8 京都に来た
元親の名前が初めは雪渓だったじゃねえか、と思うそこのあなた。
忘れてください
天正11年、9月。
信家は全登達を連れて上洛した。
これは従五位下備前守への任官と信長への挨拶のためである。
「おお、すげえ!清水寺だ!」
京都に来た俺達は何故か観光していた。
「八郎様は京にお越しになるのは初めてでございますか?その割には詳しいですな。」
案内してくれるのは織田家の京都所司代の村井貞成。昨年父親の貞勝が死んでからその役を受け継いでいる。
「しかしわざわざ村井殿にご案内して頂き大丈夫なのでしょうか?徳川様や北条様、長宗我部様もお越しになられていると聞いておりますが。」
全登が申し訳なさそうに聞く。
「ご案じなられますな。まだ到着されておりませぬし他の方が案内されるゆえ。」
てことは俺らはVIP待遇なのか?
いやでも京都ってマジで変わらないな。
修学旅行は北海道と沖縄だったし初めて来るけどマジで写真通りの街だ。
碁盤の目になってるし親父が建て直したのもあって活気のある町だ。
「村井殿、宇治川はどこにありますか?」
俺は京都の人間じゃないので知ったこっちゃない。(筆者は京都人)
「えっ?宇治川ですか。少し遠いですがご案内しましょう。」
歩くこと2時間半、いや遠すぎだろ。
「それで八郎様。何をされるのですか?」
貞成が恐る恐る聞いてきた。
そんなもの決まってるだろ!
「宇治丸を捕まえるぞ!」
宇治丸、現代で言う鰻が俺は猛烈に食いたいのだ。
近くにいる漁師たちも総出で宇治丸を大漁に手に入れた俺たちは早速味付けをして焼き始めた。
「殿……何故そのように泳ぎが上手くなっておるのです……。」
「川で1ヶ月も泳いでいたら上達するに決まっておろう。」
「八郎様は川で泳いでおられるのですか?」
貞成は苦笑している。
「あ、いや村井殿。これには訳がありまして……!」
全登が必死に弁明しようとする。
「いえいえ、父上から聞くところによると上様も昔は川で泳いでおられたそうでございます。八郎様は上様によく似ておられますな。」
そう言うと貞成は笑いだした。
周りのみんなもそれにつられて笑ってくれたので変な目で見られることはなくなった。
それにしてもいつの時代も鰻の蒲焼は美味いな。今度うちの料理人に頼んでうな重を作らせてみるか。
ちなみに宇治丸の知識はとある漫画で身につけたぞ?
京都旅行2日目はいよいよ備前守への任官の儀式だ。
従五位下になると昇殿が許される。
つまり帝に会えるわけだ。
まあ現代だと道路から見れるけどねw
公家の連中はみんな上品だけどやっぱ京都人っぽくて腹黒そうな奴ばかりだった。
そしてその夜は二条城で親父への挨拶と宴だ。
「此度は上様のご推挙により備前守への任官がなった事。誠に恐悦至極に存じ上げまする。」
そう言って俺や全登達は大広間の上座に位置する親父に頭を下げた。
「面をあげい。備前守に任ぜられたからにはこれまで以上に働いてもらうぞ。良いな?」
「ははっ!お任せくだされ。」
他の人の挨拶もあるらしく直ぐに部屋を出た俺たちの元に20半ばくらいの男がやってきた。
「おお、そなたが八郎か!ワシは北畠三介信雄じゃ!」
は?北畠信雄って親父の次男じゃねえか。
「これは三介様!お初にお目にかかりまする。宇喜多備前守信家でございます。」
「ははははは!堅苦しい挨拶は要らん。そなたに渡したい物がある。」
そう言って信雄様は俺を外まで連れ出した。
「お主暑いから川で水浴びをしておるのじゃろ?だがこれさえあればそれも必要ないぞ!」
そう言って信雄様は紐のついた扇風機みたいなのを渡してきた。
あれ?これ映画であったやつじゃね!?
