#4 和風美人先輩
女っていうのは、それまで友達友達ってなっているかと思えば恋人ができた途端に恋人最優先になりがちだと思うのは私だけだろうか。
晴香も、この間までは部活のない日は放課後にマクドへ行こうだとかモスで勉強しようだとか誘ってきていたくせに、彼氏ができた途端私の存在は後回しになっていて、苦笑ものだ。
それだけ楽しいということなのだろうから、それはそれで喜ばしいのだけど、なんだかなぁと思うこともなくはない。
でも、恋愛は友情にはない強烈な幸せが得られるということなのだと理解している。
昨日は彼氏から手を繋いで来てくれたとか、最近会えばすぐに体を求められるとか、ノロケのつもりはないのだろうが、まぁそれは100人中150人がノロケ判定を下すよねっていう話題ばかりだ。
いつものように話を適当に聞きながら、なぜか私は沙絵先輩のことを考えてしまう。
彼氏はいるのだろうかとか、女の子とつき合っていたという噂は本当だろうかとか、考えても答えなど出ない、しょうもないことに考えが巡るのは私らしくなくてあまり好きではない。
私のことをお気に入りだというサヤカさんの証言の真偽の程は不明だが、仮に本当であれば、お気に入りというのは一体どういう意味なのだろうなどと考えてしまうのだ。
私は女の子を「お気に入り」だと思ったことはない。小学生の頃、隣のクラスに転校してきた女の子のことがなぜか気になることはあった。
背が高くてスラッとしていて、眼鏡が知的な子だった。話をしてみたいと思っていたが、違うクラスで共通の友達もおらず、接点が全くなかったので結局卒業まで話す機会もなく、別々の中学に進学した。
あの子は私の「お気に入り」だったのだろうか。未だにどういった意味であの子のことが気になっていたのかはわからずじまいだ。
沙絵先輩は友達と3人でいることが多い。この間のサヤカさんと、もうひとり小柄で髪の長い、和風美人の先輩だ。沙絵先輩とサヤカさんの会話からはそれらしき感じはなかったが、もしかしたら和風美人先輩とはそれらしき仲である可能性もある。
背が高くてボーイッシュな沙絵先輩と、小柄で女子力高めの和風美人先輩、これはなかなかのお似合いなのではなかろうか。私もどちらかといえば和風の顔立ちだが、美人かと問われるとこれまた「人によります」としか言えないような微妙なラインだと自己分析している。しかもこの愛想の無さと、コミュニケーション能力の低さだ。街頭で和風美人先輩と私を並べて、つき合いたい方にシールを貼るなんていう企画があれば、和風美人先輩は顔が見えなくなるほどシールを貼られることだろう。一方私の方はといえば顔丸見えで閑古鳥が鳴くであろうこと間違い無しだ。
これは和風美人先輩とデキているな。証拠?そんなもの、ない。ただ私がそうなのではないかと思う、というそれだけだ。だって美人だし。女子力高いし。街頭アンケートでは私に圧勝だし。間違いなかろう。沙絵先輩と和風美人先輩はそういう関係だ。
しかしながら和風美人先輩という存在がいながらにして、沙絵先輩は日々取り巻きの後半へのスキンシップや声かけに余念がない。後半たちは一体沙絵先輩にどんな気持ちを抱いて近寄っているのだろう。