#5 女子力ってくねらせ力
ある日掃除の時間に、クラスメートの智美が声をかけてきた。この智美というのが正直言うと私がゾッとしてしまうレベルの苦手なタイプだとここで告白したい。女子感をパーセンテージにして表すならば250%くらいはいくだろう。
サラサラのロングヘアは綺麗にブローされ、ツヤツヤの唇にくるんと上がった睫毛に囲まれた目はパッチリとした二重の目。メイクも全パーツ仕上がっていて、それらは一体朝どれくらいの時間をかけているのだろうと感心する。その女子力の高さは尊敬するにしても、口の中にスライムを入れてるんじゃないかってくらいにネトッとした喋り方をするのが何とも私には耐え難い。ここまで言っておいて何のフォローもしようがないが、男にはモテそうな感じだ。出るところは出て、細いところは細い。まぁ、一言で言えば、めちゃくちゃ可愛い。
「ねぇねぇ珠理、こないだ沙絵さんが珠理に会いに教室来てたでしょ?沙絵さんと仲いいの?」
そもそもこの手の質問が苦手な私だが、苦手なタイプの人から聞かれると余計に警戒してしまう。
「うーん、すれ違えば挨拶するくらいだよ」
嘘はつけないので真実を言うまでだが、あまりこれ以上掘り下げないで欲しいのが本音だ。
「学校の外では会ったりしないの?」
「しないしない。連絡先も知らないしね」
「へー。でも珠理と沙絵さんって、接点無さそうじゃない?」
ちょっと待ってくれ。これらの質問の真意が知りたい。何の為に沙絵先輩と私の仲について知ろうとしているんだ。それがわからないうちに色々話すのは避けたい。
「接点ないよ。ちょっと前に借り物しただけ」
「借り物?何借りたの?」
どーでもよくないか?借りたのが傘だろうがハンカチだろうがパンツだろうが、何を借りたのかまでお知らせする義務が私にあるだろうか。いや、ないはずだ。
「傘、借りたの」
「へー。傘かぁ。それ以上はないの?」
借り物に以上とか以下とかなくないか?と一瞬思ったのだが、智美の言う「以上」は借り物に対する「以上」ではなく、関係性に対する「以上」のことを言っているような気がする。
「ないない」
とりあえずこの会話を一秒でも早く終わらせる方法を考えつかなければ。ここは掃除に集中する私を演出だ。ひたすらモップを、理科室の隅から隅まで走らせた。
「そっかぁ。じゃあ、トモとも仲良くしてくれるかなぁ」
知らねえよ。私は「うん、智美とも仲良くしてくれると思うよ!」とか無責任なことを言える立場にはない。適当に笑ってごまかすしかないのだ。
自分に自信のあるタイプというのは、行動的である確率が非常に高い。拒否されることはないだろうと思っているからだろうか。
翌日、私の教室の前を通った沙絵先輩ご一行が、義理堅く教室に立ち寄った。
「珠理ちゃーん。いますかぁ」
沙絵先輩が窓から私を呼ぶ。
あぁ、もう。呼び出しはちょっと止めて欲しい。でも迷惑ではないのだ。なんなら若干嬉しいような気もする。もしクラスメートが教室にひとりもいなければ、顔には出さねども隠れて尻尾くらいは振っている。しかしクラスメートの目が非常に気になるのだ。
その隠した尻尾の意味を説明するが、私はキャンディを常備するようになっていた。傘のお礼にとキャンディを渡し、沙絵先輩からもキャンディをもらったその日から、キャンディをポーチに入れて持ち歩いている。勘違いしないで欲しいのだけれど、何も沙絵先輩専用と言うわけではない。晴香にもあげるし、自分で食べたりもする。なんか口寂しい時とかに。ただ、沙絵先輩がキャンディをくれた場合に私が貰いっぱなしになるというのが心苦しいだけだ。そんな風に言い訳はするけれども、沙絵先輩からもらったキャンディはひとつも食べずに取ってあったりもする。そこに意味はない。…はずだ。
私は忍者のようなさりげなさで沙絵先輩のところへ駆け寄り、一言二言でキャンディの交換をするという、なんともよくわからないコミュニケーションの取り方を相変わらず続けている。
そこで、自分に自信のある智美様のお出ましだ。
「沙絵せんぱ~い。私もキャンディ欲しいですぅ」
あぁぁ。止めてくれ。キャンディというのはねだるものではないはずだ。キャンディくらい買えるだろうによ。そうじゃないことはわかっている。しかし、なんとも気分がどんよりとするのだ。ほんでどこから出してんのその声。
「いいよー!あげるよー!」
おいおい、沙絵先輩もメシア様かよ。そんなことし始めたら明日からはキャンディを袋で用意しなくてはならなくなるだろうに。
キャッキャッとはしゃぎながらキャンディを交換する智美。女子とはこうあるべきなのか?まるでトイレを我慢しまくっているかのように、膝と膝をすり合わせて体をくねらせなければならぬのだろうか。極めつけはサラサラロングかき上げ大作戦ときた。
ねぇ神様。やっぱり智美みたいなのが、モテるんでしょうか?くねらせ、かき上げ、ボディタッチ。これができる女子が「女子」と呼ばれるなら、私明日からゴリッゴリの男子でいいっす。