「ワシが考えた扇風機じゃ!この紐を引けばこの扇が回り涼しくなるぞ!」
「頂けるのですか?」
「ああ、そなたにやろう!これから使うが良い。」
気持ちは嬉しいし欲しかったけどもう秋だし水浴びじゃなくて水泳だぞ!?
「おい三介。信家殿に何を絡んでおる?」
そう言いながらやって来たのは親父に似た信雄様と同年代のイケメン。
「もしや岐阜中将様……?」
「おお、よう分かったな。やはりワシは父上に似ているようだ。紹介が遅れたがワシは織田三位中将信忠。そなたの話は父から聞いておるぞ。」
おお、次の当主だ。いや現当主か?とりあえず親父に似てる。
「そなたは父上の養女を妻にし烏帽子親も父上じゃ。我らの事は兄のように頼るが良い。まあ三介は頼れぬじゃろうがな。」
信忠様は冗談を混じえて笑いながら言う。
「失礼な!ワシとてお主の役に立っておるよのう?」
まあ扇風機は嬉しいけど……。
バカ殿かと思ってたけど気が利くバカ殿だな。
信雄様は。
「おやおや、賑やかな事。兄上達もお元気そうで何よりです。」
あっ信孝様だ。
「おお、三七も来ておったか。となるとそこの御人は長宗我部如三殿か。」
信忠様は隣のスキンヘッドの人を見て言う。
長宗我部如三?長宗我部家にそんな人いたか?
「中将様もご存知でしたか。長宗我部如三にございます。こちらは嫡男の信親でございます。」
隣のジャニーズ風の青年も頭を下げる。
ってことはこのハゲは元親か?
「信家殿。こちらの信親殿はそなたの義兄である。挨拶しておけ。」
信忠様がそう言うけどなんで俺と信親殿が義兄弟なんだ?
「ははは、ピンと来ていないご様子ですな。ワシの妻は貴殿の妻の姉の茶々でござる。」
信親殿が笑いながら言う。
そう言えば創作物だと信親殿と茶々って結婚してること割とあるよな。
「ああ、そういうことでありましたか。宇喜多備前守信家でございます。」
「長宗我部土佐守信親でござる。丁寧な挨拶痛み入る。」
めっちゃ姿勢綺麗だ。
流石は如三殿の英才教育を受けただけある。
「もうそろそろ宴の時間じゃな。案内しよう、着いてまいれ。」
信忠様がそう言うので俺達もついていった。
会場に入ると既に羽柴殿の家臣たちが忙しなく準備していた。
接待の担当は羽柴殿なのか。
「おお、行長!元気にしておったか?」
そこで俺は知ってる顔を見つけた。
元宇喜多家の家臣で俺の遊び相手だった小西行長だ。
「八郎様であられますか!お元気そうで何よりでございます。」
行長は笑顔でこっちまで来てくれた。
まあ運命のイタズラか俺とこいつは史実なら共に戦って負けるんだけど。
「羽柴家はどうじゃ?堅苦しい思いはしておらぬか?」
「ええ、筑前様のおかげでこのように。紹介しましょう。私の友人の石田三成です。」
えっ!?石田三成!?
推し武将来たァァァァァ!
俺は勝手にテンションが上がった。
「石田三成でございます。お噂はかねがね。」
イメージ通り賢そうで無愛想だ。
そういう所が憧れる。
「先の戦のお話など是非お聞きしたいところですがもてなしの準備で忙しいのでこれにて。」
三成はそう言うとさっさと準備に戻った。
いや俺たち運命共同体なんだけど?
「申し訳ありませぬ。無愛想なやつでして。されど槍を握らせても采配を握らせても筆を握らせても一級でござる。私も用意がありますのでこれにて。」
いやぁ行長も三成もやっぱかっけえな。
絶対仲間にしたい。てか家臣にしたい!
そう思いながらワクワクする俺のところに一人の男が挨拶に来た。
「徳川左近衛少将家康でござる。」
その瞬間俺の顔が引きつった。