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だいすきなひと  作者: 高塚しをん
3/8

#3 お気に入り

突然ではあるが、私はバンドをしている。うちの父はライブハウスを経営していて、かつてはプロを目指したクチだ。その時のバンドメンバーの子供を集めて、親の楽しみとしてバンドを組まされたのだ。


幼なじみ達とは家も近く、同い年ばかりで小さい時からいつも遊んでいた。もっとも性格もバラバラだから、みんなでキャッキャ遊んでいたわけでもないのだが。


メンバーはそれぞれ、自分の親の担当していた楽器を半ば強制的に持たされた。私はベース。ピアノが弾ける母の影響で、元々はピアノを弾いていたのだが、上手さではひとつ下の妹の早紀にあっという間に越された。負ける勝負はしない私は、アッサリとピアノを辞め、父の弾いていたベースを持つようになった。性格的にもベースが向いている。目立たないけど、いないと困る存在。そんな縁の下の力持ち的な役割って最高にカッコいいと思っている。


メンバーはボーカルの南にギターの里菜、キーボードは妹の早紀。ドラムのかれんと、ベースの私だ。南は別の高校に行っていて、早紀はまだ中学生だが、あとのメンバーはみんな同じ高校に通っている。


軽音部に入ってはいるものの、メンバーが他校にいることもあり、あまり学校で音を出すことはない。父のライブハウスが空いている時間に集まって、なんとなく練習をする。そんな感じだ。



そんな日々なので、私はよく学校にベースをかついで行く。自慢にもならないけれど、私は学校でも地味な方だ。いわゆるギャルではないし、かといって真面目な勉学少女でもない。強いて言うなら音楽バカというやつだ。


その日もベースを肩にかけて、学校へ歩いていた。すると、後ろから聞き覚えのある声がした。


「珠理ちゃんー。じゅーりーちゃーん」


振り向くと、沙絵先輩だった。


「ねぇそれ何?ギター?」


沙絵先輩は、私のベースを見て言う。


「あ、これベースです」


「ベースかぁ。ギターとは違うの?」


「違いますね。でも似たようなものですよ」


そこで、ベースとギターの違いでも話せばトークは広がるのだろうが、それができないところが私のコミュニケーション能力の低さを物語っている。


「へー。カッコいいね!バンドとか?」


「そうです」


「そうなんだ!すげー!ライブとかやるの?」


「時々は、しますね」


ねぇ、私ほんと何でこんなにもコミュニケーション能力ないのかね。もう少し、上手に話とか、できないものか。


「えー!今度観たーい。やるとき教えて!」


「わかりました。次のライブ決まったら教えますね」


ほら、私こういう適当なこと言う。教える気もないのにさ。


「うんうん!教えてねー!友達と行く!

じゃ、沙絵もう行くね。まったねー!」


そう言って沙絵先輩は走って行ってしまった。


朝から元気な人だなぁ。先を走って行った沙絵先輩は、途中で友達を見つけたらしく、友達と喋りながら昇降口へ入って行った。



それからと言うものの、学校ですれ違うと沙絵先輩は必ず私に声をかけてくれるようになった。たいていは友達と一緒だ。沙絵先輩も相当な美人だけど、いつも一緒にいる友達も綺麗な人だ。類は友を呼ぶと言うやつか。


教室が同じ階なので、割とよく会う。沙絵先輩は、会う度に、前にくれたキャンディをひとつくれた。


その日も移動教室へ行こうと階段を上がるところで、沙絵先輩に呼び止められた。


「あー!珠理ちゃんだぁ」


「こんにちは」


「あれ、今日おだんごなんだねー」


いつもは下ろしている髪を、その日はたまたまおだんごにしていた。沙絵先輩はそれに気づいたのだ。


「おだんご可愛い!」


すると横にいた、沙絵先輩の友達がすかさず言う。


「沙絵さー、そうやってナンパすんのやめなよ。だからチャラいって言われんだよ」


「別にチャラくないしぃ。可愛い人を可愛いと言って何が悪いのだ」


「いやいや、そう言うのを人に言いまくるのがチャラいんだって」


「うるせーよ」


私、完全に置いてきぼり。ポカンとしてると、沙絵先輩の友達が言った。


「ごめんね、沙絵ってホントズカズカ来るでしょ?」


「い、いえ…」


ズカズカ来ませんとも言えないこのズカズカ具合だが、美人だから許されるのか。美人て得ね。


「でもさぁ、沙絵、悪い子じゃないから。珠理ちゃんは沙絵のお気に入りなんだよ」


「えぇ!?」


お気に入りって何!?と思わず変な声が出てしまう。


「おいサヤカ。訳のわかんねーこと言うんじゃねえよぉ。ごめんね珠理ちゃん、コイツも悪いヤツじゃないんだよー」


「あぁ、いえいえ…」


「だって沙絵言ってたじゃん。1年の珠理ちゃんが可愛いとかなんと…」


「ま、そういうわけで!珠理ちゃんまたねー!あ、飴あげる!」


サヤカさんとおぼしきその友達が発言し終わらないうちに、沙絵先輩は私にキャンディーを渡してサヤカさんを引きずって行ってしまった。


お気に入りですか。


お気に入り。お気に入り。お気に入り。何の意味もないことなんだろうけど、何せワタクシ色々と疎いもので、そういうのちょっと気になってしまうのだ。


まぁでも、サヤカさんの言う通り、正直言うと沙絵先輩はチャラい風だ。誰にでも愛想が良いし、後輩に取り囲まれているところもよく見かけるけれど、ハグしたり、髪の毛を触ったりなんていうスキンシップも激しい。


悪い人じゃないっていうのはわかる。けれど、可愛いっていうその言葉も、簡単に口から出るものなのだろう。

私は他の女の子とは違う。可愛いと言われたからって、キャーキャー喜んだりしない。


…とか言うけど、私も一応女の子だ。


可愛いとか言われると、気には、なる。


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