的に上のようですね。見てみなさい、敵はほとんど鉄砲を持っておりませぬ。対してこちらは鉄砲1万丁に石火矢100門。新しい戦というモノを教えてあげましょう。」
光秀は采配を振り上げた。
「伝吾、鉄砲隊に射撃の準備をさせなさい。別働隊が敵の本拠を着くまで待つのです。」
光秀は家臣の藤田伝吾に命じた。
(しかし何故羽柴殿ともあろう人が兵力を見誤ったのだ?何か裏がありそうだな……。)
光秀は顎髭を擦りながら思った。




