#7 キャンディの価値
そんな風に、学校で時折すれ違ったり、沙絵先輩が私の教室の前を通るときに立ち寄ったりしてくれて、キャンディをひたすら交換する日々が続く。私はそれらのキャンディをひとつだけ食べただけで、あとは食べずに家のキャンディ入れに貯めてある。なんか、もう、本当に誰にも言えない。
ある日部屋のベッドで雑誌を読んでいると、妹の早紀がやってきた。
「珠理ー。何してんの?」
昔から甘えん坊の早紀は、父にも母にも私にもよく甘える子だ。用もないのに私の部屋にもこうしてよくやってくる。ひとりが好きな私はぶっちゃけ面倒臭いときもある。どうせ彼氏の話を聞かされるだけだからだ。
早紀は私の机に置いてあるキャンディ入れの容器を見つけると、蓋を開けた。
「あ、一個ちょうだい」
そう言って沙絵先輩がくれたキャンディをひとつ取った。
「ダメ!!!」
思わず自分でも驚くほどの声が出る。たかがキャンディひとつに、そんなに声を荒げることでもないはずだ。だけど、咄嗟に大きな声が出てしまったのだ。
「何よぉ。そんな怒らなくてもいいじゃん」
そう言うと、早紀は大きな音を立ててドアを閉め、部屋を出ていった。
はぁ…。私は一体何がしたいんだ。読んでいた雑誌を放り投げ、ベッドに仰向けになる。キャンディくらい、沙絵先輩と声を交わす人なら、きっと誰でももらってる。しかもキャンディだよ?そんなに私キャンディ好きだったっけ?むしろチョコ派だっつーの。しかしながら、単なるキャンディ以上の価値がある気がするのだ。
私は元々、女の子同士の恋愛には抵抗がない。父から、愛する人に年齢や国籍、性別は関係ないと教わって育ってきたこともあり、男女でも、男男でも、女女でも、組み合わせは自由だと思っている。私は女の子が好きなんだろうか。男の子が好きなんだろうか。もしくはどっちも好きなんだろうか。ていうか、ていうか、人を好きになるって、どんな感じなんだろうか。
そんなこんなで、煮え切らない日々が続く。ある日、いつものように沙絵先輩と階段のところですれ違った。珍しく、サヤカさんや和風美人先輩はいない。沙絵先輩ひとりだ。私は晴香と一緒に、移動教室へ向かうところだった。
「おー!珠理ちゃん!」
「こんにちは」
「今日はポニーテールじゃん」
「あー。朝時間なくて」
「可愛い可愛い」
あー。もうー。それはやめていただきたいやつだ。どう反応していいかわからない。そこになぜか晴香が首を突っ込んできた。
「いつも珠理がお世話になってます!珠理ってホント愛想ないでしょ?でもね、中身はまぁまぁ優しいんですよ。意外と女の子らしいところもあるし。可愛いところもあるんですよ」
おい。いい加減にせんか。そう思って私は晴香を睨みつける。
「ちょっと。やめてもらえる?」
「あー、ごめんごめん。とにかく、珠理のことよろしくお願いしますぅ。では私はお先に失礼っと…」
コイツこの世で一番無責任だ。晴香は散々お節介なことを言って、私を置いて階段を上がっていってしまった。
「マジで、ほんっと、すみません」
私はウンザリ感を噛みしめながら沙絵先輩に言った。
「なんでよ。いい友達じゃんか」
「いやいや。よくもあんなペラッペラペラッペラ、言わなくていいようなこと口を突いて出ますよね」
「いやぁ、沙絵は愛を感じたよ。あの子名前なんて言うの?」
「晴香です。もう、アイツ絶対許さん…」
「あはは。晴香ちゃんにもよろしく言っといてー。今日の飴はね、お手紙つきなんだよ。はいどうぞ」
そう言って沙絵先輩は、折りたたまれた薄いエメラルドグリーンの紙を、キャンディと一緒に手渡した。
「あ、ありがとうございます!…私も、これ」
そう言って、いつものキャンディをひとつ、沙絵先輩に渡した。
「沙絵は、フツーに珠理ちゃんって女の子らしいと思うけどなぁ?…おっと、やべぇ遅れちゃうね!んじゃ、まったねー!」
私の反応を待たずして、沙絵先輩は階段を降りて行ってしまった。
何故だかしばらく私はそこを動けなくて、次の授業に遅れて先生に怒られた。